表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

2-2

 靴箱の曲がり角でぶつかった相手は、これまた予想外に桜さんだった。てっきりそのまま靴を履いて校庭に行ったのかと思いきや、まさかの逆走だ。五秒で任務が破綻した。


 「えっ!?ええーーっ!!」

 「ご、ごめん!」


 言葉を発したのは同時だが、逃げるように走り去っていったのは桜さんのほうだった。そのまま通路の端まで全力で突っ切ると、猫が逃げるように階段へと姿を消してしまう。何故戻ってきたのかはまったくの謎だが、成さねばならぬことのある俺にとってはかえって好都合だ。


 「どこだ!ホシはどこにいる!」


 左上から順に、男女お構いなしに俺は靴箱の扉をめくるように開いていく。その人智を超えた速度は名人芸とも称せるし、後世を振り返った際には破廉恥と言葉が置き換わるかもしれない。


 ア行でもない、カ行でもない、ナもマも違う。そんな俺の手を止めて思考回路を停止させたのは残すところ最後となるロッカーだった。取っ手を引いてお尋ね者を見つけた俺は、現実に対する訝しげのあまり、回路がフリーズしてしまった。


 「……う、そ」


 思わず反射的に扉を閉めた俺は、すーすー、はっはーと三度ほど深呼吸を繰り返して開けた靴箱をじっと見つめる。そこは確かに俺の靴箱であり、現実と虚構を取り違えそうな光景が目の前にある。


 ―生きるべきか死ぬべきか。それが問題だ―


 ハムレットのお言葉を脳裏に刻みつつ、あごに手をつけ「んーんー」と思案の声を出して俺は苦悶に浸り入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