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一旗揚げましょう?  作者: 早雪
38/38

38, 2 - ⑫

最終話です。

お待たせしました。



さぁ、最終決戦のデモンストレーションの始まりだ━━。


ロアはまだ雪が残る高いザンルキ連峰の内の一つから、決戦場となるザルサ大平原を一人で見下ろしていた。

真昼の太陽が、晴れた薄い青空に座して下界を照らしている。主張する日の光は眩しく、ロアは僅かに目をすがめた。

明日で三月の終わり、本格的な春の光景が目に浮かぶ四月がやってくる。


ロアは空からザルサ大平原へと目を向けた。

連峰からは、雪融けて多少ぬかるんでいるものの、大地と残雪の白が混じりあった歪な斑模様の大平原がよく見えた。遮るもののない平たい土地は国境がどこかもわからないが、間違いなくイオニス帝国であろう領域には、蟻のように群がる黒い塊の一団と翻る帝国軍旗。


その黒い塊の一団が蠢いていた。

距離はあるが、軍靴の音が地響となって、空気を振動させていた。さながら聞く者に脅威を感じさせ、じわりじわりと追い詰め怯えさせるには充分で、ロアも普段なら平静を保つ事が難しかったかもしれない。実際に、一糸乱れぬ動きは流石は軍国と唸る他ない。


緊張に固まりかけた心も強ばった体も、深呼吸して襲い来る音の呪縛を解いた。

空を見上げて、同じ色の目を持つ主を思い浮かべる。

ふっと程よく力が抜けて、微笑が浮かんだ。落ち着いた心を感じながら、ロアは自分のうちに語りかけた。すると、弱々しくも返答があった。

けれどそれは以前と比べると、とても小さく遠くから響いて聞こえてくるようで、ロアは胸が痛くなった。


『いよいよね、ロア。ついにここまで来たのね』

(そうだよ、クー。君が望んだものだよ。これが終われば、大方の仕事は終えた事になるから)


脳内に響くように聞こえてきた声は、やや興奮していた。無理もないとロアは肯定の言葉をクーデリカに返した。


『後は事後処理というわけね。予想よりも大分改革も進んで、もうファウス国は、わたくしたちが力を貸さなくても大丈夫そうよね。立て直ってきたわよね』

(うん、そうだね。帝国をどうにか出来れば当面の問題は片付いて、後は陛下方次第かな)

『そう。……これで漸く、あなたにあなたの時間を返せるわ。━━ありがとう、ロア。あなたには本当に感謝しているわ』


クーデリカが安堵と共に喜びを滲ませて、告げてきた。ロアは油断大敵と言い返す。


(この茶番が上手くいってから、その言葉は受け取るよ。まだ終わってないでしょ)

『ふふっ、そうだったわね。でも言わせて。あなたがわたくしの我儘を受け入れてくれて、魔法師長になってくれて、本当に嬉しかったの。わたくしの悔しさも蟠りや、やり場のなかった怒りも悲しみも救われた気がしたわ。だから、ありがとう』

(……死亡フラグは立てないで)

『えっ?』

(何でもない。私もクーに会えて良かったよ)


ロアは目を閉じて一つ息を吐き、暴れる心臓を鎮めた。意識を切り替える。ゆっくり目を開くと、漆黒の髪は晴れ渡った空色に。黒曜石のような瞳は深い海色の眼に変わった。


(それじゃ行こうか、クーデリカ)

『ええ、これが最後の大舞台よ。━━ 一旗揚げに行きましょうか、ロア』


いつかの口説き文句に、ロアは苦笑をこぼした。

顔をあげて、一万の軍勢と向き直る。黒い厚手のドレスに紺色のローブを纏った魔法師長は、悠然と笑んでその身を空中に踊らせた。



***



当たる風が冷たく、強い風がドレスとローブの裾をはためかせていた。ロアはザルサ大平原の国境の中空に浮かんで、一万の軍勢を待ち構えていた。魔法を使って、風の勢いを弱める。

兵団の先頭が人の形を視認できる距離になった頃、ロアは息を吸って、声を張った。


「ご機嫌よう。イオニス帝国、兵士の皆さん」


風の拡声魔法で、ロアの声が大平原に響き渡った。兵たちまでまだ声が届かないのか、軍団は歩みを止めなかった。


「わたくしはファウス国で、魔法師長を務めている者です」


漸く最初の呼び掛けが届いたのか、地響が止んで土煙がもうもうと立ち上がった。誰かが宙に浮かぶロアを指差して、万の目が向けられた。

自分に注目が集まっているのを確認してから、ロアは優雅に一礼して見せた。戦場に相応しくない光景に、兵たちか戸惑い、浮かぶ若い女を見て、ざわつく。

上空から軍団の全体を見渡しながら、ロアは冷ややかな口調になる。


「あなた方が今、国境を侵そうとしている事は当然、お分かりになりますわよね。その行為がとても罪深く、あなた方が嫌う略奪、重罪、非人道的行いといった事に通じるものである事も重々承知の上で、我が国の領土に押し入ろうとしているのですよね?」


弓矢が飛んできた。

火矢も混じっているが、ロアは動じなかった。見えない壁に全て弾かれて、落下していく。水球や炎の球、風の刃や岩石も飛来するが、それも全部弾かれ、発動した魔法師の元へと返された。

軽い爆発が帝国領で起こり、一部始終を見ていた兵士たちが後方を振り返って青ざめた。


「今、退くのなら何もしません。見逃しましょう。ただし、あなた方が我が国で理不尽に力を無辜むこの民に振るうというのであれば、この国の防衛を与る者として通すわけには参りません。それ以上の理不尽な暴力でもって返り討ちにします」


パチン、と。指を鳴らす音が響いた。

すると、突如、ザルサ大平原に突風が吹き荒れて、兵たちが顔を庇うも押し戻された。呼吸をするのも苦しく、目も開けられない。細かな砂塵が舞い、風と共に肌や顔に当たった。

再度、指が鳴ると、突風が止んだ。

恐ろしいものを見るように兵たちが、超然と宙に浮かぶ魔法師長に視線を向けた。


「もう一度忠告します。あなた方が領土を侵し、理不尽な力を我が国の民に振るうというのであれば、まずはわたくしがお相手を致しましょう。あなた方以上の理不尽な暴力でもって、返り討ちにします」


ロアの呼び掛けに、兵たちが互いの顔を見て戸惑う。それから偉い人物へと向けられ、隊長格が呻くように黙って、考え込む。


「そうですね。分かりにくいかと思われますので、分かりやすく国境の線を引きましょうか」


ロアが片手を天に伸ばすと、晴れていた空を雲が覆った。どんどん分厚い雲が重なり太陽が隠れ、風が強くなる。暗くなる空に兵たちが身を寄せ合い、不安な顔で雷鳴のする空を見上げた。


ロアが手を下ろすと、天から一筋の稲妻が、激しい光を大地に突き立てながら、ザルサ大平原のロアと帝国兵を分断するように走った。

轟音と激しい光に誰もが身を庇う。

やがて目を開けて、溶けた雪と焼け焦げた大地に愕然とした。一部では、まだ火が燻って燃え盛っている。ビリビリと肌が焼かれ、耳目が壊れたかと錯覚する程の衝撃。ロアがこっそり魔法で目や耳を守っていた事に誰も気づいておらず、兵たちは開いた口が塞がらないようだった。

