32, 2 - ⑥
お待たせしました。
今週末にもう一度投稿したいと思っています。
その後は、年末まで忙しくなるので不定期更新になりそうです。すみません。
それでも40話以内には完結させる予定ですので、お付き合いくだされば幸いです。
ロアとルースの予想通り、やきもきしていた先王夫妻の前に姿を見せると、二人は目に見えて胸を撫で下ろした。負担を考えてすぐに会場から引っ込んだとはいえ、側にいられなかった分、やはり心配で仕方なかったようだ。
「セオおじさま、ティーナおばさま、ご配慮ありがとうございました。お陰で夜会も予定通り何事もなく終了しました。成果はまだわかりませんが、重畳かと思われます。後は三国次第です」
城の最奥、王族が住まう奥の宮。
十数人が座れそうなテーブル席とソファー席がある広いリビングで、先王とその后はソファー席について、そわそわしていたが、入室したロアとルースの姿を見て報告を受けると、ほっと胸を撫で下ろした。
「ああ、無事でよかったわ、ロア! あなたには本当に苦労を掛けたわね。とりあえずその姿を解いて、いつものあなたに戻ってちょうだい。それで晴れ姿を存分に見せて」
カレンティーナが席を立って、ロアに抱きつく。セオルド先王も抱きつこうとしていたが、妻に先を越され所在なさげに二人の側でうんうんと、頷いた。
ロアが困ったように苦笑して、周囲へ見せていた幻想の姿の魔法を解いた。本来なら腰まである長い空色の複雑に結われた髪型が胸元までの漆黒の髪色の簡単にまとめた髪型へ。海色の瞳も黒曜石のように黒々とした双眸に、クーデリカ皇女の姿から街娘のただのロアの容姿へと戻った。
先王夫妻がようやく少しだけ離れて、改めてロアの着飾ったドレス姿を堪能した。ルースもロアを見つめる。
「似合っているわ、ロア! もう本当に可愛い! 娘にしたいくらいに可愛いわ! 会場の様子はハルカスから逐一に報告を受けて聞いてはいたけど、大丈夫?」
「全く、ジェナスやクリス、カインには困ったものだ。肝心な時に席を外してロアへの負担を大きくして。そして他国の王も! 僕が居れば、ロアとダンスして側を離れなかったというのに」
憤慨した夫妻が左右からぎゅうぎゅう抱き締めて、ロアを労う。そのロアは困惑していたが、今やすっかり諦めた遠い目で二人にされるがままだった。見かねてルースが両親を引き剥がし、ロアの手を引いて背後に庇った。
二人が不満げに息子を見やる。助かったロアがすかさず口を開いた。
「落ち着いてください、お二人とも。わたしはこうして無事ですし、あの三人には仕事を押し付けて、宰相と騎士団長にはちょっとした特別訓練に参加させる事にしましたから。その後でエリーとおばさまに協力していただいて再教育しましょう。それと本日の晴れ姿は陛下ですよ」
「そうね、後で再教育しましょうか。ルースもお疲れさま。立派だったわ」
カレンティーナがロアに同意して、息子に微笑んだ。ルースが疲れたように嘆息し、肩から力を抜いて微笑む。
そこに隣室から青髪のハルカス少年が、お茶をのせたカート用意して現れた。ルースとロアに気づいて、一礼する。
四人がソファーに座ると、ハルカスが紅茶を淹れて給仕してくれた。その後は壁際に気配を消して控えている。
「でもロアに何もなくてよかった。安心しなさい、君にちょっかい出そうとした輩は全員、処罰するから。よりにもよって何故この大事な日に事を起こそうと馬鹿をやらかしたのか、全く頭が痛いよ━━それもあれだけ脅しておいたのに、ロアに手を出そうとするなんて」
「本当ね。そんな馬鹿貴族は要らないわ。今すぐ剣の錆にしてあげたいのだけど、それはダメだってケネディに止められたの」
笑顔で怒る両親に、ルースが少し身を引いた。とても嫌な予感がした。セオルドとカレンティーナが顔を見合わせ、にっこりと上機嫌に微笑む。
「それで考えたのだけど。魔法師長だというのに、あれだけわたくしと陛下で脅したのにも関わらず、手を出し続ける一因は身分にあるのではないかと思ったのよ。だからロア、あなたうちの子になりなさい」
