学園生活2
一ヵ月後
最初はあまりにも変わった学校だったので戸惑ったが、メイは徐々になじんでいった。
異世界からの留学生が大部分を占めるこの学校の生徒は、日本のことに興味津々である。
メイにも積極的に話しかけてくれたので、何人も友達ができた。
「日本ってそんなに良いところかなぁ。普通だと思うけど」
メイは生まれたときから日本にいるのであまり良さを感じないが、留学生にとっては憧れの国である。
「治安が良くて、文明が進んでいて、美味しいものがたくさんあって、天国だよ~」
伝説の勇者が召喚されて世界を変える前は、中世の野蛮な社会に生きていたのである。日本の進んだ社会に感動し、色々と学んで故郷を発展させようというと、いろいろな職業を目指していた。
『農夫』を選んだ男子生徒は、肥料の作り方、開墾方法、ありとあらゆる作物の作り方から、品種改良の技術まで徹底的に学んでいた。彼は故郷である『最果ての国メギド』に戻ったら、砂漠でスイカやトマト・ブドウなどを作るという。
「砂漠に吸水性ポリマーを敷いた畑を作って、スイカ畑にするんだ。日射量が多く乾燥していて、一日の寒暖の差が激しいた土地で栽培すると、甘くておいしいスイカができるぞ~。これで俺の国も豊かになれる! 」
故郷の期待をしょって日本にきた彼は、きらきらとした目で夢を語った。
「俺は『木材練成士』になる。木の有効利用に一生を捧げる」
森の国ミールからきた生徒は、鉄の五倍の強度と五分の一軽さを持つ新繊維『ナノセルロース』の開発を魔法で成功させている。
うれしそうに夢を語る彼らに対し、メイは未だに自分が何を目指せばいいかわからなかった。
「メイちゃん。だいぶ魔力の使い方ががうまくなってきたね~」
魔法実習室にあるパソコンから、タルトの喜ぶ声が聞こえる。ミスリがかけた「封印」は時間がたつにつれて効果がなくなってくるので、メイは魔力制御の訓練だけは欠かさず続けていた。
「でも……こんな力、何の役に立つんだろう? 」
目の前の硬直化した実験用マウスを悲しそうに見つめる。今では自在に力を使いこなせるので暴走の恐れはないが、相手の目を見ただけで硬直化させる力など使い道がなかった。
「大丈夫だよ。どんな力でも使いこなせれば、何かに使えるよ。『道具袋』をうまく使って世界を救った伝説の勇者みたいにね~」
「また勇者の話? 」
ミスリはそう慰めてくれるが、メイはややうんざりとした顔をする。ミスリだけではなく、この学園の生徒のほぼ全員が『勇者』とやらを尊敬していて、ことあるごとに話してくるのだ。
「お兄ちゃんに相談してみる? 何か良い方法を考えてくれるかもよ? 」
「……いいよ。どうせこんな力、あっても仕方ないし」
人を攻撃する力など、ただの女子高生のメイにとっては必要ない。
メイはどんどん魔法に対する興味を失っていくのだった。
その日の夜、ミスリは携帯電話で義兄と話していた。
「メドゥーサの硬直化能力を使いこなす方法はないかなぁ。メイちゃんがかわいそうだよ」
パソコンで今まで分析したデータを送る。
電話の相手はしばらく考え込んでいたが、やがてあることを話し始めた。
「え? あの力は男の子の生理現象と一緒だって? どういうこと? 」
話を聞いているうちに、ミスリの顔が真っ赤になっていった。
「ち、ちょっと。ボ○キって? お兄ちゃんそれセクハラだよ。え? 真面目な話だって? 血流をコントロールして体の表面に血を集中する能力だから、結果的に体が固くなるんだって? だからこれを逆に使えば……なるほどね~さっすがお兄ちゃん! わかった。試してみるよ」
ミスリはうんうんと頷くと、さっそく準備を始める。
メイがお風呂から^部屋に帰って来ると、ミスリが広いベッドの上で待っていた。
真っ白いタンクトップとホットパンツというラフな姿である。
「メイちゃん、おかえり。さ、服を脱いで、ここに横になって」
パンパンとベッドを叩く。
「え? どうしたの? 」
いきなり言われてメイは目をぱちくりとする。なぜかミスリは上機嫌であった。
「いいことをしてあげる。さあ……きて……」
妖しげな様子でベッドに誘ってくる。
「え、ええ? そんな……えっと。いきなり。心の準備が……」
