●13
説得の相手は急きょ義父ではなく義母となったが、それは悪いようには作用しなかった。
おそらくは義父から話を聞いていて、アルザスとメイアがどういう関係にあるのかおおよそは察しがついているだろうに、義母の眼差しは優しかった。
それに気が付いたのは、メイアとの結婚を了解してもらって緊張が取れたあとのことだったが。
もしかしたら、もっとずっと前から彼女は気が付いていたのかもしれない。気が付いていながら、見守ってくれていたのかもしれない。
この家で最も立場が強い義母が了承してくれたならもう怖いものは無い。
メイアを絶対に幸せにしようという決意が強まるだけだった。
義父に折檻と追放の件を謝罪され、こちらもメイアとの関係の告白に語弊があったことを詫びて、彼とは和解した。
養子縁組の解消にあたっては少し寂しい思いが無いわけでもなかったが、どのみちまたすぐ「義理の息子」になるのだと思うと少し可笑しかった。
結婚式が近づくにつれ、同じ家で暮らしながらもメイアとはあまり顔を合わせなくなった。
お互い緊張していたのかもしれない。
彼女の薬指に自分が贈った婚約指輪がはまっているのを見ると、アルザスはそれだけで嬉しかった。
結婚式の日は、雲一つ無い晴天だった。
神の祝福だろうと義父母や友人は言ってくれた。
自分は人生最大と言っても過言ではないほど緊張していて、花婿の控室でひたすら結婚式の内容を確認していた。
花嫁の控室に出向くことは無かった。
今でも忘れられない。
金色の陽光に包まれ、純白のドレスは光り輝いていた。
月光のような金の髪はきちんと結い上げられ、髪と同じ色の長い睫毛はきれいな弧を描いている。
どんな高価な宝石も、彼女の瞳には敵わない。
背筋を伸ばしてすらりと立っている様は清浄そのもので、凛と胸を張っているようにも見える。
花嫁姿のメイアは、それはそれは美しかった。
おにいさま、おにいさまとアルザスを呼んで駆け寄ってきた幼い少女は、ここまで成長して美しい女性となった。
長かったような短かったような不思議な時間。
共に過ごした、とても尊い時間。
彼女がこうして大人になり、可憐な花嫁姿を見せてくれたことがとても嬉しくて、アルザスは義理の兄として泣かずにはいられなかった。
そして、本当ならメイアの花嫁姿は二人の離別を意味するものだったはずなのに、そうではないのである。
むしろその逆で、二人はこれからずっと一緒にいられるのだ。
絶対に叶うことは無いのだと思っていた切なる願いが叶う。
ずっと愛していた女性と結婚できる。
アルザスは花婿としても泣かずにいられなかった。
目元を押さえて声を殺して泣いている義兄の隣で、メイアは笑っていた。