驚きも露な間抜け顔で、硬直していた。

暫く時間をおいてから、ロアが声をかけた。


「この線が国境ですわ。この線を越えて我が国に侵入した瞬間、死ぬ覚悟をしておいてくださいね」


軽やかに微笑んで告げる若い女に、その場の誰もが恐怖に顔を引き吊らせた。天候を━━自然を操って平然としている人外の圧倒的な力を見せつけられて、「化け物」「人殺し」「悪魔だ」「魔女」と絶望しながら、兵士たちが呟いた。

空の暗雲はすっかり晴れて、元の春の青空に浮かんだ太陽が明るく照らしている。


「話し合いが必要なら待ちましょう。賢明な判断を望みますわ。死ぬ覚悟があって来るのなら、存分にわたくしの力を見せつけ、完膚なきまでに叩き潰しましょう━━この戦場におわします皇帝陛下、並びに将軍閣下。しかとお伝えしました。賢明な判断を望みますわ」


魔法師長を名乗る女はゆったりと微笑んで、その場で牽制するように兵たちに睨みをきかせた。

しん、と静まり返った大平原で時が刻一刻と過ぎた。

過ぎる時と忍び寄る恐怖に耐えられなかったように、一人の兵士が絶叫しながら駆け出して逃亡すると、弾かれたように周りも一斉に背を向けて、形振り構わず走り出した。


隊長格たちが震えながら「逃げるな!」「戻れ!」「罰則だぞ!」と叫ぶが、その声は悲鳴と怒号と恐怖にかき消され、届かない。

兵士を呼び止めて腕を掴むが、彼らに振り払われ、恐慌をきたした部下に殴られ、「それならあの化け物と自分で戦えよ」と怒鳴られ、「お前たちだって腰が引けて震えてんだろ」と責められた。

蜘蛛の子を散らすように、次々と去っていく。残っているのは全体の一割にも満たない。それも腰が抜けていたり、衝撃を呑み込めずに固まったままの者が大半で、戦意喪失は明らかだった。

ロアは念の為に、国境線に沿わせて、炎の壁を作った。

最後だからとクーデリカに貰った魔力を惜しみ無く使う。


「少人数を相手のするのも少し面倒なので、この炎の国境を越えてきた方を仕留めていく事にしましょうか。頑張って下さいませ」


上品に笑ったロアは、服装も相まって益々、魔女めいて見えた。残っている数百人の兵を見て、一人で見下ろしながら少人数と言ってのけた若い女に、炎の壁を出現させて婉然と微笑む魔法師長に、動けない帝国兵たちは慄然とした。恐怖が背筋から這い上がってくる。

蛇に睨まれた蛙の如く、動けなかった。

その呪縛から解放されたのは、白銀の髪に氷の目を持つ帝国の皇が馬で駆けてきた時。供を二人連れ、一人で馬を降りて前に出てきた。


「久しいな、魔法師長クーデリカ・オルシュタイン」

「ご無沙汰しております、リュシエント陛下」


ロアが優雅に一礼を返した。

リュシエントの眼差しが眩しそうに細められた。


「話し合って決めてきた。騒がせたな、魔法師長。あの即位式での約束を果たそうと友好を結びに来たのだが、一部の者が暴走して勝手に攻め入ると勘違いしたらしい。また日を改めて少人数で来ようと思うが、歓迎してくれるか」


ロアが空から大地に、皇帝の目の前に降り立つ。だが、頭は下げない。魔法師長が忠誠を誓い、仕えて頭を下げるのはファウスの王だけだからだ。


「何かの手違い、という事でよろしいでしょうか?」

「ああ、ルース王には後日詳細の説明をする。済まないが、ここはこれで引いて貰えないか?」

「…………畏まりました。ですが、あなた方の姿が見えなくなるまでわたくしはこちらに留まらせていただきます」

「わかった。感謝する」


茶番は終了。

その合図のように二人が微笑み合う。

その瞬間、後方にいた供の一人が、剣を抜いて駆けてきた。


「死ね、化け物!」

「クーデリカっ」


皇帝が庇うように剣を抜くが、ロアが前に出た。風の刃に剣を持つ男の腕が切り裂かれ、血が飛び出した。それでも男が向かって来ようとするので、ロアは魔法を行使した。大地から草木が伸びて、男をぐるぐる巻きにして芋虫のように転がす。


「騒がせたな。そいつを捕らえろ」


リュシエントがもう一人の供に命じると、すかさず芋虫を馬に括りつけた。


「最後まで、残った忠義を覚えておこう。━━もう戻れ。長らく家族の元へ帰っていないのだろう。こんな争いは終わらせて、二度と起こらないよう努めよう。今まででよく務めてくれた。感謝する」


リュシエントが隊長たちを目で促すと、呪縛が解けたように動き出す。まだ動けない者たちには、誰かが手を貸して故郷への帰路へと着いた。

供を更に下がらせて、リュシエントとロアが残された。


「━━最後まで手間をかけたな」

「いえ、大丈夫です。あなたにはお礼を言わなければなりませんかね」

「いや、こちらこそ礼をと思ってた。これでお前たちが大嫌いな争いは避けられたか。今後は努力次第だが」

「そうですね」

「だが、友人となってくれる魔法師長どのが助けてくれるのだろう?」

「………言い忘れておりましたが、わたくしは直に魔法師長を辞めて、城を去る予定なんです」

「━━は?」

「色々と事情がありまして。元々、我が君への忠誠も改革が終わる二年間と決まっております」

「…………もう、会えないのか。それなら帝国に」

「行きません。私の故郷もクーの故郷も、ファウス国ですから。リュシエント陛下、あなたが前を見て、自分の人生を歩いてくれて良かった。大嫌いな戦争を回避してくれてありがとうございます。それでは、お元気で」


ロアが淑女のように優雅に一礼して、下がろうとした。ガシッと腕を掴まれる。


「友人になってくれ」

「え?」

「名前も教えて欲しい。クーの宿主であるあなたの名を」

「………いえ、あの」


ロアは切実に逃げたいが、手を捕まれていてそうもいかない。遠くでは皇帝を心配して、供と隊長が二人、こちらを見ている。


(皇帝の威厳、どこ行った!?)


