時任愛美璃は容赦しない―異世界『百合』ハーレム計画
突発的に勢いだけで書いてしまいました。問題作。タイトルがしっくり来なくて、何度か変更しています。
「あなたにお願いがあります。この世界を救って下さい」
彼女の名前は女神ティアマト。
とても綺麗な女性で、ちょっと獣っぽいけど、ドキドキする。お近づきになりたい。
彼女はわたしを、勇者としてこの世界に送り出したいらしい。
彼女が生み出してしまった、混沌の魔王ドゥンケルハイトを倒して欲しいということだ。
この容姿で経産婦だと。やばい。どうしよう。ドキドキする。
わたしに、勇者の力を与えると言っていた。
「身体能力の向上」
「神聖魔法」
「魔力の増大」
「魔法耐性」etc……
彼女が与えられるすべての力をわたしにくれた。
これって、もう、結婚したのと同じだよね! ね!
わたしがそう迫ったら、なんだか困った顔をしていた。解せぬ。
魔王を倒したら、キスぐらいさせてくれるって言ってくれた。わーい。
正直、勇者の力とか、世界とかわたしにはどうでもよかった。
ただ女の子といちゃいちゃ出来ればそれでよかったのだ。
わたしの名前は、 時任愛美璃。年齢は秘密だ。
ここに来る前は女子高生と呼ばれる生き物であった。
でもだめだ、だってみんなノーマル過ぎるんだもの。
ちょっと、わたしが過激なスキンシップをすると、引いちゃうんだもん。フラストレーションがたまるたまる。
女の子同士だし、頬ずりして、耳たぶを噛んだりするくらい普通だよね?
ちょっと服の中に手を入れたり、スカートをめくろうとするのも普通だよね?
そう、わたしは女の子が好きだった。
だって、男の人ってなんかごつくて柔らかくなさそうなんだもの。
女の子は、女の子だけで可愛いのだ。わたしが断言する。
ふわふわして、甘くって、マシュマロみたいだ。
マザーグースの『女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている』って素晴しい言葉だと思うの。
とにかく、この世界に連れてこられたからには、自分の欲望のまま、女の子といちゃいちゃしようと思う。
この世界がピンチだというのは本当だと思った。
わたしが森の中を歩いていると、モンスターがやってきたのだ。
ゴブリンだとか、コボルトだとか。
片っ端からなます切りにした。可愛くないものは去れ。
ああ、これはいよいよもって世界の終りだ。
だって、可愛い女の子に出会わないんだよ!
RPGの基本でしょう。森の中を探索していると、可愛いヒロインが出てきてモンスターに襲われる。それを颯爽と勇者が助けるってお約束でしょ!
だからわざわざ村が見えていたのに、森の中を横切ってきたというのに。
「ああ、女神よ。なぜわたしを裏切ったのですか!」
なんて叫んでみた。
「ひっ」
がさり、と音がした。
第1村民発見! しかも女の子だよ女の子!
すーはー。深呼吸深呼吸。
よし。こう言うときの言葉があったはずだ。
「お嬢さん。お逃げなさーい」
違う。これ違う。熊だ。襲う方だよ!
