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ヒノモト学園へ

日元総合病院

「はい、もういいですよ。メイさんはこれでおとなしくなるでしょうから」

中年男性の側には竪琴をもった少女とたくましい男がいて、携帯電話を返してくる。

メイの父親は耳栓を外し、電話を受け取った。

「メイは大丈夫でしょうか……」

彼は娘を心配している。いきなりある病院から迎えが来て、訳も分からず連れてこられたら、娘が逃げ出していて入れ違いになったのである。

「大丈夫だよ~。今からメイちゃんの携帯に行って、迎えがくるまで見守っていてあげるから」

携帯から澄んだ声が聞こえる。

「ああ。頼むよデイジー」

父親がそういうと、携帯画面に映っていたシルフOSが一つ手を振って消えていった。

「私のパートナーであるデイジーから事情を聞きましたが、本当にうちの娘が……? 」

父親は目の前にいる男たちにすがりつくような目を向ける。

「ええ。佐藤メイさんは、危険な能力を持っています。何かのきっかけで、魂の奥底に眠っていた魔力が目覚めたようですね」

組長は父親に同情するような目を向けた。

「娘は、これから一体……」

「おじさん。大丈夫だよ~。私たちの間じゃそんなの珍しくないし、ちゃんと魔力制御を覚えれば普通に生活できるからね~」

竪琴を持った少女が安心させるように微笑んだ。

しばらくすると、救急車に乗せられたメイと母親が運ばれてくる。

メイは白い布を顔にかぶせられていた。

「メイ! 」

「だめです。今の顔を見ないであげてください! 」

駆け寄ろうとした父親が組長にとめられる。

「おじさんは待ってて。すぐにメイさんの魔力を『封印』してくるから」

不安そうな父親を残し、少女はメイが収容された病室に向かっていった。


メイは虚ろな意識の中、夢を見ていた。

夢の中の自分は、とある神の求婚を断ったせいで、呪いをかけられてしまったのである。

自分の意思とは無関係に、人々を傷つけて回る日々。

たまに意識が戻ると自らが犯した罪に耐えかねて、その地から逃げ出す。

やがて人里離れた山中にたどり着き、そのままずっと隠れて生きていた。

そのまま長い年月が過ぎたある日、神々の娯楽のために操られていることにも気がつかない英雄が、同じく神々に創られた怪物を倒すために自分に挑戦してくる。

彼女は自らの命を絶つためにあえてその英雄の思惑にのり、盾に映った自分の姿に対して魔力を放つのだった。

硬直した自分に対して剣を振るう英雄。

首を切られた瞬間、彼女はやっと長い呪いから解き放たれた事を感謝した。

(これで死ねる……えっ? この音楽は……? )