ロアは冷や汗をかき、内側から聞こえてきた『別にいいじゃないの』という声に、困惑した。それどころか、肩にひょっこり小さなクーデリカが現れて、挨拶をし、言葉を交わす。

ロアはもう色々と面倒になって、自分の名前を教えて、何故か友達になった。嬉しそうなリュシエントとは反対に、ロアはどっと疲れた顔をしていた。





***




ザンルキ連峰の山で、去り行く帝国軍を見送り、ロアは息を吐き出した。

漸く、漸くだ。ロアは両手を突き上げた。


「━━終わったぁぁぁぁっ!!」


クーデリカが『お疲れ様』と微笑んでくれた。ロアも(お疲れ様)と返す。だが、やはり相当魂に負担があったのか、クーデリカは眠そうだ。ロアはまた後で話そうと寝るよう促す。限界だったクーデリカがすぐに引っ込んだ。

ロアも魔法師長の姿を解除して、黒髪黒目に戻った。


ロアは自分が引いた国境の線をぼんやりと見つめた。

肌寒い春風が吹き抜ける。

思い出すのは、万の軍勢の敵視、嫌悪。それから畏怖に顔を歪める恐怖の目。

カタカタと震える手を拳にするが、震えはまだ収まらない。

ロアは体を抱き締めるようにして、涙を流した。


「……ふっ、………くっ……」


声を抑えようと両手で口を塞ぐが、堪えきれずに嗚咽が漏れた。今更ながらにプレッシャーと恐怖をまざまざと感じたのを思い出し、極度の緊張から解放されて安堵の涙が止まらなかった。


(━━これでやっと、帰られる)


帰ろうと思うが、まだ動けそうにもなかった。

護衛のジェナスがいなくて、誰もいなくて良かったと思う。そうでなければ、こんな無様な姿は晒せない。

こちらが対峙する前に、一応ルシン国とサヘル国の国境にも魔法師と魔法騎士団を配置して待機させていたジェナスから連絡があった。万が一そちらから同時攻撃された時に備えて貰っていたが、大丈夫との事。


良かったと心の底から安堵した。

まだロアの手は血に汚れていない。

誰も殺す事なく、最後の茶番も無事に終了した。これで晴れてお役御免になるだろう。ロアは体を丸めるように膝を抱き寄せ、深く息を吐き出した。もう暫くはこのままで。

終わればまた魔法師長として、復活するから。そう自分に言い聞かせて束の間の休みを取っていると。

雪と大地を踏む足音が近くからした。

刺客かと、緊張して体を強ばらせていたら。


「やっぱりこんなところで一人で泣いてた」


こんな所にいる筈の無い人の声に、後ろから回ってきた腕の温もりに、ロアは心臓が跳ねる程、驚いた。慌てて涙を拭いて、呼吸を落ち着けさせた。


「ロア、まだ後始末があるから解放できないけど、それでも山場は過ぎた。魔法師長の任を解く。だから、今は存分に泣いていい。ここには俺しかいないから」


涙が滲みそうになるのを堪えて、ロアは仏頂面になる。


「何で、こんな所にいるんですか」

「迎えに来た。安心しろ、仕事は終わらせたし、クリスたちがいるから」


少し前まで聞けなかった台詞に、疑っていただろう言葉の内容に、ロアは笑ってしまった。

くるりと振り向かせられて、空色の目と目が合う。

申し訳なさそうにどこか痛そうな顔をしているルースに、ロアは心配をかけたなと思う。

冷たい頬をルースの両手が温めるように触れた。目元に残る涙の跡を消すように親指の腹で擦られ、くすぐったくてロアは笑った。


深呼吸をして、ロアは真っ直ぐ視線を合わせた。

胸を張って、報告できる。

その事が嬉しくて、ロアは満面の笑みを浮かべた。


「━━陛下。ご命令通り、派手に茶番劇を終わらせました。死傷者はいません。全部、予定通りです」


ルースが瞬き、ふはっ、と破顔した。

蜂蜜色の髪が日の光に輝いて、空色の双眸も煌めき、ロアは純粋に綺麗だなと思った。この人を喜ばせる事が出来て良かったと安心する。


「ああ、実に見事だった! ありがとう、ロア。よくやってくれた!!」


その言葉が聞きたかった。

その為に、ここまで頑張ってきた。

ロアは微笑んでそっと目を伏せ、ふと、疑問に思う。


「陛下、こちらまではお一人でいらしたのですか? ですが、どうやって? 私が今朝、立つ時は城に居ましたよね。私は移動魔法でここに来られますが、普通なら早馬でも三日はかかりますよ? それに護衛はっ?」

「アルに送って貰ったんだ。迎えに行けって、ここに俺だけな。護衛は要らないだろ? 何たって我が国の自慢であり、至宝の魔法師長どのがいるからな」


手の甲に口付けられた。

敬愛の口付け。そして、称賛を込められて指先にも。

惑乱している内に、そのまま手を引かれて立ち上がる。


「━━帰ろう、ロア」

「はい」


最近、遠慮のなくなったルースを甘やかし過ぎな気がしたが、ロアは微笑んで、移動魔法を展開した。




***




それからのひと月は怒濤のように過ぎていった。

事後処理をしつつ、二月半ばから姿をあまり見せなくなった魔法師長はそのまま、人前に立つ事を辞めて淡々と仕事をこなした。

唯一の例外が、無事に三国と同盟を結べた功績に著しく貢献したと、国王陛下直々に褒賞が授与される式典。

四月の後半に行われたそこで、ロアは魔法師長を辞任する旨を伝えた。

瞬間、会場に激震が走った。が、それをルース国王が宥めて話を聞いてくれた。


昨年の冬から体調を崩し、年が明けてからも部屋で寝て過ごす日々。国境では無理して魔法を使ったが、自分の寿命は自分がよく分かる。もって一ヶ月。そういった事を切々と訴えた。


アルスマの看護で姿を見せなかった期間をも上手く利用して、周囲を信じ込ませた。実際に魔法師長の部屋に御殿医や薬が度々、届けられていた事を周りは知っている。

幸い、仕事は殆ど他の部下たちで回していて、ロアがいなくても支障はない。

交渉事も片付き、役目は終わったので暇乞いをと願い出た。

事前の打合せ通り。

ルースは、その場で了承してくれた。

クリスとカイン、大臣たちが異議を唱えたが、ルースは約束通り、ロアを解放してくれた。


それからは余命が一ヶ月と知れ渡り、刺客は減ったが、何故か余生の世話をしたいとの申し出が殺到して、ロアはかき集めた情報で脅して、ご遠慮願った。

ジェナスが呆れて、「最後まで喧嘩売るなよ。本当に可愛くねぇ」と恨めしげに言われたが、ロアは無視した。


師のアルスマは四月の半ばには容態がすっかり落ち着いて、無事に床上げし、ロアにしっかりこき使われた。

お菓子作りやレシピも教わり、ロアがオルマン国に修行にいって大会に参加する間、お店と母クレアを任せたら、感極まって泣き出した。

「嬉しいけど、嫌だ行かないで」と連日付きまとわれ、ロアは抱き締められる度に避けて、拳を叩き込んだ。ついでに「母に手を出したら、解ってますよね…?」と脅したら、笑顔を浮かべつつも黙ってふるふる震えたので、「番犬として宜しくお願いします」と釘を刺しておいた。


そうして、引き継ぎを全て終わらせた、四月の終わり。

ロアは魔法師長を辞して、オルマン国へ旅立つ日を迎えた━━。




***




すっかり春の日差しが降り注ぎ、芝生が生い茂る城の裏庭。平原のように何もない拓いた空間に、森や山に囲まれた普段なら人の姿がないそこに、ロアは質素な空色のワンピースを着て小さなトランク一つ持って佇んでいた。


王族の居住区である奥の宮で、既にセオルドとカレンティーナとは朝の内に挨拶を済ませていた。

二人とも心配だ、不安だ、ここに残ってくれていい、と何度も言ってくれたが、決して「行くな」とロアの道を阻む事は言わなかった。それが嬉しくて、ロアは二人に抱きついた。二人でぎゅうぎゅうに抱き締め返されて、窒息しかけたが。


