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キャットファイト

少し前

「くんくん……ここから若い女の子の匂いがする」

「よし、間違いないな。全員で出口を固めろ! 」

犬並みに利く少女の鼻により、メイの居場所を突き止めた組長は、女子トイレの前に部下を集結させていた。

「待ってよ。強引なことをしたら、余計にこわがらせるよ。私がいくよ 」

「で、でもさっきみたいに襲い掛かってきたら……」

組長はしぶい顔をする。彼女は公的には王族とは認められてないが、れっきとしたとある国の王の義妹であるので、これ以上危険な目にあわせるのは躊躇われた。

「大丈夫だよ。『安らぎの歌』」

自信満々に竪琴を奏でる。その音はトイレの中にも響き渡っていった。

「よーし。これで眠っただろうね。組長さんたち、彼女を……」

「……ぐう」

少女の呼びかけにかえってきた返事は、いびきだった。

気がつくと、組長をはじめとする『新誠組』の男たちは全員気持ちよく眠っている。

「ち、ちょっと! 組長さんが寝てどうするのよ! 」

思いっきりビンタするが、彼はまったくおきてこない。

「もう……組長さんって肝心なときに役に立たないんだから。もういいよ! 」

少女は意を決して女子トイレに入っていった。


「お邪魔しまーす。佐藤メイさん。いますか~」

慎重に警戒しながらトイレに入ると、中には奇妙な人影がいた。

「えっ! あ、あの、メイさんだよね」

その少女の姿をみて、少女は驚く。

顔は勝気な美少女のままだったが、その髪が蛇に変わっていた。

その中の二本が両方の耳をふさいでいて、歌を聞こえなくしている。

「うそ~。ちょっと、それ反則だよ! 」

焦る少女を見て、メイは高らかに笑う。

「ふんっ。悪魔の歌声なんか、私には通用しないわ」

もう大丈夫と判断したのか、蛇は独りでに耳の穴からでてきた。

「あ、悪魔? 誤解だよ。ほらほら、私は普通の女の子! 」

あわてて敵意がないことをアピールするが、メイは信じなかった。

「うそつき! あなたも変なサングラスたちの仲間じゃない」

メイは指を突きつける。確かに、夜中なのにサングラスをした女子高生は怪しかった。

「こ、これはあなたの魔力から身を守るためにしているんだよ~」

「だまされないわよ! 問答無用! 」

「……仕方ないな~。相手になるよ」

狭い女子トイレの中で、メイと少女は互いに構えあった。

「中段正拳突き! 」

メイが放った拳が、少女に迫る。

明らかに普通の少女には出せないパワーとスピードだったが。彼女は慌てなかった。

冷静に距離を見切って、最小限の動きでかわしていく。

「この! この! 」

焦ったメイがパンチやキックを放つが、かすることもできない。

次の瞬間、後ろに回った少女はメイを羽交い絞めにしていた。

「無駄だよ。私たちはシルフワールドで『柳生無刀流』を学んでいるんだ。おとなしく……いたっ! 」

いきなり腕に鋭い痛みが走る。仰天して見ると、メイの頭から生えている蛇が噛み付いていた。

「そ、そんな……」

思わぬ攻撃をうけて、どんどん毒が回って腕の感覚がなくなっていく。

メイは拘束から逃れると、少女に目もくれず、母親をおんぶして逃げ出していった。


「失敗しちゃったな……こんなことじゃ『勇者の義妹』失格だよね」

少女はそうつぶやくと、気を取り直して毒消しの効果があるヘルスポーションを飲んで治療する。

「うーん。どうすれば……しょうがない。お兄ちゃんにどうしたらいいか聞こう」

携帯電話を取り出して、尊敬する義兄に電話をかけた。

「もしもし、お兄ちゃん久しぶり。え? なんでこんな時間に起きているんだって? まだ10時だよ~」

親しげに携帯電話に向かって話す。

「それでね。『新誠組』の組長さんたちのお仕事を手伝っていたんだけど……」

詳しく事情を話すと、携帯電話から大声が聞こえてきた。

「だ、大丈夫だったよ。危険なバイトやめろって? だってしょうがないじゃん。欲しい服があったんだもん。それくらい買ってやるって? ダメだよ。自分で働いて買う事に意義があるの! 」

感心にもお金持ちの義兄に頼らずに、欲しい物は自分で手に入れる主義らしい。

「だーかーらー、子供扱いしないで。私はもう高校生なんだから! それより、相談に乗ってよ! どうすれば傷つけないように捕まえられるかな? 」

メイに逃げられたことを話すと、義兄はしぶしぶとアドバイスしてくれる。

それを受け、少女はメイを捕らえる策の準備にかかるのだった。


「はあはあ……ここまでくれば……」

病院を逃げ出したメイは、母親をおぶさって暗い夜道をあてもなく歩く。

田舎とはいえちゃんと整備してある道だったので、辺りは真っ暗だったが街灯を頼りに逃げ出す事ができていた。

「でも、ここはどこだろう……」

当たり前だが見知らぬ土地で、近くに知り合いもいない。

「……助けてもらおうかな……でも……」

近くにはポツポツと民家があるが、ドアをノックすることが躊躇われる。ここはあの病院の近くなので、辺りの人はもしかしたらあの変な組織につながりがあるかもしれないからだ。

「警察に……」

持っていた携帯電話で110番しようと思ったが、発信ボタンを押す寸前で指が止まる。

「ダメ! 救急車を読んだらあいつらが来たんだ。同じ事が起こったら! 」

せっかく逃げ出せたのに、またあの病院に連れ戻されるのは嫌だった。

「お母さんも治らないし……私はいったいどうすれば……」

背中の母親の体は相変わらず固いままである。

「お腹減った……もうだめ……」

ついに限界を向かえ、メイは道端に座り込んでしまった。

その時、携帯の着信音が鳴る。発信者を見てメイは大喜びした。

「お、お父さん? 」

慌てて電話に出ると、父親の声が聞こえてきた。

「メイか? 今どこにいるんだ? 」

電話の向こうの父親は、行方が分からない娘を心配しているようだった。

「わからない……変な人たちに連れて行かれて、変な病院に閉じ込められて……やっと逃げ出したんだけど、今どこにいるかわからないの」

涙ながらに今の状況を説明する。

「わかった。そこを動くな。今から迎えにいくから! 」

「うん。待っている。早く来て! 」

父親と連絡がとれて、メイは安心して電話を切る。

その直後、父親からまた電話がかかってきた。

「はい。え? これって……さっきの……ぐう……」

電話を耳に当てると、優しい音楽が流れてくる。

携帯電話越しに『安らぎの歌』を聞いたメイは、そのまま眠っていった。


本編はこちらになります


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活動報告に「反逆の勇者と道具袋」11巻と文庫版1巻の情報を載せました

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