天然兄の独自解釈
主人公を拾った兄弟の兄視点。
――兄side――
見たこともない生き物を浅い海底で拾った。はじめは食べれるかとも思ったが少々脂が多そうで断念する。
弟が可哀想だと言い始めるので断念する……としておこう。
それにしてもこのヘンテコな生き物は今まで見たこともない聞いたこともない。
日頃都会には寄り付かない俺達兄弟は物事に疎いが、ここ一年ほどの出来事からは聞いたことはないと思う。
フワフワとした白い毛に覆われた黒目しか見えない泣いているかと思った瞳を持っていた。
一番驚いたのはその生き物はその見かけによらず移動速度が速いこと。そしてここ一週間ほどなにも食べない。もしかすると、このヘンテコな生き物は何も食べないのではなく物凄く少食なのではないかと弟とそう理論付けた。
見つけた場所に大きめの魚の残骸(尻尾だけ)があったので食べおきしているとも考えられるが……
どうやらそうでもないらしい。
海底の嫌われもの海の酸激(惨劇ではなく)をどう処理しようと悩んでいたある日、それは突然起きた。
海の酸激と言われている陸に生える葡萄によく似たと言われるこの植物は名前の通り強い酸性の実を付けて触れる者の皮膚を爛れさせる。熟した後なら食べられなくもないが、いかせん酸っぱすぎる。
早めに取り除けば良いのだが棘があり、刺さるとクラゲの様にいつまでも痛む。
陸ならば燃やしてしまえば終わりだろう……しかし生憎ここは海の底。分厚く頑丈な手袋をして鎌で地道に取り除くしたかない。
我が家のあるこの場所は誰も寄り付かない。この海の酸激の群生地に程近いからだ。誰も己の肌を犠牲に住みたいとは思わない。
しかし、俺達の両親はここに住むことを余儀なくされた。結婚を反対された、所謂駆け落ちの結果がこの場所に住むことだった。
生憎両親は数年前に亡くなってしまったが、どうもこの場所には愛着がわいてしまって離れられずにいる。
俺は良いのだが弟は俺よりも活発で人見知りもない。恥ずかしながら俺は人見知りでここにいるのだ。
弟の為には他の場所に移り住もうかとも思ったが……弟曰く「自分が成人したら出ていくから兄さんは好きな場所に住みなよ」だそうだ。全くもってできた弟だ。
さて、そんな我が家の頭の痛い存在の海の酸激をものともせずに……俺命名のブラン(確か何処かの言葉で白い)は激酸っぱい海の酸激の実を食べている。
しかも、実を守る棘をものともしない。
海の酸激は実を取ると勝手に蔓は枯れるので実を食べられた蔓は瑞々しさを無くしどんどん枯れていく。こうなると棘も対して痛くないので……助かる。
うちに来た――連れてきた――ヘンテコな生き物――ブランは我が家の救世主になったのだ。
だが、口のまわりについた紫の果汁を拭き取ろうとしたら泣かれた……弟曰く「叩いたら泣くのは当たり前じゃない」と呆れながら言われた。
強く拭きすぎた……
さらに驚いたのはあの大きい黒目だけの瞳から真珠がポロポロと出てきたことだ。
病気かと思ったが弟にまた突っ込みを入れられた。
弟曰く俺は天然らしい……天然ではない人魚なんて海には居ないだろうに……
ん?
その発言が天然だと?
そうか。
それにしても……ブランは医者に見せなくてもいいんだよな?
この兄ずれてます。のほほんとしているのは案外この人かもしれない。
主人公に強酸が聞かないのは多少毛皮が防いでいるのと、人魚達の肌がとても弱いから主人公には被害がなかった……という裏話があります。そんなにチートでもないのです。