表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/105

━━━第二章・荒ぶる湖畔のスシ屋台━━━ 2


「ちょっと下がっておくんなまし。危ないでっせぇ!」

 大声で言い放ったオヤジは、二本の包丁を両手の平でくるくる回転させた後、奇声を上げる。

「うっほほぁーっ」

 次に、再び口にくわえた魚を宙へ放り投げる。

「たたたたたたたたたぁーっ」

 ひらめく太刀筋は流星のごとくなり。

 魚は瞬時にて刺身に、その姿を変えた。

「おーおー、すごいすごい……はやくクワセロ!」

 つまんない大道芸を見せられたって表情で、ほとんど棒読みに近い口調のキサ。

「すっげぇ……」

 一方、双七郎そうひちろうは胸の高鳴りを感じていた。鎮西地方ちんぜいちほうの大剣豪として有名な猿宝斎えんぽうさいも、滝を真っ二つにした等の、にわかには信じられない逸話が数々あるのだが、先ほどの当たりにした剣技も充分そのレベルに達していたように思える。

 彼はおそらく、猿宝斎えんぽうさいとは別人であろう。ただ、指導を受ければ確実に今より強くなれる。あだ討ちの悲願を果たせるかもしれない。

「あんた……いや、貴方様は天下に名の通った武芸者ぶげいしゃと見……、お見受けしまして、お願いがある……、ございます」

 居ても立っても居られないという言葉は、こういう時の為にあるのだろうか。使い慣れない丁寧語ていねいごを記憶から引き出しながら、双七郎そうひちろうは土下座すらしていた。

「是非ともこのオレに武芸ぶげいを教えてくれ……下さい。どうしてもかたきを取りたいんだ!」

「顔を上げておくんなまし。大の男が、そんな簡単に土下座しちゃあいけやせん。それに、ワテはただの鮨屋すしやでおます」

 ネタとシャリを手に、すしをぎゅっぎゅっと握りつつ、穏やかな表情で答えるオヤジ。

「あんな技見せられて、ただの鮨屋すしやな訳ねぇよ! 頼むっ! 弟子にしてくれぇ!」

「ワテは誰がなんと言おうとも、弟子は取りまへん。堪忍かんにんしておくれやす」

「いい加減に……」

 ムサ苦しい男二人のやり取りをながめてたキサの目が、ヤバいほどわっている。その右手は湯飲みの方へ伸びていき──。

「しなさいよっ! あたしゃハラヘッてんだよぉ!」

 大癇癪だいかんしゃくを起こしたキサは、周りのあらゆる物を投げつけてきた。湯飲みから始まり、小石や枯れ草など。

 あたふたとける双七郎そうひちろうと、あふれんばかりの背筋はいきんで防御に徹するオヤジ。

「キサ、落ち着けっ」

「激しいやっちゃなぁ……ほれ、できたでぇ!」

 オヤジの筋肉がびくんと躍動した直後、流麗りゅうれいな投球フォームで投げられたすしは、見事キサの口の中へストライク。

「むぐっ」

 それによってキサの手が一旦止まり、口をむしゃむしゃと動かすのだったが──。

「ふう……おさまったか」

 双七郎そうひちろうがホッと胸をで下ろしたのも束の間、

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