むしろ往生際悪く最後まで妨害してきたのは、宰相のクリスだった。

何とか城に残そうと契約書にサインさせようとしたり、無理に婚姻を結ばせようとしたり、オルマン国行きの船のチケットの手配を妨害したり、あの手この手でしつこく煩かった。


仕方ないので、クリスと社交デビューしていない令嬢の噂をでっち上げたり(一時期ロリコンと影で言われた)、クリスを崇拝している野郎共を焚き付けて一緒の部屋に監禁したり(男を手玉に取る悪人と言われた)、魔法師の研究実験台にしたり、とロアに構うどころではなくしてやり、姿を変え、用心して人を使って無事に予備も含めて船のチケットを購入した。

幸いな事に、殆ど使う暇がなくて貯まる一方だった魔法師長とメイドと店の菓子職人の給金や退職金があり、余裕で数年は他国でも暮らしていけるだけのお金があった。


ロアにやり込められ、ルースや先王夫妻にも酷く叱られたクリスはそれから大人しくなった。これで一番とばっちりを受けたのはジェナスだが、何だかんだで要領よく流していたので、大きなな被害はなかった。そんな攻防も終わり、旅立つ晴れた日に、ロアは満面の笑顔で挨拶をする。


「それでは、お世話になりました。これからも頑張ってくださいね」


清々しい晴れやかなロアの笑顔に、ジェナスが苦笑し、クリスは悔しげにそっぽ向き、カインは嬉しそうだ。そのカインをエリーが小突いて、しょんぼりしている。

ルースは何かを考え込んで、真面目な顔をしていた。


「お前は本当に、最後までトラブルメーカーだよな。これで静かになってせいせいする」

「私も漸くジェナスから解放されると思うと、これまで頑張ってきた甲斐があるよ。後は君がハゲるよう毎日願っておくから」

「マジで止めろ!? っとに、お前は最後までどうしてそうなんだよ!」

「ジェナスが相手だからね。ハゲたら見に行くから教えてね」

「そう言われて教える奴がいると思うのか!? お前が居なくなれば心労もなくなるから、ハゲねぇよ」

「……師匠に頼んでおこう」

「怖い事言うな!?」


ジェナスがブルッと震えた。相変わらずのやり取りに、クリスが苦笑した。


「本当に変わりませんね。ロア、救急セットは持ちましたか? 船酔いは大丈夫ですか?」

「こいつがそんな繊細なわけねぇだろ━━ってぇ! 足踏むな!」

「本当の事だけどムカつく。マジでつるっつるにハゲろジェナス」

「自分でガサツと認めておいて、俺を貶すな!?」

「それと宰相」

「無視かよ!」


ロアはジェナスの存在を視界から外して、惑わす美貌のクリスを半眼で見やった。


「企んでいてもその手には乗りませんよ?」

「………最後にあなたから一本取りたかったのですが、残念です」

「クリス、まだ懲りてなかったのか…」


カインが呆れたように嘆息した。


「仮死状態にして、その間に手続きと既成事実を作れば、大丈夫かと思ったのですが」

「犯罪者が宰相か…。魔法騎士団長、捕まえて」

「ロア、真顔で冗談言うのは止めろ」

「いや、本気で」

「カイン様、わたしもロア様に賛成です」

「エリーまで…。クリス、お前も平然とするな。さっきの発言にはドン引きしたぞ」


クリスが堪えた様子もなく、肩をすくめた。カインが頭が痛そうにこめかみを押さえる。ジェナスはおののいて、そっと危険人物から距離を取った。

エリーがロアに「寂しくなります」と抱きつき、ロアも「今までありがとう、エリー」と穏やかに微笑んだ。

ルースが慈愛の眼差しでその光景を見て、嘆息した。ロアと目が合う。


「陛下、どうかお元気で。お体大事にしてください」

「……ああ、ロアもな」

「こいつなら船が難破してもしぶとく生き残るから大丈夫だ。拾い食いしてもけろっとして」

「ジェナス。黙らないとあの事バラすよ?」


ロアの脅しに、ジェナスは屈した。茶々を入れるのをやめて、言葉を交わす王とその王をよく支えて守った姉弟子を見た。

ジェナスが懐から琥珀の石を取り出して、眺める。


「ロア」


呼ばれたロアが振り返る。その前に、石を握った手を出した。ロアが受け取り、少しジェナスを気遣うように視線を向けた。


「本当にいいの? 言ったのは私だけど」

「いいんだ。ウィンとも話し合って決めた。これが一番だ。あいつの事をよろしく頼むな」

「勿論。ウィンがいれば私の体を使って、ムカつく奴はフルボッコだから」

「ごめん、やっぱそれ返してくれ」

「嫌だよ。何で返さなくちゃいけないの?」

「お前が恐ろしい事を言うからだ!」


すると、ロアが魔法を使ったからか、掌の石からダーウィン・レームが小さな映像となって出てきた。


「安心しろ、ジェナス。ロア様と姫様はどんな手を使っても守りきる」

「お前もこえーわ。余計なトラブルに発展させるなよ」


そんな二人のやり取りを見ていたら、内側からクーデリカがロアに声をかけてきた。恐らくこれで城を見るのも彼らに会うのも最後になるから、と。

兼ねてから、肉体に入ったクーデリカとダーウィンの魂を引き剥がせないか模索していたアルスマの成果が実り、ダーウィンとジェナスの解離に成功していた。ダーウィンの魂は元々入っていた琥珀の石に戻ったが、既に覚醒して時が流れ始めてしまった。

クーデリカもダーウィンも後はこのまま魂の力が尽きるまで、砂時計のように流れ落ちるのを待つばかり。因みにロアは最後まで付き合うと解離はしなかった。一緒にいて、クーデリカの残り時間が少ない事は分かっていた。

そんなわけで解離したならと、ダーウィンをクーデリカと共にロアが引き取ることにしたのだ。


ロアは黒い石を取り出した。そのまま足元に黒と黄色の石を離して置く。地面に手をついたまま、集中するように目を閉じて、思い描く魔法を発動させた。


土がボコッと膨れ上がり、二つの人形を形成していく。それにロアが光魔法で色彩をつけ、土人形に映像を被せると、等身大のクーデリカとダーウィンが出来上がった。


「え、あら?」

「姫様……これは…」


二人が動いて辺りをキョロキョロ見回し、自分の体や手の感覚を確かめている。遥か昔から蘇った姿に、夢で見慣れていた二人の姿に、ジェナスは皆が驚く中、一人で満足している姉弟子を見た。


「二人に自由時間をあげる。最後、なんでしょ。行っておいで」

「ロア」

「ロア様」

「おまけもつけるね」


ロアが微笑むと、何もなく草木が生い茂るだけだった裏庭に、色とりどりの春の花々が咲き乱れた。一面の味気ない緑の絨毯が、花の絨毯に早変わりする。そこに光の花が天からひらひらと舞い降りて、幻想的な空間を演出していた。


