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7、8、9と誤字脱字を修正しました。内容に変更はあまり無いです。
魔法騎士たちが少女を連れ去り。城へと馬車が向かったのを確認したフードマントの人影は、薄暗い路地裏を慣れたように走った。
迷路のような道を苦もなく走り抜け、昼間でも人気の無い倉庫街へと足を踏み入れる。
わかってはいたが、誰にもつけられていないのを念の為確認すると、蔦の絡まる赤レンガの倉庫にするりと体を滑り込ませた。
明かりの無い広い空間。
そこには、四人の男たちが姿は見えるが、暗くて顔は見えない絶妙な距離感で集まっていた。
一人は優雅に足を組んで一人掛けの椅子に座り、一人はやや離れた机に寄りかかっていた。また一人は、壁際でビリヤード台に腰掛け、一人は静かに腕を組んで壁に寄りかかっていた。
「遅かったですね。それでどうでした?」
椅子に座った男から問いかけられ、偵察に出ていた人影はフードを外して肩をすくめた。
「予想ついているだろう。魔法騎士様たちが迎えに来て、城に連れ去っていったよ。今夜は舞踏会かもな」
「笑えない冗談だ。だが困ったな。というか、いつの間に目をつけていたんだか」
壁際の男が嘆息すると、ビリヤード台に座った男が笑った。
「さぁね。ただ玩具を返してもらえなくちゃ僕と遊べなくなるから、取り戻しにいこうよ~」
「どうせそろそろ宣戦布告する準備はしてたんだし、いいんじゃねぇの。魔法師たちが出払っていて結界も薄いし、簡単に破れるだろ。城で堂々と暴れて、ついでに最強の切り札になる戦利品貰ってこようぜ」
机に寄りかかっていた男が明るく言うと、ビリヤード台の方から「賛成~」と声が上がった。
「面倒ですね。だから早く無理矢理でもモノにして連れてくるべきだと進言していたというのに」
椅子に座った男から、忌々しげな舌打ちがした。壁に寄りかかっていた男が嘆息する。
「リーダーが任せろと言ったんだ。仕方ないだろう」
「それでこの状況じゃないですか。やはりあの人はことの重大さがわかっていない。この国が他国に奪われてなくなる前に、わたしたちが実権を握って、どうにかする必要があるというのに」
「副リーダーは不満たまってるね~。でもリーダーだって仕事してるじゃん」
「そうだぜ、副リーダー。この前も腐った役人どもとっちめて証拠を残して、軍の警察がちゃんと連行していったじゃん」
机に寄りかかっていた男が軽く言うと、壁に背を預けた男が嘆息した。
「それでどうするんだ? リーダーに報告して、奪いにいくのか?」
全員の視線が椅子の男に集まる。
「リーダーは明日から、表の仕事で王都を離れます。それから仕掛けましょう。彼女の協力を取り付ければ、後はどうにでもなります」
「賛成~! 派手に暴れていいんだよね!」
「腕がなるなぁ! 魔法騎士って強いよな? ウズウズするぜ」
「奇襲をかけて戦うのはいいが、彼女が協力を拒んだらどうするんだ?」
壁に寄りかかっていた男の言葉に、偵察に出ていた男が頷く。
「その通りだな。既に王家に懐柔されていたら、一体どうするんだ?」
「その時は~、ちょーっと痛い目みてもらっていうこと聞いてもらったらいいんじゃない? 僕が相手になるからさ~」
「ずりぃぞ。オレだって戦ってみてぇんだ。他の反乱組織には小飼の魔法師も、腕に覚えのある傭兵もいたのに、呆気なく一撃でのされたんだろ」
「好きにしなさい。負けても責任は持ちませんが。まあもしもの時は彼女の弱点を上手くつくとしましょう。詳しくはまた夜に集まって話します。それまでに各自、どんな作戦がいいか少しは考えておくように。それと、城の警備の情報を確認しておいてください」
「了解~!」
「前から集めていた情報が役に立つな!」
「気を引き締めろよ」
「それじゃ、仕事に戻るか。また夜にね」
各々が順次、去っていった。
最後に椅子から男が立ち上がり、フッと息を吐く。
いよいよだ。ここに来るまで長かった。自分で立ち上げたものの、上手く組織が機能せず、潰れたものも今日までで三つある。
だが今回は、別なのをトップにしたお陰で自由に動き回れた。そのせいか順調に統制がとれ、リーダーに惹かれ集まって、よく命令に従う。
「最悪、あの魔法師の力が王家に渡らないように、わたしが貰うか、利用されないように存在を消せれば問題ないでしょう」
口の端を吊り上げた。
「せいぜいわたしに利用されて、上手く踊って貰いましょう」
うっそりと微笑んで、男は倉庫から出ていった。