どこからか重苦しい音楽が聞こえてくる。

それによって、どこかに閉じ込められるような、暗い水の底に引きずりこまれるような思いにとらわれメイは思わず悲鳴を上げた。


「今のは……えっと……」

メイの意識が覚醒していく。彼女の姿はすっかり元に戻っていた。

明るい病室のベッドの側には、中年の男女がいる。

「メイ、よかった! 」

「元に戻ってうれしいわ! 」

両親が涙を流してすがり付いてくる。

「お母さん! 元に戻ったの? 」

メイは困惑しながらも、元気な様子の母親をみて喜んだ。

「もう大丈夫よ。まったく……この子は人に迷惑をかけて……」

母親はメイの無事を喜びながらも、ちょっと怒っている。

「あの……迷惑って? 」

「私たちが 説明しましょう」

黒いスーツを着たたくましい男と、可愛い女子高生が部屋に入ってきた。

彼らは今までと違って、サングラスをかけていない。

「あ、あんたたちは、ブラック○ン」

身構えようとするメイを、慌てて両親は押しとどめる。

「落ち着いて、この人達は悪い人じゃないわ」

「そうだぞ。母さんを治療してくれたし、お前を救ってくれたんだぞ」

必死な様子の両親をみて、メイはキョトンとなる。

「え、でも、私たちを誘拐したし……」

「色々誤解があるようですから、お話させていただきましょう」

男が話す内容は、メイが今まで生きていた世界観を一変させてしまうような内容だった。


「信じられない……私があの有名な神話の怪物『メドゥーサ』の転生者……? 」

男から話を聞かされて、メイは呆然としている。

「何年か前に日本で流行した、『夢蛹病』という病を覚えていますか?」

その問いかけに両親は首を縦に振る。人間が蛹に変わった後、全くの別人になってしまうという事件は、今でも多くの人々が関心を持っていた。

組長の説明によると、あれは『この世界の神』が引き起こしたものだという。

「あの事件は、とある勇者によって解決しましたが……一つ問題が残りました」

いったん言葉を切り、躊躇いがちにつづける。

「あのとき幼い子供だったせいで神々の呼びかけに応じなかった者たちの中に、神同様に他者の魔力を目覚めさせる事ができた者がいたのです。彼は成長すると共に仲間を集め、世界を支配しようとしています」

その説明に、メイは再び恐怖の表情を浮かべる。

「それって……私の夢にでてきた……」

「ええ。『魔教会』という新興宗教のリーダー、『魔王ルシフィル』ですね、彼ははるかな太古、自分に従って神々に反逆し、地獄に封印された『悪魔』の分身の魂を持つものに呼びかけ、その力を覚醒させようとしているのです」

それを聞いて、メイと両親の顔が真っ青になった。

「残念ながらこの世界の神々は既に滅んでおり、存在しません。だからこそ、我々が彼らに対抗しなければならないのです」

男は誇り高く宣言する。隣の少女も深くうなずいていた。

「あの……あなた方は? 」

「我々は、神々の後始末をすることを目的とした、正義の秘密結社『新誠組』です」

秘密結社と聞いて、両親やメイも胡散臭そうな顔をする。

それをみて、慌てて男は名刺を取り出した。

「ああ、決して反社会的な集団ではないのでご安心を。我々の上位団体は、有名な『大帝グループ』です」

差し出された名刺には「大帝グループ調査チーム『新誠組』組長 松居洋二」と書かれていた。

「大帝グループ……ですか……」

「ええ、何の因果か『勇者』に見込まれてしまいましてね。それ以来、彼にこき使われっぱなしなんですよ」

洋二は何かを思い出して、苦笑する。

いまや世界一の規模を誇る大財閥の名前を出されて、両親も少し信用する気になった。

「でも……娘はいったいこれからどうすれば? 」

「そのことで、一つご提案させていただきます。我々はメイさんのような魔力に目覚めた少年少女をスカウトし、魔力を制御したりそれを応用できるようになる人材を養成する学校を設立しております。お嬢様をこちらに通わせてはいかがでしょうか?」

洋二はカバンからパンフレットを取り出す。きれいな校舎と寮の写真がこれでもかと乗っている学園の名前は、『私立ヒノモト学園』となっていた。

「もちろん、高卒資格も大卒資格も取れます。それに、将来は大帝グループに就職していただければ学費も無料になっております」

実に好条件を約束してくる。

学費無料に一流企業の就職先まで保障ときいて、両親の目が輝いた。

「でも、どうしてこんな高待遇なのですか? 」

「陛下……じゃなかった、ヒノモト学園の理事長の方針です。特殊な能力を持つ人は、偏見の対象になって恐れられることが多い。しかし、それを使いこなせれば、立派に長所となるということなのです。それに……」