「この裏庭一帯に不可視と不可侵の魔法をかけたから、誰に見咎められる事もないよ。クー、あの時最後に願った事を叶えておいで」


クーデリカが海色の目を見開いて、泣きそうに笑った。それから真っ直ぐロアに抱きつく。


「ロア、ありがとう。大好きよ」

「それはどうも。感謝してくれたとこ悪いけど、初めてやったからこの魔法一時間ちょいしかもたないんだ。ごめんね」

「何を言ってるの。解ってるわ、わたくしとウィンの魂を保護して、この魔法。あなたに相当な負担がかかっている事も…。充分過ぎるわよ」

「それなら、良かった」


クーデリカがルースたちに向き直った。その彼女の後ろにはかつてのように、最強の護衛騎士が従っている。

革命の皇女は、典雅にドレスを摘まんで腰を落とし、洗練された振る舞いを見せた。綺麗な所作に見惚れ、頭を下げたクーデリカが顔を上げて目が合うと、ルースたち五人が我に返った。


「皆さん、わたくしの我儘に付き合ってくださって、この国を立て直してくださって、本当にありがとう。あなた方が諦めずに過去の悪しき体制を変えてくれて、良かったわ。これからもこの国と三国、リュシエントの事を宜しくお願いね」


クーデリカが綺麗に笑った。


「この世代に目覚めて良かったわ。楽しく過ごせて、わたくしの憂いも晴れたもの。どうか、絶やさないでね。それとお元気で」

「こちらこそ、ありがとう。八方塞がりでこここまでかと諦めかけていたんだ。クーデリカ、ダーウィン、ロアもここで力を貸してくれて助かった」


ルースが頭を下げると、クリス、カイン、ジェナスとエリーも頭を下げた。本来なら、見せられない姿だが、ここには不可視の魔法がかかっている。誰に見咎められる事もない。


精悍な騎士ダーウィンが差し出した手を、かつてのように微笑んでクーデリカが自分の手を重ねて、二人は散歩するように光の花が降る花畑へと向かう。

それは一枚の絵画のように、温かく穏やかな光景で、エリーが「綺麗…」と呟いていた。


「さて、私はこの辺で適当に時間潰します。皆さんは、お仕事に戻ってください」


ロアが切り替えるように告げた。

時刻は午前十時過ぎ。船の出港時刻は午後二時だ。ここで一時間過ごして、店に寄って母とアルスマに挨拶をする余裕があった。


「クーも言ってましたが、私たちが手伝えるのはここまでなので、後の舵取りはお任せします」


その一言に、しんみりとした空気が流れた。だが、街娘に戻ったロアは感傷もなくさらりと言葉を続けた。


「潰さないで下さいね」

「「「「………」」」」

「お前は、不吉なことを笑顔で言うなっ!」


ジェナスが返すと、ロアが少し考えて、笑う。嫌な予感にジェナスはおろか、クリスとカインも思わず一歩下がった。


「では、激励の言葉を一つ。ここまで協力させておいてバカみたいな結果になったら、今度は私が革命の皇女よろしく、師匠を使って民衆を煽って反乱を起こすので、気を引き締めて頑張ってくださいね」


ジェナス、クリス、カインから血の気が引いた。


「それは激励じゃなくて脅しと言うんだ! しかもお師匠を使うとかマジかよ、冗談にしておけ!?」

「……せめて、仲間のよしみで一度こちらに協力をして貰えませんかね」


遠い目をして、哀愁と色香を漂わせるクリス。カインは一人で激しく震えていた。ふいに、クリスがにっこり微笑んだ。


「ですがその発言は、国家反逆罪ですか。今から捕まえておいた方がいい気がします」

「無辜の民を捕まえて閉じ込めるなんて、変態ですか。ちょっと色々とおまけ付けて宰相様の噂を、オルマン国も含めて流しておくとします」

「それは止めてください!!」


クリスの笑顔が剥がれた。ジェナスが慰めるように、肩を叩く。


「ロア、クーデリカたちは」

「長くもって後一年かな。それも殆どを寝て過ごしてね。後の時間はあの二人の自由にさせるよ」


ロアが花畑を歩く二人を見て、目を細めた。ルースが隣に立って同様にその姿を眺めた。


「……それもあって、改革を押し進めたのか。早く自由にさせる為に━━自分が解放される為だったか」


その通りですと、ロアは満足げに頷く。最後まで露悪的に振る舞う姿に、ルースが苦笑した。


「ところで、クーデリカの最後の願いって何だ? 以前言っていた、普通の女の子として過ごしてみたかったというのとは違うのか? それはロアと居ることで叶ったと言ってたよな」


ルースが隣を見ると、ロアは少し言葉にするのを躊躇っていたが、目が合うと少し眉根を寄せて、クーデリカを見つめながら答えた。


「……。勿論、普通の女の子として過ごすというのも願ってました。………疲れ果てた革命の皇女は誰にも必要とされなくなって、誰もいない寂しい場所で、独りで何十人目かに渡された毒をあおったんです。孤独死の中で自分の人生を振り返って、あんなに地獄のような世界でも人びとが笑いあえて明るかった、恋や愛といったものに憧れていました。普通の女の子としてそんな風に過ごしてみたかった、と」


ロアが少し言い淀んで、クーデリカたちを見て一つ息を吐いた。ジェナスが困惑する。


「でもロア、クーデリカが好きだったのは自分の師であるセイロン・カルマンだろ? 箱庭しか知らなかったクーデリカを外に連れ出して、色々なことを教えて見せてくれた」

「え、何で知って……ウィンか。ジェナスが彼の記憶を見ても気づくわけないし」

「お前は本っ当に、俺に失礼だなっ! 俺だって気付いてたわ! って、そこで意外そうな顔すんなっ」


怒るジェナスをロアは平然と無視して、話を続けた。彼女だけが知る、五百年前の皇女の真実を。


「ジェナスの言った通りだけど、クーのはね…恋に恋してというか、セイロンへは憧れの方が強かったんだよ。だから成長して革命の皇女としてウィンと二人で行動して、革命を成し遂げている間に変わっていたというか、どんな時もクーらしく強くいられた大きな存在への気持ちに漸く気付いたの。本当に死の間際でね」

「それじゃ……」

「本当の最後の最後に願ったのは、ずっと支えて仕えてくれた護衛騎士に気持ちを伝えること」


クーデリカの過去の思考と感覚を全て共有してきたロアが言うのなら、間違いないだろう。ダーウィンの強い思いを知っているジェナスは、心が温かく満たされていくのを感じた。


「ははっ、ウィンの想いが報われる時が来るなんてな」

「ね、漸くだよ。この国が落ち着くまではーって先延ばししてたからね。まぁ、ウィンには何よりのご褒美じゃない。きっと、この先の二人の時間は、もう長くないから。なるべくどうにか二人で会わせられるようにするけど、二人で存分に話し合える時間は少ないからね」

「……ウィンを引き取るのもその為か。ちょっとはいいところもあったんだな」

「ジェナスに誉められても全く嬉しくない。それよりは早くはげて欲しい」

「やっぱ可愛くねぇ!」


ロアは五百年経ってやっと穏やかに笑って話せる二人を見て、踵を返した。


「邪魔しない為にもさっさと退場して、早く仕事に戻った戻った。それと、━━さっきの言葉は嘘ではありませんからね」


ロアのふざけた雰囲気がガラリと変わった。

覚悟を問うように、ひたとルース、クリス、カイン、ジェナス、エリーを見据えた。


「ここまでお膳立てされて、次にまた民衆が反乱を考える程彼らを蔑ろにして恨まれるのであれば━━あの二人がかけた貴重な時間を無駄にするような結果になったら、終わって貰います。肝に命じておいてください」


