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(よし! とりあえず言質はとった‼ これで意味不明な増税と臨時税徴収も減るし、金を蓄えた贅肉どもを失脚させられる!)
ロアは微かに拳を握って、少しだけ冷静になった。
別の話に目を向けさせて、自分の曖昧な記憶に関する考察も、一応決着をつけた。
(といっても、どれだけ記憶を探っても何も思い出せないというか、記憶にないんだけど)
その事自体が引っかかる。
それに、もし仮に話の女魔法師が自分だったとしても、矛盾はある。
魔法だ。
王太子や宰相にも言ったが、ロアには魔力があまり無い。あるにはあるが、非常に少ない。
世界中において、魔力の無い人、魔法を使えない人が殆どだが、ロアも似たようなもので、一般人に毛がはえたようなもの。
魔法と呼ぶのも烏滸がましいほどの力だ。
後天的に爆発的に魔力が増幅するということも稀にある。そういった人物は全員が全員、歴史に名を残す偉人となっていた。
もしかしたら、宰相たちもそう考えてロアに話したのかもしれないが、違うと断言出来た。
今朝だってマッチ代節約のために、指先に火を灯して竈を温めた。それがロアにとっての全力だった。
他にはお菓子の生地に、食べた人がほっと出来るように、幸運が訪れるように、疲労回復などを願い、魔力を込めたくらいだ。
効果のほどは気休めだが、普通のお菓子よりは美味しいらしく、安心できる、気分が落ち着く、幸せな気分になる、疲れが癒される、といった感想をもらい、厳しい経営の中でも、貴族や特別な日のお祝いにと、買ってくれるお客さんがいた。
少しずるいかもと思うが、こんな微々たる力でも使えるものは使おうと決めている。というよりも、他に本当に使い道がないほど残念な魔力量なのだ。
「ロア。話を戻しますが、本当に心当たりがないのですか? ━━あなたの師からは何も聞いて無いのですか?」
クリス宰相の言葉にロアは、零れんばかりに目を見開いた。混乱する。
(この人たちはストーカー。色々と細かく知っていても不思議じゃない)
落ち着けと言い聞かせながら、さらりと失礼な思考も混ぜていることから、随分と動揺していた。
ロアは呪文のように「変人ストーカーなら生まれたときからの私生活を探っても不思議じゃない」と自身を納得させようと試みた。しっかり声に出ていた為、周りが悟りを開いたような遠い眼差しになっていたことにも気づかなかった。
宰相が、ごほんと咳払いをして、意識を現実に戻す。
ロアも我に返りつつ、壇上の四人に気味の悪いものを見る怯えの混じった目を向けた。
恐ろしいほどの勢いで、好感度が駄々下がりしているのが、よくわかった。
「……とりあえず、今日は色々あって疲れたでしょうから、落ち着いてゆっくり考える時間も必要でしょう」
何だか宰相自身がぐったりと疲れていて、今すぐ休みたいようだった。
「部屋を用意してありますので、今日はそちらで休んでください」
「えっ? いえ、そんな、ご迷惑をお掛けするわけにはいかないので、帰ります‼ 歩いて帰っても夕方には着くと思うので、心配要りません!」
ロアが安堵を滲ませつつ、意気込んで告げた。その場の男性全員、嬉しそうだなぁと生暖かく見守る。
「いいえ、それはやめた方がいいでしょう。……ロア、そんな死刑宣告を受けたような顔をしないでください。殿下、大将軍も極悪人を見る目で見ないでください」
クリス宰相がますます疲れたように、深いため息を吐いた。
「ロア、わたしたちがあなたに気づいているのですよ。女魔法師がいること自体は、三ヶ月前から話題になっていました。接触の多い街の住人たちの中にいる反乱組織たちが、仲間に引き入れれば即戦力な存在を放っておくとお思いですか?」
ロアががっくりと肩を落とす。同時に表情に焦燥が浮かんでいた。予想はしていたらしい。
「あなたが違うと言っても、たとえ本当に力が無いのだとしても、その言葉を簡単には信じないでしょう。どうにか使わせようと脅しをかける可能性もある。その場合、あなたの母親を使って脅すのが効果的でしょうね」
ロアが唇を噛んだ。
「安心してください。あなたの言うところのど変態ストーカーが護衛にも付いてますから」
「あっ!」
ロアに理解の表情が浮かび、少しだけ明るくなる。それも一瞬で、すぐに沈んだが。
「……あの、その護衛は安心していいのでしょうか……?」
至極もっともな疑問に、王太子と宰相が直属の上司である魔法騎士団長を見やる。彼は、そっと視線をはずした。
微妙な沈黙が落ちた。
「………腕は確かだ……」
上司の言葉に、全員がどう言葉を繋ぐべきか困る。
「……そうですよね!あれだけ人の私生活というプライベートを気持ち悪いくらいしつこく根掘り葉掘り調べられる優秀な人ですからね!大丈夫ですよね⁉ 」
ロアが無理くり笑顔で強引にまとめた。
ただし、内心では何かあったら許さない、ついでに言うと、会ったら絶対一発殴ろうと心に決めて。
壇上の四人は、背筋を震わせつつ、今日のところはこれでお開きにすることにした。
宰相の指示で衛兵の一人がそっと退室し、ロア用の部屋の確認に向かった。
ひとまず、緊張の謁見が終わり、仄かに安堵していると、宰相からついでにもう一件、考えておくようにと爆弾を落とされた。
曰く。
「あなたが例の女魔法師ではないとしても、別の方法で協力を仰ぐ場合があります。何しろ、反乱組織をまとめて巨大化したレイヴンのリーダーは必ず、あなたのお店でお菓子を買っていますから。是非その件も含めて考えてください。明日、返事を聞きますので」
ロアの驚愕する様子を眺めて、微笑む宰相。
その微笑みを見ながら、無性に殴ってやりたいと思った。




