詐欺師の話
前文
僕は、小さい頃におじから言われたことが、いまだに忘れられない。 きみの悪い低い声で言われたあの言葉を、
「ゴミってのは、そこらじゅうに転がっているだろう。それと同じように、ゴミのような人間なんて吐き気がする程に、気分が悪くなるくらい、そこらへんにうじゃうじゃといるんだ。」
かなり濃いであろうコーヒーを一口飲み、一拍おいてから言葉を続けた。
「だから、そんなゴミみたいな連中なんざ気にしていないで普通に生きてりゃあ、いい事あるんじゃねえのか」
その頃の僕には、小学三年生だった僕には少し難しい言葉ではあったが、その言葉の意味を理解するまでにそこまで時間はかからなかった。
当時、とある小学校の第三学年の僕のクラスでは、イジメが起きていた。
イジメがあったと言っても、僕が虐められていた、ということではなく、僕のクラスメイトが虐められていたのだ。
折れてしまいそうなほど細く、透き通るほど白い肌の女の子が虐められていた。
止めようとも思った、カッコよく助けてヒーローみたいになりたかった。
しかし、そんな威勢のいい事を考えても、体は正直だった。その場を動けず、立ち尽くしていた。
暴言を言われ、物を投げられ、鉛筆を折られ、誰からも相手にされず、そんな彼女の姿はあまりにも悲惨すぎて見ていられなかった。
先生は気づかなかった。こんなにも露骨なイジメが起きているのにもかかわらず、気づかれなかった。
原因は、イジメの被害者である女の子だ。虐められている立場にありながらそれを全く気にしない様子で学校に来ている。
そんな彼女の態度にさらにいらだったイジメっ子が酷いコトを毎日繰り返ししている。
当時の僕はその光景を、「酷い」という言葉以外で表現する事ができなかった。
言葉の通り彼女は「酷い」コトをされていたのだ。
僕にはそのいじめっ子達がおじさんの言う「ゴミのような連中」だと、そう理解した。
しかしある日、そのイジメの現場を見ていたある女の子が言った
「可哀想だけど、私はいじめられたくないし。きっと他の誰かが助けてくれるよね」
その言葉を聞いて考えが変わった。
ゴミのような連中というのは、いじめっ子達だけでなく、それをただ見ている自分やあの女の子、他の人達も含まれていたんだと確信した。
「僕はゴミになりたくない」
そう思った。
誰も助けないなら、僕が、
僕が、ゴミを拾ってやる。