喉元に刃を突きつけられたような圧迫を感じて、五人がごくりと喉を鳴らした。ジェナスが引き吊った顔になる。


「……容赦ねぇな」

「当たり前でしょ。あの二人は、今回の為にこの時代まで残っていたわけじゃない。セイロンが二人に幸せになって欲しくて、二人が命を懸けた結果である五百年前より発展して続く国を見て笑って欲しくて、救われて欲しくて、それだけを願って魂を残してたんだよ。クーが我慢出来なくて無理くり出てきちゃったし、目覚める時もクーが望んだ時になっちゃったけど。━━本来ならなかった幸運なんです」

「……それはアルから聞いたのか?」

「はい。黙っていた事も、しっかり洗いざらい吐かせました」


ルースが真摯に、ロアの厳しい眼差しを見つめた。


「約束しよう、ロア。貰ったこの幸運の機会を無駄にはしない」

「━━しかと、承りました。世界の行く末を見守る賢者の師には、違える事なく伝えておきます」


クリスやカイン、ジェナス、エリーがほっと詰めていた息を吐いた。ロアの厳しい雰囲気もいつものように和らいだ。


「私からは以上です。半年間、お世話になりました。二度とご縁がないことを祈っておきます」

「随分と冷たいな。何故、話し方も敬語に戻ってるんだ」

「魔法騎士団長が仰るなんて意外ですね。ああ、エリーの為ですか。心配しなくても、エリーとはこれまで通りですよ。ただ、今の私はあなたの上司でもなく普通の平民ですから、言葉遣いは一応敬語で。敬っているかどうかはともかく」


最後の歯に衣着せぬ物言いに、ロアらしいと感じて、カインが呆れて苦笑した。ロアはその隣にいる茶髪の少女に目を向けた。


「エリーが嫌にならない限りはいつでもお店に遊びに来てね。オルマンから戻ったら、連絡するから。良ければ、母の相手になってあげて」

「はい、必ず。アルスマ様が変な事をしないようにしっかりカレンティーナ様と見張っておきます」

「ありがとう」


ロアが笑うと、エリーも笑った。

ジェナスが思い出したように、口を開く。


「師匠と言えば、お前よく許したな。クレアと一緒に住むことを。いくら不在の間、店を任せるからって大丈夫か? ていうか、師匠ってお前が好きなんだと思ってたわ」

「そうだね。あの人は私たち家族がお気に入りなんだよ。師匠が家庭の輪に入ってきても、師匠の取り合いしたり、血生臭い修羅場を演じる事なく、どこまでも普通で壊れなかったから。父も母も遠慮なく怒ったり誉めたり、お使いや掃除頼んだり、師匠が落ち込んだら甘やかしたり、皆でご飯食べたり。誰も師匠の美貌に見向きもせず、特別扱いもしないで普通に扱っていたから、それが師匠には嬉しかったみたい」

「……それだけ?」

「それだけだよ。で、お母さんに恋して、緊張して上手く話せないってうじうじ悩んでた。これまでも何度か家の近くまで来ては、会わないで旅に出て、魔法で手紙だけ毎週送って来て、格好よくなったら会いに行くって勝手に自分の中で決めていたから放っておいた。今回のは緊急事態だから対面したけど━━ただのヘタレだよ。どうせ駄目なところはバレてるのに、気を引こうと別の人と付き合っては全く見向きもされていないという……何でジェナスが落ち込んでるの」

「俺の中の師匠が、崩れていく…。てか、不憫過ぎる」

「そんなわけで、別に気にしてないよ。一緒に行くって言ってきたけど、暑いオルマンの気候にお母さんは倒れそうだし、お店を離れたくないみたいだし、完全に体調が戻るまではこの国で過ごして貰った方がいいでしょ。師匠なら客寄せにいいし、お母さんと違ってお菓子作れるし、ある意味優秀なヘタレの番犬だから」

「利用する気満々だな。師匠への扱いも雑過ぎる!」

「本人喜んでいたから、問題ないよね」

「お師匠……残念過ぎ…」

「師匠が頑張っても空回りで終わりそうだし、お母さんが受け入れて上手くいくならいくで構わないよ」


一同が面食らって、飄々としているロアを見た。


「そして師匠が変な暴走をして嫌われても、私は構わない」

「鬼だな、お前。知ってたけど」


黙る面々を代表して、ジェナスがしみじみ告げた。ロアが煩いと、ぞんざいに手を振った。


「もういいでしょ。いい加減、早く仕事に戻りなよ」

「面倒臭くなって雑にするの止めろ。陛下にまで失礼だろ」


水を向けられたルースが微苦笑した。


「ロアの言う通りだろ。戻るぞ」


ロアがやっと話が進んだ事に、ほっとしたように頭を下げた。クリスやカインが納得がいかない顔をする。それを空気を読んだジェナスとエリーが二人の背を押して、促した。


「ロア、ありがとうございました。あなたの考案した数々の魔法具は大切に使わせていただきます。気が変わったら、いつでも戻ってきてくださいね」とクリス。ロアは苦笑して「気が向いたら」と流した。カインが真面目な顔で「魔法師も騎士団もまとめて、しっかり務める。ありがとう、ロア」と頭を下げた。

エリーも微笑んで「ロア様、お帰りをお待ちしております。それではまた」とカインの背中を押した。


「向こうで暴れるのも程々にな。元気で」


ジェナスは正面に立って、手を差し出した。ロアが「ジェナスもね」と握手する。

ジェナスはあっさり背を向けて、クリスを促して歩いていった。

残されたロアとルースが向き合う。


「……心変わりはないか? ここで、俺の隣に立って支えてはくれないか?」

「残念ながら、私では務まりません。どうぞ相応しい立場の方を見つけ、幸せになって下さい」

「……どうしても、受けて貰えないか?」


ルースの悲しげな顔に、ロアは困ったように微笑んだ。


「私とは偶然、道が交わっただけです。物怖じしない私が珍しくて、後見人になって庇護下の巻き込まれた私を大事に気遣ってくれただけに過ぎません。色々と事情を知り、仲間の私が離れるのが寂しく惜しいだけですよ」

「それだけじゃない。俺の気持ちを勝手にお前が決めるな。それに、そう言い聞かせているのはロアだろ」


ルースが眉間に皺を刻んで、もどかしげに空色の瞳を細めた。じっと探るようにロアを見るが、控えめな笑顔の仮面から変化はない。ロアは困ったように微笑みながら、小さく嘆息した。


「……そう仰られても、誰も祝福してませんし、望んでませんよ。魔法師長だって、力を失って死ぬだけと知った貴族の方々は、今までご苦労だったと簡単に切り捨てました。魔法師長でもないただの平民が隣に立てば、彼らが許さないでしょう。国が乱れます。今度はまた内乱なんて嫌ですよ。巻き込まれるのは民です」


ルースは内心で舌打ちしたくなった。表情は苦々しいに違いない。

ロアの言った事は事実で、散々助けられて世話になったのに、貴族議会はいとも簡単に魔法師長を見捨てた。城に残って余計な口を挟まず、療養費もかからずに済んだと言った者さえいる。

