勇者
その中からコウモリのような翼をもった人型が次々と出てくる。
それらは、鋭い牙と爪を持っており、次々と倒れている生徒達に襲い掛かっていった。
「ふん。小悪魔どもに生贄をくれてやる気はない。やれ! 」
フィルの命令により、信者達が魔力砲を放つ。グレムリンたちは慌てて逃げていった。
「あんた……いったい何がしたいの! 」
メイが憎しみをこめて睨み付けると、フィルは優越感に浸り、うれしそうに話はじめた。
「くくく……冥土の土産に教えてやろう。お前達から奪い取った魔力を使って、『地獄』とのゲートを開いたのさ」
「地獄って……」
「……お兄ちゃんから聞いた事がある。世界は地球やオールフェイルだけじゃなくて、他にもいくつもある。その中でたった一つだけ、一度入ったら二度と出られない牢獄世界があるんだって。他の世界で生まれた、もはや転生すら許されない邪悪な魂を捨てる場所……それが……」
ミスリが恐怖に震えながらつぶやくと、フィルは満足そうにうなずいた。
「そうだ。神々の世界を追放された邪悪なる一族……我々悪魔と呼ばれる種族は、大部分の魔力を持つ『本能』を地獄に封じられて、理性だけが無力な人間としてこの世界を永遠に転生する宿命だった。しかし、この世界を直接管理していた神々が滅んだおかげで、地獄とのゲートを開くチャンスがやってきたんだ。ほら、見るがいい! 」
興奮したフィルが上空を指差す。
いつの間にか上空の地獄とのゲートは、ヒノモト学園を飲み込むほど大きく広がっていた。
「ぐぁぁぁぁぁぁ……」
「ダシテ……」
ゲートの中には何百何千もの人間や動物のようなものが、複雑に絡み合っているのが見えた。
「俺は……大暗黒天だ……神なんだぞ……」
「私は……高貴なる大天使ミカエル……だしてくれ……」
「助けてくれ……俺が悪かった……父上……兄上……メルト王女様……」
中には、光り輝く翼をもった天使のような姿をもった者もいる。
皆苦しそうにもがきまわっていた、
「くるぞ……後少しだ。こいつらを生贄に……」
フィルはドンッとメイとミスリを突き飛ばし、ゲートの真下から離れる。
上空のゲートからは、とてつもなく恐ろしい巨大な何者かの気配が近づいてきた。
「も、もうだめ……」
メイは恐怖して目をつぶる。
「諦めちゃダメ! きっとお兄ちゃんが助けに来てくれるよ! 」
ミスリも同じように恐怖に震えながら、必死にメイを慰めようとしていた。
「お兄ちゃん……勇者シンイチって人? 」
「うん……。魔王を倒し、天使を滅ぼし、神々すら制した伝説の勇者。きっとなんとかしてくれる」
ミスリはこの絶望的な状況でも、一縷の希望を持っていた。
「ふん。愚かな。大魔王サタンに対抗できる勇者など存在するわけがない。くくく……神の魂をもつ者と、我ら悪魔の裏切り者よ。生贄になるがいい」
フィルと信者たちは歓喜する。
上空のゲートから、巨大な目がギロリとこちらをのぞきこんでいる。
次の瞬間、鉤爪のついた毛むくじゃらの手が降りてきた。
「きゃぁぁぁぁ! 」
ミスリとメイは絶叫する。
降りてきた手は無造作に二人をつまみ上げ、空中に持ちあげた。
そのままゆっくりと上空のゲートに向かって上がっていく。
「いいぞ! そいつらを思う存分食らうがいい! 」
フィルが残酷な笑い声を上げる。
「もうだめ! 」
「お兄ちゃん! 」
二人が絶望の声を上げ、その姿がゲートの向こうに到達しようとした時―
「あれ? どうした? 」
下から見ていたフィルは困惑する。
二人の姿は、巨大な手の中から消えていた。
因幡神社。
ヒノモト学園を見下ろす小高い丘にある神社に、メイとミスリは突然現れた。
「二人とも、大丈夫? 」
巫女服姿の胸が大きい美女、因幡宇美が駆け寄ってくる。
「宇美お姉ちゃん! 」
宇美の姿を見たミスリは助かった安堵感から、彼女に抱きついた。
「宇美さんが助けてくれたんですか? ありがとうございます」
メイは顔中をくしゃくしゃにして礼を言う。
「ううん。私じゃないわ。私はヒノモト学園に変な事がおきているので、シンちゃんを呼んだだけ。助けたのは彼よ」
宇美が後ろを指差す。そこには、銀色の服を着た20代中ごろの平凡な男がいた。
右手にハンマーを持ち、左手に破れた袋を持っているという珍妙な姿で、肩には小さな妖精がちょこんと乗っかっている。
「お兄ちゃん! 」
ミスリは今度はその男に抱きつく。男はミスリの頭を優しく撫でた。
「よしよし。よくがんばったな。もう大丈夫だぞ」
そういいながら、手に持ったハンマーを振り回す。
次の瞬間、因幡神社の境内に、校庭にいたヒノモト学園の生徒全員が出現した。
「これで何とか助ける事ができたな。宇美姉さん、後は頼むよ」
「はいはい。でも、姉さんはやめてね。私はあなたのアイジンなんだから。シンちゃん」
宇美が男の側に寄ってきて、優しく頭を撫でる。
「姉さんこそ、シンちゃんはやめてくれよ」
男はそういって苦笑した。
「もう。二人でいちゃいちゃしててずるい! 」
男に抱きついているミスリが拗ねる。
「ごめんごめん。ほら、高い高い」
「子供扱いはやめてっていってるのに! 」
男に抱き上げられてミスリは不満そうな顔になったが、彼女からは男に対する親愛の想いが感じられた。それに嫉妬してしまい、思わずメイは冷たい目で男をみてしまった。
「……ねえ、この派手な服を来ている変なおじさん、誰? 」
メイから見たら、ギラギラ輝く銀色の服を着て変なハンマー振り回している、ちょっと危ないおじさんとしか見えなかった。
「お、おじさん? 」
ショックを受ける男。
「キャハハハ。ついに言われちゃったね~」
男の側に浮かんでいる妖精が大爆笑する。
「ち、ちょっとメイちゃん。おじさんだなんて、お兄ちゃんに対して失礼だよぅ! 」
プンプンと怒るミスリだったが、男は辛うじて持ちなおした。
「い、いいよミスリ。……おじさんか……だよなぁ……」
もう高校生から見たら、おじさんといわれる年になりつつある伝説の勇者であった。
「佐藤メイさんだったね。はじめまして。オールフェイル世界のヒノモト国の国王、こっちの世界じゃヒノモト学園理事長の、シンイチ・スガイ・ヒノモトだよ。よろしく」
シンイチと名乗った男は穏やかに挨拶した。
「ええ? 理事長先生? あの、いつもミスリちゃんから聞いています。お、おじさんなんて言ってすいません 」
メイはあわてて頭を下げる。
「いや、いいよ。事実だし。それより、アレをなんとかしないとなぁ」
-シンイチはヒノモト学園の方向をみる。
上空のゲートからは、とてつもなく巨大なモノが降りてこようとしていた。
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