洋二はちらりと少女のほうを見る。

「我々にとっては、魔法を使えたり、容姿が多少普通の人間と違うという事など、当たり前なのですよ。我々と取引している異世界には、いろいろな種族がいます」

その発言を受けて、少女は『変化のペンダント』を外す。

すると、頭に茶色い犬耳が現れた。

「えっ? その耳は? 」

「改めて自己紹介するね。私はミスリ。犬族だよ~」

くるりと後ろを向いて、スカートをめくってみる。高級そうな純白パンツには穴が開いており、そこから出た茶色い尻尾がブンブンと振られていた。

「……娘だけではないのですね……」

それを見て絶句するメイに、少し安心する両親。

「こ、故郷って? 」

「えっとね。まだ一般の人には内緒だけど、いわゆる『異世界』だよ。私はオールフェイル世界から、お兄ちゃんの故郷であるこの地球に留学に来ているんだ~」

うれしそうに話すミスリ。

メイは次から次へと常識外の話を聞かされて、ただただ呆然とするのみだった。


数日後

まだ建てられて間がない綺麗な校舎が立ち並ぶ学園の門前に、メイの姿があった。

「えっと……ヒノモト学園ってここだよね……」

それほど大きくはないが、屋内プールやコンビニまで揃った学校だった。

「来ちゃったなぁ……はあ、私はこれからどうなるんだろう? 」

何だか訳が分からないまま、流されるようにここに来てしまった。

幸いにも隣の県だから、土日は地元に帰れるし、友達とも会える。

好きな先輩がずっと風邪を引いて休んでいて、会えなかったのが心残りだったが、転校の手続きは驚くほどスムーズに進んでいった。

「メイちゃんいらっしゃい。案内するよ~」

学園の受付で手続きすると、ミスリがやってきて荷物を半分持ってくれる。

勘違いから彼女とバトルをしてしまったメイは、気まずい思いをした。

「あの……あの時はごめんなさい」

話を聞かずに襲い掛かってしまった事を謝罪する。

「ああ、そんなのいいよ。いこう~」

さっさと荷物を持って歩き出す。メイは慌ててついていった。


校内はどこも綺麗だったのだが、一歩足を中に踏み入れるとここが特殊な学校だとわかる。

すれ違う生徒達は実に多彩な姿をしているのである。

人間の生徒も半分くらいはいるが、ほとんど外国人のような顔をしている者ばかりである。残りの半分は犬耳猫耳ウサギ耳は当たり前で、コウモリ羽に牙まで生えている者もいる。

「ミスリ様! ごきげんよう」

彼らはミスリが通りかかると、全員がにっこりと笑って挨拶した。

「はい、ごきげんよう」

ミスリはちょっと気取って、スカートを広げて挨拶を返している。

「はぁ……やっぱりミスリ様って素敵……さすがだわ……」

「はあはあ……綺麗で可愛い生徒会長様……。俺と付き合って欲しいけど、ライバルが多すぎるんだよなぁ」

男女ともミスリに憧れの目を向けてくる者ばかりだった。

「ね、ねえ。この人たちって……」

「あはは。転校してきた日本人はみんな同じ顔するね。私たちはみんな『オールフェイル世界』からの留学生だよ~。人族に魔族に獣人族、エルフにドワーフに吸血族、みーんなここでは平等なのだ」

ミスリは自慢そうに胸をそらす。

確かに各種族は仲良く交流しており、本当の意味で人種の坩堝というにふさわしかった。

校舎から少し離れた所に来ると、六階建ての立派な建物に到着する。

「ここが女子寮だよ~」

ミスリとメイが入ると、広いリビングにいた多くの女子生徒が迎えてくれた。

「ミスリ様、お帰りなさい! 」

「その子が新しい寮生ですか? 」

みんな興味津々の目を向けてくる。

「みんな、よろしくね。『人魔族』の佐藤メイさんだよ。仲良くしてあげてね」

「あ、あの、よろしくお願いします」

メイが頭を下げると、拍手で迎えられた。

「『人魔族』かぁ。私たちと同じだね。ヒノモト学園にようこそ!」

彼女達の中には、何人か日本人のような少女もいる。

それを見て、メイはやっと少し安心することができた。


本編はこちらになります


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活動報告に「反逆の勇者と道具袋」11巻と文庫版1巻の情報を載せました

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