口さがない一部の子爵や伯爵といった輩には、仕事を減らして窓際に追いやることにした。

ルースは目線を下げて、困り顔のロアを見た。


「……ロアは?」

「え?」

「お前の正直な気持ちはどこにある?」

「………陛下、私は畏れ多くも、まだ忠誠を捧げております」


ルースが僅かに息を呑んだ。ロアがそっと目を伏せる。


「…他に誰が何を言おうとも、私にとってあなたは間違いなく、敬愛すべき我が君です」

「ロア……」


嬉しい。少し前なら純粋に思っただろう。でも今は違う。勿論、この上なく喜ばしい評価だ。だが、今のルースには、それじゃ足りなかった。他に求めているものがあった。


「━━それだけか?」

「………はい」

「ロア、それじゃ全然足りない。尊敬や忠誠や敬愛じゃ、足りない」


自身で気づかずにどんどん俯くロアの顔を、ルースが頬に手を添えて上げさせた。


「そんな表現では満足できないんだ」


自分でも厄介だとルースは苦く笑った。キョトンとしたロアが当惑して、落ち着かないとばかりに目線をさ迷わせた。


「えーと、……そう言われましても…」

「ロア。あの時、二年は忠誠を誓うと言ってくれたよな」

「え、はい」

「その言葉に偽りはないか?」

「はい、勿論です」


最後の質問には、いつものように彼女らしく真っ直ぐ視線をぶつけてきた。その事にルースは口の端をあげて、笑う。

一方でロアは、その艶然とした笑みに、ぞわっとした。自分が返答を間違えたような気がしてならない。獰猛な肉食獣に捕まったような感覚。

警戒したロアに気付いたルースが、柔らかく微笑む。


「そうか。それなら━━命令だ。傍にいろ」


ロアが目を瞠った。


「え……? 陛下、正気ですか?」

「勿論」


ルースが頬に添えた手で擽るようにロアの頬を撫でた。


「………私の身分では隣に立てませんよ。魔法師長のように周りが納得する特筆すべき点もございません。愛人として、城ではなく外で囲うおつもりですか?」


ロアが傷ついた心を怒る顔で隠し、睨んだ。ルースが楽しげに笑う。


「それも静かに過ごせていいかもな」

「陛下!」

「そんなに怒るってことは、隣に立ちたかったってことか?」

「━━そんな事は申し上げてません!」

「それじゃ何を怒っている?」

「…………陛下がそんな命令をするなんて、思いませんでした…」


失望したと言外に滲ませてルースの手を払い、顔を隠すように俯くロア。ルースは確信を得たように、笑みを深めた。きっとロアも上手くルースを騙せたと笑っている気がした。


「何を言ってるんだ。王様なんだから少しくらい傲慢で我儘に振る舞っていい言ったのはロアだろ。その通りにしただけだ」


弾かれたようにロアが顔を上げ、悔しげに口を噤んだ。確かに言った記憶がある。


「それに、嘘をつくな。ロア」

「……嘘、とは?」


不思議そうな顔をして真っ直ぐ見つめてきたが、ルースの言葉にほんの少し反応した事に、ルースは気付いていた。


「正直に自分の気持ちを教えてくれなかっただろ」

「その根拠は?」

「目だ」


ロアが怪訝な顔をする。


「いつも真っ直ぐ相手の目を見つめて言うお前が、気持ちを訊いた時、忠誠を捧げ敬愛していると言った時だけは顔を俯け、目線を合わせなかった。他はしっかり合わせたのに」

「……」

「隠し上手なお前を見てきたんだぞ。偽りかどうかくらい分かる」

「それと、大分前からもう一つ隠し事があるよな?」

「……」

「ロア。お前、魔力量増えてるだろ」

「……」

「説明、いるか?」

「……」

「ロア?」


悔しげに唇を噛んで俯くロアの顔を覗き混んで、ルースは破顔した。ロアがふいっと顔を逸らした。自分にだけ見せてくれる振る舞いに、ルースは嬉しくて笑う。


「……どうして、分かったんですか」

「うん、クーデリカに交代することなく、大技をバンバン使っていたからな。それも発動に時間がかかることもなく、すんなりと。それに以前にも言った通り、稀だとはいえ、後天的に魔力が増えた例はある。気になったから、アルにも確認した」

「師匠め、余計な事を」

「ロアも隠せてなかったからな」

「まさかバレてるとは思ってませんでしたからね。実際に気付いたのは陛下だけじゃないですか」


怒ったように不貞腐れて言うロアに、ルースは益々笑みを深めた。機嫌を取るように、頬を指で撫でる。

やっと素直に認めた。一度認めれば、ロアはもう誤魔化そうとはしない。

よしよしと褒めるように撫でて抱き締めると、ロアは頬を染めて悔しげにルースの服を引っ張りながら、事情を話した。


ロアの魔力量は少なかった。それは本当だ。ただ魔力を留める器は大きかった。それは本人も大きな魔法を自分で使えるようになって、気付いたらしい。

それでは何故、ずっと扱える魔力量が少なかったのか。それは体を流れる魔力の通り道の問題だった。ロアの魔力を放出する通り道は細く、無茶をすれば破裂して体に害を与える程弱かった。

それがクーデリカを受け入れた事によって、どういうわけか変化した。細かった魔力の通り道が拡張され、強化された。大きな魔力を放出できるように。

例えるなら、生まれつき詰まれば破裂しそうに細かった血管が、成長するにつれて太く丈夫になったように。


それからは以前よりも魔法の使い勝手がよくなり、大技も使えるようになった。ロアは恐らく、クーデリカの魔力を全て貰ったのではないかと自分なりに仮説を立てていた。元から器が大きかったから、クーデリカの魂を難なく受け入れられ、彼女の膨大な魔力を持った魂を怖いとも、怯えることもなく主導権を握っていた。


聞いたルースは納得した。大体アルスマが言っていたことと同じだった。つまり、今のロアはクーデリカ並かそれ以上の魔法師の実力を持っていた。


「どうして隠そうとしたんだ?」

「……もう、魔法師長は必要ないでしょう?」

「……そうだな」


漸く稼働した新体制。

もし魔法師長になれる者が出てきたら、今後も出てくる可能性を示唆して、また元の体制に戻るかもしれない。たまたまこの三十年、現れなかっただけで、今後も出てくると勝手に期待するかもしれない。━━魔法を扱える者が減っているというのに。

ロアの現象だって、偶々だ。クーデリカがいなくても、後天的に目覚めた可能性はあるが、それがいつかはわからない。目覚めない未来だってあった。


腕の中にいるロアを見ながら、ルースは思う。

それに彼女を魔法師長の座につけるという事は、また一人で全部を背負わせるという事だ。刺客に狙われて、貴族や民から求められて、「化け物」と影で罵られる。そんな目に遇わせたいとは思わない。

ルースはぎゅっと強く抱き締めた。

けれどそれでも、ルースは手放したくなかった。傍に居て欲しかった。


「ロア、覚悟を決めてくれないか? 俺が守れるように頑張るから、だから離れていくな」

「………命令ですか?」

「ああ、お願いしても無理なら。命令だ」


くすりと笑ったロアに、ルースも強気に笑って見せた。


「それに、情があるだろ。この城にも、働いた仲間にも、俺たちにも。結局、困って助けを求めれば、見捨てられずに駆けつける未来が見えるのはお前が一番よく解っているはずだ。何より、俺の事が好きで離れられないだろう。だから、無駄な抵抗は諦めろ」


