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事が起こる。不安げな桜さんの表情を察知した俺は、その瞬間を見逃さなかった。
ホームルーム終了後、真っ先に教室から出て行った桜さんをスニーキングして辿り着いたのは一階の靴箱置き場だった。決してストーキングではない。すべては真実を追求するための最短の手段である。
靴箱置き場の付近にある柱の死角で足を止め、靴箱の列できょろきょろする桜さんを俺は監視する。左肩に下げた鞄とは別に、彼女の両手には一通の手紙が大事そうに携えられている。何度も周囲に人気が無いことを確認した桜さんは、ここで予想外の行動を見せた。
「そんな馬鹿な!」
思わず声を上げそうになった口を強引に塞いで、俺は事の行く末を見守った。可能性が無かったわけではなく、むしろ高かったと言っていい。予想外というよりは予想したくなかった現実という表現がきっと正しいんだろう。
廊下から姿を消して彼女が向かう靴棚は、俺たちのクラスの列だった。ひとつの靴箱の開く音が聞こえて、すぐにまた閉じられる。彼女としてはこれにて任務完了。俺の中では任務開始。失敗は断じて許されない。
一分ぐらいしてから下校を装いつつ、柱から姿を出した俺は靴箱の列へと足を向けて出会い頭に衝撃を受ける。
「ひゃあ」