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「根拠だけ言え」
ちっと軽く舌打ちしたあたり、高沢としては是非とも聞いてほしかったんだろう。だが俺としても昼食の最中にお前へ割く時間が惜しい。
「桜さん、最近、休憩時間に一人でいる割合が増えてんだよな。友達に誘われても「後で行くね」みたいな感じで断ってよ。どうやら随分と本に熱を上げてるみてえなんだ。いや、熱ってよりは、時折溜め息まじりって印象だな」
「人間だもの。一人になりたい時もあるだろう」
「みつおってんじゃねえよ!そんな良い人ぶろうとするからてめえは先を越されちまうんだ」
「みつをを愚弄するな!お前こそ言葉に救われるということを知らないのか」
「知らねーよ。桜さんが机に広げてたのは格言集じゃねえ。恋文の短編集だ」
「どおぁっ!?」
ずきっと内心で動揺したあたり、俺の童貞心も甚だしい。
「な、気になんだろ」と得意気な顔を見せるろくでなしの捕手の思惑に、いとも簡単に乗っかってしまった。
「俺たちの思春期は残り半分を切ってんだ。短編集?そういう気分に浸りたい時もある」
空気の読めない元相方は、俺の取り繕いを面白がって否定する。
「その短編集ってのは単なる詩集とか小説じゃねえんだよ。こんな恋文を書いて成就しました的な文例を載せてるやつだ。八ツ坂、お前、さっきの物理の授業何してた」
「言うまでも無い。寝てた」
典型的文系の俺にとって、苦手とする理系科目は赤点さえ取らなければそれで良い。公式を見るだけで睡眠薬になる科目は、テスト前日になるまで現実を振り返らないと俺は決めている。
「桜さんともあろう優等生がだぜ、授業中に、しかも手と本で隠すように机に置いた便箋に本をちらちら見ながら困惑した表情で一字一句をしたためたときた。この意味がわかるか」
致命的なまでに桜さんと接点の薄い俺にとって認めたくない真実だ。反発力がすさまじ過ぎて、けたたましい咆哮が心の中で上がってしまう。
「封は閉じられた」
「うるさいぞ。なれてねえんだよシーザーによ」