ロアが目を丸くして、呆れたように、やられたと会心の笑みを浮かべた。


「あなたって人は…」

「観念して、大人しく捕まっておけ」


腕の中に掴まえて、ぎゅうぎゅうに閉じ込めると、ロアは観念したように、ルースの背中に腕を回した。

ルースが喜びを噛み締め、ほっとしたのも束の間。

腕を緩めて相対したロアは、条件を出した。


「陛下、ご褒美の約束覚えてますよね?」

「? ああ、勿論」

「では二年は自由にさせてください。私をオルマン国へ行かせてください」

「━━」


ルースの笑顔が青ざめていく。ロアは気にせず話を続けた。


「その間に、魔法師長の存在を希薄にして、新体制を根付かせて下さい。私もその間に、夢を叶えてあなたの隣に立つ覚悟を決めて来ます。そうしたら、また頑張ってみます。恨まれようとも嫌われようとも蔑まれようとも、この手を血で汚すことになろうとも」


それはルースの為だけに選んでくれたロアの決断。

真っ直ぐ見つめる黒曜石のような双眸は、澄んでいて曇りはない。本気だと信じられた。約束を違えない事はもう知っている。

それで確実に手に入るのなら、安いものだろう。少し、いや、かなり残念だが。どうしても深い溜め息が出てしまったが。


「……わかった。なるべく早く決めてくれ。短くなるのは大歓迎だ」

「……考えておきます。陛下は━━他に良い縁談があって気持ちが傾いたら」

「傾かない。だから、そちらを選べとか、身を引くとか言うなよ?」


不穏な笑顔で告げた。ロアがそんな事を言った暁には、強制的に閉じ込めようと物騒な事を本気で考えた。


「言うなよ?」

「……言いません。その時は、この城を半壊させますから、覚悟しておいてくださいね」


ルースが吹き出した。笑われてムッとするロアの頭を撫でて、機嫌を取る。だがロアはあやされていると思ったらしい。


「ついでにその時は、友人のリュシエント帝のところに━━んぐっ!?」


文字通り、唇を唇で塞がれた。ロアが頬を紅潮させて、目を白黒させた。解放され、ロアは顔を赤くしながら、ルースから距離を取ろうと手を突っ張る。が、腰に回った手のせいで、そんなに離れられなかった。


「友人? お前に好意を寄せている氷の皇帝と? あまつさえ、そこに行く?」

「い、行きませんっ! ものの例えです」


ロアは頭を横に振って、否定した。笑顔が怖い。とんでもない人に捕まった気がしたが、後の祭りだ。もう離れる未来が思い付かない。


「それならいつの間に、名を呼ぶほど仲良くなった?」

「決戦の時に捕まって、名前で呼べと畏まるなと言われたので」

「その報告は受けてないぞ」

「……私、個人の事なので」

「魔法師長じゃないロアとしてって事か。もしかして、名前も教えたのか?」

「一応」


ルースは大きく息を吐いた。

微かに潤んだ瞳を見て、宥めるように目元を指で擦った。ロアの肩に額を付けて項垂れる。


「ロア、俺も名前で呼んで欲しい」

「陛下を、ですか?」

「ああ」


これから先、ルースが立派に王としての務めを果たせば果たすほど『王』と見られ、『ルース』と見られる事が減っていく。

それは良い事なのだが、誰にも自分の名前を呼ばれなくなる事は、寂しい気がした。幼馴染みでも従兄弟でも臣下なら名前を呼べば咎め立てられる。けれど、隣に並び立つ者になら甘える事も名前を呼ぶ事も許される。


「……徐々にでも、いいですか?」

「それでいいが、なるべく早くな。それと、時々は戻ってきて顔を見せてくれ」


額を合わせて懇願され、ロアはくすくすと笑った。


「━━畏まりました、ルース様」


溜め息を吐くようにルースも笑って、再度唇を重ねた。

春の麗かな日差しの中、手を繋いでやって来た皇女と騎士がそっと見守って、微笑んでいた。




***




後に大陸随一の発展を遂げるファウス国の礎を築いたとされるルース国王の時代は、彼の即位と共に最後の大魔法師が二人立った珍しい時代だった。

一人はクーデリカ・オルシュタイン。彗星の如く現れ、半年の在任で消えてしまった。

もう一人はロア・ノーウェン。歴史上、最後の魔法師長であり、初の平民出身の王妃となったと言われている。


国内外の貴族たちがこの結婚に反対したが、先王夫妻や宰相、大臣たちの後押し、それと急に青ざめて意見を翻した貴族議会と、民の熱烈な歓迎により、すぐに承認された。

ただ魔法師長という地位は、前任のクーデリカの辞任と共に完全に新体制に移行していた事もあり、軍からも国家体制からも無くなっていたが、どこにも属さない個人として魔法師長の称号のみがおくられた。ロアの死後、その地位は完全に歴史書からも失われる。

彼女が従うのは夫のみで、その忠臣ぶりはかつての魔法師長クーデリカを彷彿させたという。


王妃はよく王を支え、特に外交面で力を発揮した。

不思議なことに王妃は初対面の筈なのに、氷の皇帝とは個人的に友好があり、ルシン国王と対面した際は盛大に笑われ、サヘル国王と対面した際は王が青ざめてひっくり返ったらしい。

ただ三者とも、以前より交流があるようだったとだけ文献に残されていた。その後、何故か三国の王は、彼女と対面すると怯えており、交渉事はファウス王妃の独壇場だったと伝えられている。


また海を渡ったオルマン国とも交流を持ち、食や海運が発展して、これを機に大陸の人々の生活は格段に豊かになっていく。

新しい食材やメニューが伝わり、王妃が広めたお菓子は人気を博して、大陸全土に広まった。

一説によると、オルマン国王が王太子であった頃に、留学して『黄金のパティシエ』の称号を授かった王妃とお菓子に惚れて、ファウス国に追いかけてきてから、交流が本格的に始まったと言われていた。


ファウス国の発展と活躍は目覚ましく、今日こんにちに至るあらゆる学門、それを基に国が支援したものづくりが発展し、他国が特色として長じていた武器や作物、流通路や運搬技術よりも、質も性能も良いものを作り出して成果をあげ、格段に生活が楽に豊かになった。


同時に魔法が華やいだ最後の時代とされ、三百年後に魔法を使える者がいなくなるまで、どんなに小さな魔力でも使用可能な道具を作り出し、更には他国への牽制、抑止力となるファウス王家の国宝も作られた。

それは王族のみに扱える魔法具で、一国どころか下手すれば大陸ごと滅ぼす威力を秘めた武器だった。

これらの数々の魔法具制作には王妃が関わっており、後に国宝とされる武器の制作者も王妃と言われた。


国宝を含め多くの発展を築き、華々しく開き始めたルース国王の時代は、後の千年王国の始まりと称えられるほどで、稀代の賢王と名高く、常にその隣にいた最後の大魔法師である黒髪の王妃と共に今でも民に慕われ続けている。







これにて完結です。

誤字脱字、誤植は気づき次第直しますが、内容に変更はありません。


初投稿で拙い文、曖昧な設定にも関わらず、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。少しでも楽しんで頂けていたら、幸いです。

良い一年をお過ごし下さい。

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