第一話・母成れぬ星、子に成れぬ人
――それが苦渋の決断であったことは想像に難くない。
いかなる非道と罵られようと、万冠の思いが踏みにじられていたとしても、私たちにはこの決断を非難する道理はない。
この星はすでに、私たちを許容する力を失っている。
母なる地球は私たちを許容することはかなわず、そしてまた私たちも母の子になるには幸せという名の幻想と発展という妄執に憑りつかれすぎた。
私たちに残されているものは、人間のいきついた妄執の残骸だ。
人間がたどり着いた末路の残骸に、現在も未来さえも変えるすべはない。
私たちは、何時までホモサピエンス――知能ある霊長類などと名乗り続けるのだろうか。
妄執に憑りつかれ世界を滅ぼした人間と、苦渋の決断を強いられ決断した彼を、そしてその決断に涙を呑んで行動した者たちを、私は同じ生き物としてみることはかなわない。
もしこの星が再び私たちを許容する力を取り戻した時。
そこに立つ私たちが、私たちの子孫が、未だに人間であり続けたならば、私たちは再び母なる星を殺す。
彼の決断は、そう遠くない未来にまた繰り返されることになるだろう。
残骸の許容値の限界は、またすぐに訪れる。
星が再び力を取り戻すまで、その決断は未来永劫引き継がれていくだろう。
故に、アンフォールは裁定であり、剪定である。
星は今、私たちに決断を求めている。
人間は、星の子たりえなかった。
故に私たちは、このことから学ばなくてはならない。
私たちは人間か、それとも否か。
許容されるべきは、人間か否か。
アンフォールという名の裁定を通し、星は我らの決断を求めている。
星が再び力を取り戻した時、未だにこの決断に至らなければ、私たちは再びこの星を殺すことになる。
私たちは、変わらなくてはならない。
人間という言葉を、思想を、概念を、捨てなくてはならない。
とらわれていた幻想を妄執を、今一度捨てなくてはならない。
考えなくてはならない。
幸せとは何か。
発展は本当に必要か。
私たちは再び、私たちの在り方を見直さなくてはいけない場所に来ているのだ。
――第四期王国執務補佐レイル・ヴァン・ダ・ウェイスタ 『国栄記 第三章』