「え?」
すろと、少女の後ろから、でっかい鬼のようなものが現れた。
ゴブリンをすっごくでっかくしたようなやつ。
汚い手で、少女に掴みかかろうとする。
少女の瞳が、恐怖で見開かれる。
わたしはざぁぁっと駆けた。
沸騰したと言っても良い。
そして、そのでっかい鬼を逆袈裟に斬り上げる。
ざくぅっと汚い腕を切り裂いた。
女の子は世界の宝だ。それを汚い手で触ろうとするなど許せん。
わたしは切り上げた刀を戻すと、今度は肩口に刃を入れる。
「ワン・フォー・ガール。ガール・フォー・ワン!」
と叫んでするり、と滑らせた。
――コトリ
という音が聞こえたと思う。
大鬼は倒れ、身体は斜めに真っ二つになったのだった。
「悪は去った」
女の子は目をぱちくりとさせていた。可愛い。持ち帰りたい。
しばらく時間が経つと、ようやく自分の置かれていた状況が分かったのか、ぺたんと座り込んでしまった。なにこれ可愛い。
わたしは、頬ずりしたくなる気持ちを抑えて、そうだ、今はその時ではない。
彼女に手を伸ばした。
「大丈夫かい。立てる?」
すっごくハンサムな声だったと思うの。
そうすると、女の子はわたしに縋ってきたのだ。役得役得。
「許せん!」
「ひっ」
この女の子の名前はアリアと言うらしい。
それよりもわたしが憤っているのは。
「女の子を生け贄にするなんて。神が許してもわたしが許さん!」
今晩、大蛇ウィントの生け贄になるのだという。
そうして、半年の間だけ暴れないようにしているという。
アリアは、最後に好きだった野苺を食べに来たという。なんていじらしくて愛らしい。はぁはぁ。
とにかくそんなことはわたしがさせない。
村に戻ると、アリアは怒られていた。大事な身体等と言っていたが、それがわたしには許せなかった。
でも、今は我慢だ我慢。ここで怪しまれてしまえば、アリアについていき、大蛇を倒すという壮大な計画がパーになる。
村にはエルヴィンという少年がいた。
どうやら、アリアに懸想をしているようだ。
アリアも憎らしく思っていないようだった。
なんだ。なんだそうだったのか……。
これはもう、アリアを……寝取るしかないな。
女の子を男の子になんて渡さないもんね。
すっごく格好良く活躍して、アリアのハートを射止めてやる!
がぜんやる気が出てきたぜ。恨むんなら、己の無力さを恨むのだ!
力がないとかそういうことじゃないんだ。動かなきゃだめだよ。
わたしは夜になるまで待った。
潜入はすんなりと行った。
白っぽいフードを被ればばれないというザルなものだった。
そこはおあつらえ向きな山の中腹。
岩がごろごろと転がっていた。
洞穴とかありそうだ。
アリアをその場所に置くと、村の連中は帰っていったようだ。
その中にはエルヴィンも居た。
エルヴィンは1度だけ振り返ったようだったが、顔を伏せ、そのまま去っていった。
さぁ、ここからわたしのハーレム計画の第一歩がはじまるのだ!
小躍りしそうになる気持ちを抑えて、わたしは待った。
やがて、30分くらい経ったころだったか。
ずる、ずる、となにかが這い寄る音が聞こえたのだ。
それは蛇だ。
鉄塔ほど長さのある蛇。
大蛇ウィントだった。
少女の前に行くと、にやりと笑う。
「けきゃけきゃけきゃ。お前が今回の生け贄か。けきゃけきゃ。俺はお前を丸呑みにするよ。するとどうなるだろう。想像してごらん。俺にひと呑みされる瞬間を。お前は生きたまま俺の腹の中に入るのだ。けきゃけきゃけ。ゆっくりとゆっくりと、俺の消化液は弱くてなぁ。1週間は溶け続けるだろう。ほうら。想像してごらん。けきゃけきゃけきゃ」
なんて外道だ。
ちょっと涙目になってるアリアちゃん可愛い。
怖がらせるなんてひどいやつだ!
ああ、頭なぜたい。可愛がりたい。
わたしが成敗してくれる!
わたしは躍り出ると、アリアと大蛇の間に立つ。
「なんだお前は。おまけの生け贄か。食い応えはありそうだが……まずそうだ」
「なにをこのっ、失礼なやつめ。わたしはお前を退治しに来たのだ。さぁ、懺悔の言葉は考えたかな」
「けきゃけきゃ。人間風情が俺に? 舐めるな!」
大蛇は、くっとしなを作ると、鞭のようにしなる尻尾をわたしにぶつけてきた。
「ぐっ」
あまりの衝撃に剣を取り落とすところだった。
勢いよく山肌に叩きつけられる。
「あ、お姉さん!」
アリアが心配している。だめだ、顔が緩む。がんばれる。
わたいしはぺっと口から血の混じった唾を吐き出すと、再び剣を構える。
また大蛇がしなをつくる。
しかしそう何度も同じ手には引っかからない。
わたしは身体を低くして避けると、大蛇の身体に剣を突き立てた。
ぬるぅぅぅ。
「えっ?」
剣が滑った。
刃が通らないのだ。
「けきゃけきゃけきゃ。俺の身体は特別せいでなぁ。刃物なんかは通さないのさ」
「くそう。卑怯だぞ!」
困った。
でも、剣が効かないなら魔法とか。
あまり練習してないから自信がないな。
そうだ、思いっきりぶん殴るのはどうだろうか?