なぜかメイは真っ赤になってモジモジするが、今日のミスリは強引だった。
「うふふ……私は真剣だよ……」
「わ、わかったわ。ミスリちゃんは友達だもんね……」
メイは言われるまま下着姿になって、ベッドに横たわった。
「ああ……なにこれ。きもちいい……」
メイは快感のあまり思わず熱い吐息を漏らす。
「そうでしょ。アンリお姉ちゃんから教わったの……」
ミスリはベッドの上で、うつ伏せになったメイの体を揉んでいた。
美少女同士が絡み合う姿は美しいが、別に変な事をしているわけではない。
「あっ……とろけちゃう……これってなんなの? 」
「水の魔族に伝わる癒しのマッサージだよ~。きもちいいでしょ」
「いい……すごくいい。ゆりりりり……ゆらららら……」
メイはあまりの心地よさにうっとりしていた。
しばらくマッサージを受けると、嘘のように体が軽くなる。
同時に今まで感じていたモヤモヤした気持ちもなくなっていた。
「ねえ、メイちゃんにも教えてあげようか? 」
「私なんかにできるかな? 」
夢うつつの状態で、メイは答える。
「大丈夫だよ。絶対うまくいくから。ふふふ、これから毎日、手取り足取り体をあわせて、じっくり教えてあげちゃう」
「あ、あっ……そうなの? それならお願いします……お姉さま……」
なぜかメイは敬語になり、真っ赤になって下を向くのだった。
数日後、なんとかマッサージをマスターしたメイは、ミスリに保健室に連れて行かれた。
「シスターモモコ、実は相談があるんだけど……」
「……悪いが後にしてくれ。頭が痛い」
桃子は、本当に調子がわるそうだった。目の下に隈ができており、顔は真っ青である。
やけ酒でものんだのか、アルコール臭がした。
「また振られたの? 」
「ほっといてくれ……ううっ。愛する宇美に振られ、何人もの男と付き合おうと努力したが……やっぱり無理だ。うう……どうして俺にはち○こがついてないんだ……」
頭に手を当てて桃子はうなる。
「最近、肩こりや頭痛が酷いって聞いたから、マッサージしてあげようと思ってきたんだけど……」
ミスリが心配するが、桃子はうるさそうに手を振った。
「もういいよ。ほっといてくれ。どうせ俺なんて……うっ」
そのまま頭を押さえてベッドに倒れこんだ。
「かわいそう……そうだ。ちょうどいいよ。メイちゃん。シスターモモコの頭痛を治してあげようよ」
「え? どうやって? 」
「いきなりミスリに言われて戸惑う。
「えっとね。頭痛の原因は、脳内の血流がうまく流れてない事にあるんだって。だから、メイちゃんの能力を使えば、コントロールできると思うよ」
「わかった。やってみるよ。えっと……血流を正常に戻すように念じて魔力を使って……」
ミスリにそういわれて、メイはおそるおそる桃子の額に手を当てた。
「あれ? 急にスッキリしてきたぞ」
桃子の半分閉じていた目が見開き、顔色もよくなってきた。
「やった、うまくいったね。この調子でどんどんためしてみようよ」
「うん。それじゃ、服を脱いでうつぶせになってください」
桃子は言われるまま下着姿になり、メイに身を任せる。
「それじゃいきますよ。えっと、体の血流が滞って硬くなっているところを、やわらかくほぐして……」
ミスリから教わったマッサージを行いながら、自分固有の能力『硬直化』を反転して桃子の体に這わせる。そうすると、どんどん緊張がほぐれていった。
「桃子さん、どうですか? 」
メイに具合を聞かれ、桃子は機嫌よく答える。
「ああ、良いぞ。まるで天にも昇るような気持ちだ……いい……美少女が一生懸命になって私の体をまさぐる……封印したはずのあの清らかな心が再び萌えあがってくるぞ……私でよければ、いくらでも肉体を提供しよう」
桃子はとろけそうな顔をしていた。
「やった。初めて私の力が人の役にたっちゃった」
「よかったね! 」
メイとミスリがハイタッチして喜ぶ。
メイは自分の特技を使って、マッサージ師を目指すことに決めるのだった。
本編はこちらになります
http://ncode.syosetu.com/n3978x/
活動報告に「反逆の勇者と道具袋」11巻と文庫版1巻の情報を載せました