「僕もそれがいいと思うよ。僕たちの養子として娘になれば、王族に手を出すバカは減るだろう。ちょうど僕たちもずっと娘が欲しかったから」
満面の笑顔のカレンティーナに、とても嬉しそうなセオルド。名案と言いたげな二人にロアとルースは互いの顔を見合わせた。
絶対に最後のが本音だろう。
「……セオおじさま、ティーナおばさま。申し出はありがたいのですが、それでは余計に注目を集めてこの国の貴族と他国から政略結婚の相手として望ましくなるだけですよ」
「それはダメだ! 他の奴らになんて渡さないよ!」
「そうよ、ましてや他国なんて街にいた時以上に会えなくなっちゃうわ!」
「……そうですか。ではこのままで。大体私が王族になったら益々暴走を助長させる上に、更に止める人がいなくなって、王族の権力を活用して色々やらかしますからやめておいた方がいいです。娘が欲しいのならそこはルース陛下に頑張っていただいて、いいお嫁さんを貰ってください━━ね、お義兄様」
冗談めかしたロアの呼び方に、ルースが身震いした。期待に満ちた父母の眼差しにさっと目を逸らし、大きく吐息した。
「今はまだそれどころではありませんので。国内の候補者たちはロアに手を出して自滅しては減り、国外からは迎えるところではないでしょう」
先王夫妻が嘆息して、「どこかにいい子はいないかしら」、「いざとなったら議会の説得はこちらで何とかするから、身分なんて気にしないのだが」と紅茶を優雅に飲むロアをチラチラ見て来たが、ルースもロアも澄まし顔で取り合わなかった。
その様子にセオルドとカレンティーナが残念そうに吐息した。
ロアがにっこり微笑む。
「それでしたら、国に触れを出して側妃でも何でも募ってはどうでしょう? おじさまとおばさま基準で面談して、娘にしたい人を陛下に薦めてみては?」
「ロア!? 俺を売るな!」
ルースが慌てるが、セオルドたちは聞いていない。引退して時間に余裕があるからと提案を真剣に考え込んでいる。
ルースは隣で涼しい顔をしている魔法師長を恨めしげに見て、強引に今夜の夜会であったことの報告をして、話題を変えた。
***
先王夫妻から解放されて。
ロアとルースは奥の宮の見事な庭園を城へ戻りながら、ゆっくり歩いていた。まだ風がないので、これまでと比べて暖かい穏やかな夜だ。
星月夜に照らされて並んで歩く姿は、端から見れば実に仲睦まじく映ることだろう。二人が話し合っているのは色気の欠片もない今宵の夜会の出来事についてだが。
「ルシン王についてはわかった。きっと大丈夫だろ。駄目押しとして明日、帰る前にこれまでの品種改良の成果、各作物の病気への薬の効果、新種の肥料による作物の質や出来高、それ等の簡単な資料を渡して、専門家を派遣して説明させてみるか。それで釣れたら安いものだ」
「そうですね。最後の脅しと揺さぶりをかけてみましょう」
頷くロアに、「それにしてもよくもまぁ脅したな」とルースが感心したように苦笑すると、「脅すのはただですから」といけしゃあしゃあとロアは相手の痛みも恐怖も考慮せず返した。
実際に脅す事くらいなんて事はない。どんなに言葉で恐怖を与えても、命まで獲られる事はないからだ。でも戦争は違う。あらゆるものを傷つけ、奪っていく。
それなら冷酷非情と嫌われようが、人でなしの薄情者と罵られようが、ロアは戦争回避に努める。どんなに自分が脅威に晒されようとも、特大魔法を使って大量殺戮をするよりマシだ。始まったら、簡単には止まらない負の連鎖を未来に繋げるよりも遥かにいい。
ルースだって賛同してくれた。ロアが抑止力として人を殺さなくてすむ方法に。ただ、ロア自身もなるべく危険にならないようにと、口を酸っぱくして何度も言われたが。
「それでロア。ルシン王との事はいいとして、サヘル王とはどうだったんだ?」
「……サヘル王もルシン王と大して変わりませんよ。先ほどご報告した通りです」
淡々と常の通りの魔法師長に、ルースが目を細めた。内心でため息を吐き、隠し事を暴くことにする。
「熱烈な求婚だったな。それを笑顔で過去の女性遍歴を暴いて返すのは、確かに可愛くないと言われても仕方ないだろ」
「えっ!?」
ロアが素をのぞかせて驚いた。思わず隣の主人を呆然と見上げるが、当のルースは楽しそうに微笑んでいた。鉄壁の仮面が外れて、不意打ちが成功したと満足する。そこに更なる爆弾を投下した。
「挙げ句、平然と殺すぞと脅し返すのも可愛いげがない。この国で他国の王が死んだら、ファウス国に押し入る大義名分を与えるとんだ醜聞だが、それは向こうもわかってただろ。その場合、お前が闇魔法か何かで操り人形よろしくサヘル王を使って、自国に戻るまで保たせると向こうも踏んでいた。幸い、夏場じゃないから遺体も腐りにくいからな」
唖然とするロアの黒い目に、からかうように笑うルースが映った。目を丸くしながら、理解して青ざめる自分を楽しく見つめるルースに、(やられた…)とロアは顔の上半分を片手で覆った。
「サヘル王に本来の性格が似ているサーシャ姫は、身分は申し分ないが王妃には相応しくないな。国庫を簡単に潰されそうだし、恋多き人だから愛人や不貞を疑ったらキリがない」
「………そこまで陛下もご存知でしたか。そうですね、仰る通りかと思われます。現在もサヘル国内に五人の男性と関係があるとか」
「まぁその姫が来たら来たで、優秀な魔法師長がきっちり教育するか、それに耐えられず国に戻るかのどちらかだろうけどな」
ルースが笑うと、ロアは苦虫を噛み潰した顔になる。それから主の鮮やかな青空の瞳を軽く睨んだ。
「………どうして会話の内容をご存知なんでしょーか。どうやって……いえ、どんな魔法を使ったんです?」
「それに答える前にロア、何があった?」
「予想がついているのにわざわざ言わせようとするんですか」
「黙っている事が俺への忠誠か?」
珍しくロアが「うっ!」と言葉に詰まった。他者には見せないむすっとした表情にルースは益々笑みを深め、隠さずに素顔を見せてくれることに安堵した。
「………例のド変態ストー」
「それには探らせていない。そいつは王都で別任務中だ」
ルースにすかさず遮られたロアが、ちょっと考える。
「……見ていたわけではない、のですね?」
「残念ながら音だけだ」
「それは夜会のダンスの時もですか?」
「周りがうるさくて難しかったな。ルシン王の時は聞いていなかった。イオニス皇帝の時は最初の方だけ断片的に。そうでなくても皇帝のお前を見る目は誰よりも情熱的だったから、何かあるんだろうとは思った。クーデリカの容姿を懐かしそうに見ているから、革命の皇女について思い入れがあるのか━━或いは、関係者か。敵で厄介と邪険にするでも欲しがるわけでもないのは、周りも不審に思っただろうな」
不貞腐れた顔で考えるロアの頬をルースが面白そうに指でつつき、次いでペットの機嫌をとるように指の腹で頬を撫でる。
「………悪趣味です。全部聞いていたなんて…」
「体調の優れない魔法師長を案じたんだ。それで答えはわかったか?」
「…………以前に試験協力をお願いした姿、気配消し魔法の応用版ですか。それを声を届ける風魔法に付加して、魔法の気配を私から隠したんですね」
「ご名答。さすがこの新しい隠密魔法の制作者。こうして魔法の気配も隠せるから、実験は成功だな。死地に赴く覚悟で危険な諜報活動をしている隠密たちがもし敵に見つかっても、この魔法で隠れて逃げ切れる可能性が高くなる。実用化できるな」
瞬く幾千の星たちを背に、お見通しというように微笑むルースは悔しいほど綺麗で、少し見惚れたロアは複雑だったものの、「正解」と頭を撫でられて気分が浮上した。
作成した魔法の意図を見透かされ、サヘル王との会話や独白も全部聞かれていた照れ隠しと、話を聞かれていたことに対する腹立ちもあり、表面上は眉間に皺を寄せていたが。