わたしはその辺の大岩を拾い上げると、大蛇に向かって放り投げた。
「けぎゃっ。貴様ばかか! そんなものを喰らって、怪我でもしたらどうするつもりだ!」
効果があるらしい。
わたしは適当な大きさの岩をかき集める。
そして、大蛇から距離を取ると、投げ始めた。
「おんどりゃぁ、死にさらぇ!!」
子供の頭ほどもある岩を、間髪入れずに投擲し始めた。
そして、大蛇にぶつかる食べに、ごりゅ、どぎゃとか鈍い音を立てて割れた。
たまらず血塗れになる大蛇。これは行ける!
「ぐぅぅ。こんな。こんなことが……。俺が、俺が負ける? こんなゴリラ女なんかにぃぃ」「ゴリラとは失礼な奴だ。これでもくらえ」
特大サイズの岩を投げてやった。
ぐちゃ、って音が聞こえた。いやぁ、気色悪い。
大蛇はほうほうの体で逃げだそうとしていた。
「くそ、覚えてやがれ、この恨みは、いずれ晴らす」
呪詛の言葉を吐くと、岩山の穴にぬるりと入り込んでしまった。
その穴は、大人ほどの大きさであったが、入るわけにも行けない。
「く、どうしたら……」
と、悩むふりをしていた。
なんとなく逃げるんじゃないかと思っていた。
その時にはこうしてやろうって思ってたんだ。
「よし。燻そう」
わたしは、ありったけの魔力を使い。穴に向かって火炎魔法を送り込んでやった。
ごうぅっと、音を立てて炎が立ち上る。
ついでに、良く燃えそうな木とか、煙が出そうな葉っぱもつめて置いた。
10分くらいたった頃だろうか。
アリアも手伝って、木を穴へと放り込んでいた。
わたしもさすがにこれだけ長い間、魔法を使っているとくらくらした。
するとあら不思議。
岩山の至る所で煙が上がってきたではないか。
自然現象って怖いな。
こんな火のないところでも煙がでるんだもの。
きっと温泉でも湧いているんだな。
ちょこちょこと動くアリアを愛でながらそんなことを考えていた。
「があぁぁぁぁぁっ」
どうやら主役の登場だ。
たまらなくなって穴から這い出てきたようだ。
身体はぷすぷすとなぜか黒ずんでいて、なぜか火傷を覆っているようだった。
わたしはその瞬間を逃さない。
岩と木と蔦と紐で作った即席のハンマーだ。
それを、大蛇の頭に――叩きつけた。
ぐちゃりと、柔らかい感覚がすると、大蛇はびくびくと何度か跳ね回ると、やがて動かなくなった。
こうして、わたしの初のクエストは終了するのだった。
村に戻ると、驚かれるのと同時に喜ばれた。
そして、あのエルヴィンもはにかみながら近づいて来るではないか。ぺっ。
アリアと何度か会話を交わす。
ああ、駄目だったのかな……。悔しいよ。
アリアがわたしの方を振り返る。
きっと最後は「ありがとう。わたしエルヴィンと幸せになります」って言って終わるんだ。さらば、わたしのハーレム計画。
「お姉様……」
と、潤んだ瞳でわたしを見るんだ。
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
勝った。絶対勝った。わたし勝ったよ!
こうしてわたしは、ハーレム候補第1号のアリアを手に入れるのだった。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございます。