表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一旗揚げましょう?  作者: 早雪
14/38

14,

ほのぼの?短めです。



朝食後、少しの休憩を挟んでから、ロアはエリーに案内されて、使用人たち専用のこじんまりとした厨房に移動した。

昼間は皆働いているのでさすがに人の気配がなく、気兼ねなくロアはその場にいて、作業に取りかかかることができた。


材料も器具も二つずつ用意されていて、まずはロアが手本を見せてから、隣で見ていたエリーと一緒に分量を計った。途中、粉をひっくり返し、大雑把にエリーが追加したときは、笑顔で計り直しを要求した。

その際、何故かあった片栗粉に手を伸ばしたときは、さっと取り上げ、必要のない調味料と材料も片付けた。

材料を計るエリーの手が震えていたが、緊張のためだろう。


卵やバターを混ぜて生地を作り、幾つかに分けた。棒で生地を均一な厚さになるよう伸ばして、始めはスタンダードなまま丸い型でくり貫いた。それを油を引いた鉄板の上にに並べていく。

隣で同じ型抜きを使用しているのに、明らかに円形ではない歪な形なのは、初心者のご愛敬という事で考えないことにした。

隣に気を取られ、つい癖でいつものように魔力を込めてしまったが、まあいいかと流す。


手を動かしながら、二人は色々な話をした。お互いの友人の話、自分達を含めて友人や周囲の恋愛事情、最近あった面白いこと、嬉しかったこと、驚いたこと、家族のこと。


「ロア様はお父様からお料理を習ったんですね」

「うん。でも基本だけね。後は自分でアレンジしなさいって。だから、どうしても覚えたい父の技やレシピは隣で見ながら覚えたり、自分なりに工夫して作ったのを店に並べてるよ」

「それならわたしも、頑張ってオリジナルの物を」

「うん、まずは基本をしっかり作れるようになってからにしようか。作りたい物があるときは相談してね」


ロアはしっかり釘をさしておいた。本人のためにも、周囲のためにもその方がいい。


「……では、わたしのお仕事がお休みのときには、お店にお邪魔してもいいですか? 何でも手伝いますので、代わりに色々と教えて下さい」

「いいよ。いつでも気軽に来てね」


エリーが嬉しそうに笑った。

火をつけると箱全体に熱が回って、焼いてくれるという便利魔法具、火箱にエリーが魔法を使って火をつけた。そこに各自、鉄板を入れる。

今度は表面に砂糖をまぶしたクッキー生地を、菱型でくり貫いていく。


「ロア様のお店には、どのようなお客様がよくお見えになるんですか? やはり近所の方ですか? 貴族の方もいらっしゃると仰っていましたけど、相手をするのは大変ですか?」


「そうだね。近所の人が多かったかな。常連さんの好みはよく覚えているよ。毎回クッキーを買う人や、果物が入ったお菓子が好きな人、甘いものが苦手なのにミートパイは必ず買っていく人とかね。気難しい貴族の方もいるけど、大抵は使用人が買いに来るし、常識的な方が殆どだから。中にはたまに尊大な方もいて、大変なときもあるけどね」


不意に何か懐かしいことを思い出したように、ロアが目を細めた。


「全然貴族に見えない気さくな方もいるから、多分人柄の問題だと思うよ」

「昨日お話にあったご両親と仲のいい方ですか?」

「そう。父が亡くなる少し前から、お見えにならなくなったけど、それまでは数ヵ月に一度は必ず来てくださっていたんだ。たまにご夫婦でいらして、奥さんは母と知り合いで仲が良かったな。気軽におじさま、おばさまと呼んでと言ってくれたけど、美男美女を無邪気にそう呼べたのは、子供だったからだね。今思うと、我ながら恐ろしい」


ロアは苦笑した。エリーが感心したように頷く。


「本当に随分と気さくな方なのですね。どこのお家の方ですか?」

「知らない。貴族から名乗られたら覚えるけど、お忍びの方もいるから、そういう時はその場限りってことにしてる。両親が知っていたから別にいいかなって特に聞くこともなかったよ。毎回、セオおじさま、ティーナおばさまと呼んでいたから」


エリーが残念そうに表情を曇らせた。


「……わたし、ロア様の危機管理にとても不安になりました」

「えっ、どうして? 人並みしかないよ?」

「人並みの基準って何でしょうね」

「大丈夫だよ、エリー。おじさまもおばさまも、何故か私に甘くて、どちらが先に抱き締めて挨拶するか争ったり、小さな時は街に連れ出そうとして仕事のお手伝い中だから断ると二人に泣かれたり、母とおばさまと私で出掛けると、おじさまがお店手伝ってくれたりして、良い方たちだから」

「……良い方というよりは、大分変わった方ですね」


ロアは苦笑した。


「私はエリーの後見人がカイン魔法騎士団長って知らされたときの方が、驚いたし少し心配になったけど」

「えっ、何故ですか?」

「何考えているかわからないし、意志疎通が可能なのか不安」

「面倒見の良い方ですよ」


エリーが訓練は厳しいが優しい人だと伝えてくる。その様子が可愛くて、ロアは微笑しながら頷いておいた。


それから乾燥した果物を練り込んで、四角に型抜いたものを別の鉄板に並べて、始めに焼いた物を冷ました。次に焼く鉄板を火箱に入れて、ロアはエリーが好きな紅茶を淹れた。

厨房でお茶会を始める。


エリーは綺麗な円で均一に焼けたロアのクッキーと、歪であちこち端が焦げた自分のクッキーを見比べて、「ここまでクッキーに近いものが出来たのは初めてです」と喜んでいた。

食せば、「食べられる!」と感動して、涙目になっていた。


「弟に無理にでも食べさせて、立ち入り禁止を解除しますね!」


それから、二人は焼いたクッキーをそれぞれ包んで、すっかりお昼の時刻に気づかずに、慌てて部屋に戻って、昼食にした。

ロアは魔力を込めたクッキーと各種のクッキーを小分けにして、一つだけポケットに入れ、後は腕に抱えて部屋に戻る。

包めなかった物は、使用人仲間の皆で食べてとエリーに渡した。



昼食も終えて落ち着いた頃、昨日と同じ場所に再びお呼びがかかった。

ロアは気合いを入れて、案内するエリーに続いて部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