「……まだもう少し改良しなくてはいけません。陛下だから魔力に余裕があって使えているのです。他の方が使えるようにしないと」
「そうか。そうやって他への配慮はするのに、どうして自分を危険に晒すんだろうな」
不穏な気配を感じて俯き身を引こうとしたロアは、両頬を包むようにルースの手で挟まれ、グイっと顔を上げさせられた。怒っている様子に冷や汗が出るが、表情は涼しく余裕があるように見える。それもこの新米王には通じないが。
「自分を危険に晒すのは止めろって言ったよな」
「陛下」
「言ったよな?」
「……はい」
蒼白なロアが主の笑顔から目線を一生懸命逸らした。往生際悪く顔を俯けようとすると、吐かれた吐息が微かに額を掠め、前髪を揺らした。
「だったら、あの挑発は何だ? あれじゃお前を狙えと言ったも同然だろ。気持ちは嬉しいが、過剰に色々抱え込んで背負おうとするのは止めろ。そんなのは俺や他の奴らに丸投げすればいいんだ。もうお前は充分よくしてくれたんだから」
「まだです。まだ全然足りません。引き受けてやるからには、最後までしっかりやり通しますよ」
ロアが顔を上げて真正面、至近距離から視線をぶつけた。
根負けしたのは、ルースだった。
「押し倒されて震えて落ち込んでいたくせに。それなのに少し休んで戻ってきて」
「━━っ! それはっ」
「それは?」
「陛下━━!?」
ロアがムッとして口を開き、そのまま押し黙った。気づくと、ルースの腕の中にいた。強く抱き締められる。
「━━わかってる。不甲斐ない自分が悪いのに、お前に八つ当たりした。こんな役目を任せるしか出来なかったのは、俺たちが役割を果たせていなかったからだ」
「……」
「だけどロア、だからって自ら危険に飛び込むな、傷つこうとするな。お前に何かあったらと不安にもなるし、心配する」
夜気に当たって冷えてきた体が、お互いの体温を分け合うように暖かくなる。熱を感じたロアはそっと詰めていた息を吐いて、強く責任を感じているルースを見上げた。
「━━陛下、私はあなたのお役に立てていますか?」
「出来すぎだ。充分なくらいに頼りになっているぞ」
ぽかぽかと温かくなって、ロアは頬を緩めた。
「では、誉めてください。それだけで充分です。私が決めて今の立場にいます。あなたの責任でもクーデリカのせいでもなく、私の意思です」
「そうだったな」
「はい。ですから、謝ったり嘆いたりしなくていいんです。それよりは……」
「━━ありがとう、ロア。お前がいてくれて助かった」
ルースが微笑むと、ロアも自然と笑い返した。悪かったなんて聞きたくなかったから、言わないでいてくれてよかった。
ロアに誉めろと言われた通りに、ルースが頭を撫でる。
「俺たちには勿体無いくらい最高の魔法師長だ。感謝してる。さすがはロアだ。……責任は俺が持つ。王になって力が増えたから、前よりも広くカバーして手助け出来るな。お前の思うままに動け。誰も人を殺さなくていい、なるべく傷つく人が少なくていい。無理に誰かの命令に従わなくていい。意思も含めて守るから安心しろ」
いつものような包み込む笑顔。それにロアは、ほっとした。
ロアの体の震えも収まり、二人はゆっくり再び歩き出す。
一先ず、サヘル国は向こうが取引を書面にまとめてくるから、それを様子見して動くことにした。ルースが「ロアの脅しが存分に効いているし、損得勘定は得意だろう。お手柄だ」と誉めてくれたので、ロアはご満悦で口元を緩めた。
次の話題は、イオニス皇帝。
ジェナスとダーウィンから前もって聞いていたので、認識と擦り合わせは簡単に済んだ。
彼の氷の皇帝がクーデリカに恋している事、過去を思って生きてきた事、ロアに関心を持った事、クーデリカとロアの事情を推測して別人と理解している事、恒久和平の案件の事、その条件となるロアとクーデリカがイオニス皇帝の側にいる事、もしかしたらクーデリカの時と似た状況の可能性と、イオニス帝国が一枚岩ではない事。
「ああ、うん。聞いて予想していた通りだな。恒久和平は魅力的だけど、とりあえずロアたちを渡す事は絶対にない。前半に関する事は二人に対応を任せる。早速利用して情報を仕入れてくるのはさすがだな。偉い」
またもや誉められて頭を撫でられ、ロアは上機嫌だ。
「問題はクーデリカの時と似たような状況の場合、か。確か皇帝の他にクアドルが権力を持つ宰相だったな。こちらも暫く様子見か。探ってみる必要があるな」
「そうですね。私も微かに聞いた事がある程度で、詳しくは聞こえてこないんですよね。師匠にでも当たらせて内情を探らせてみましょう」
あっさり駒として利用する気満々のロアに、ルースが苦笑した。ルースに「頼む」と言われて、ロアは一つ頷く。
そして探らせるで思い出し、気になった事を問うた。
「そういえば陛下、ド変態ストーカー隠密は王都で何をしているのですか? ……母の監視ではありませんよね…?」
「違うから安心しろ。そいつにはお前に付きっきりになったジェナスの代わりに副リーダーとして、反乱組織レイヴンをまとめさせているところだ。国が建て直されつつあって参加していた多くの民が抜け、組織を縮小させているがまだ残してある」
「それがよろしいかと思います。いづれ何かしらの情報を集める際の拠点になるでしょうし、何かあった時の捌け口はあった方がいいでしょう」
ルースが同意した。
「ところで何でそいつを気にしたんだ?」
「いえ、近くにいるのならせめて一発殴りたいかなって思いまして」
恥じらう乙女のような風情だが、言っている事は大分おかしかった。ルースはコメントを差し控える。話題を戻すことにした。
「それにしても生まれ変わりか。そういうことがあるんだな」
「そうですね。引き出した話から推測するに、恐らく禁忌と知った上で、自分自身にクーやウィンに施した魔法と似たような魔法をかけたのだと思います」
「その結果が生まれ変わりか?」
「はい。クーたちにかけられた魔法は二人の師匠であり、リュシカの兄であるセイロンと二人がかりで施されたものですから。けれど結果は二人にもわからなかったです。今回、私とジェナスに起こった事で魔法が成功していたと発覚しましたが」
「……上手くやれば味方に引き込めるか…?」
「その場合の要求は」
「お前たちになりそうだなから却下か」
ルースが長く嘆息した。ロアが気遣うように見やると、苦笑して頭を撫でてきた。その様子にロアも微笑む。
「とりあえず、クリスたちのところで作戦会議か。各国の主要人物たちが去れば、明日でこの忙しさも一段落する。お疲れ様、ロア」
「陛下もお疲れ様でした」
「まぁ明日があるけどな」
「はい。乗り切りましょう」
「そうだな。あ、ロア」
「はい」
歩き出したロアがきょとんと隣を見上げた。ルースが笑う。
「何か願い事、考えておけ。今回頑張ってくれた魔法師長に、出来る範囲でだが何でも一つ願いを叶えよう。ご褒美だ」
「………陛下、私はペットではありませんよ。仕事ですから結構です━━と、普段なら辞退しますが、考えておきます」
意外に素直に受け入れたロアに面食らいながらも、ルースは首肯した。
これまでの視察の事、今日の夜会の事、ジェナスの巧みな変装術の事、クリスとカインへの野営特訓の事、警備体制や明日の段取り。話題は尽きず、星が一層瞬き闇に映えるなか、二人は歩調をゆっくりと進めた。
***
翌日、様々な各国の思惑が混ざりあった、ファウス国の新国王即位式典は無事に何事もなく幕を閉じた。
四国の王が一堂に会した稀に見る機会は、四国の歴史を語る上で後世でも度々話題に上る。
その後、一時に散った各国代表は無事に帰国し、翌々日にはイオニス帝国とファウス国の間にある連峰と国境で、初雪が観測された。
それから長い冬に入る。大陸の未来を悩んで準備するための、長い長い冬だった。
シリアス(?)展開、終了です。
次は一息つく予定の話です。
その後はまたシリアスかもですが、さくさく進めていく予定です。