いつか陥落に至る
いらない、と吐き棄てると、姉は怪訝そうな顔をした。
仕方がないから、と縦は言い訳をする。貰っても仕方がないのだ、義弟の夢など。それは縦の生き方とはあまりに違いすぎていて、あまりに遠かった。
板床に寝転がって丸まっていた縦は、軒先から見える埃っぽい地面に雨粒の染みが出来るのを見て身体を起こした。
「ちょっと、何処に行くのよ」
「……散歩だよ、散歩」
背を向けたまま言い捨てて、縦は降りだした雨の中へ飛び出していった。
(次公が匈奴討伐の募兵に志願するなんざ……性質の悪い冗談に違いねえ)
西域なんて話でしか知らない夷狄の地に、どうして次公が行かなければならないのか。原野を駈る蛮族の相手など、威張り散らすのとふんぞり返るのが仕事の将軍たちに任せておけば良いのだ。今上帝の勅命のもと、縦たちの知らない所で戦争は始まって終わるに決まっている。
だから次公が往くことはないのだ。
縦は信じたくなかった。
(だけど、あいつの親父は砂漠に往った)
次公はずっと、彼の父を誇りに思っていたのだ。軽戦車の射手として匈奴に立ち向かい、砂の大地から帰って来なかった父を。
志願は悲願だ。次公は父の敵を倒すために戦う決意を固めたのだ。縦にはそれを止めることは出来ない。
ただ次公の意志を、姉に言伝てられた思いを受け取ることしか、縦は義弟にしてやれなかった。
(受け取るもんか。ありゃあ遺言だ。受け取っちまったら、次公の奴ァ命張っちまう)
(駄目だ、駄目なんだよ。お前は生きて帰って来ねぇと駄目なんだ。死んだら駄目なんだ)
(俺ァまだ、お前に恩を返し終わってねぇんだから)
叩き付けるような夕立の中、縦はがむしゃらに走った。
向かう先、いつものように笑って出迎える義弟の顔を思い浮かべた。
義縦と張次公
お姉ちゃんは常用外漢字すぎて画像でしか表示できない字なので諦めてた。




