留守番をするにあたって悲しむのは留守をさせる側
留守番はする側が呆れるほどさせる側が心配なのはよくあること……か?
今日は2話投稿です。
早く行ってくれ。今の顔は絶対にそんな顔だ。口は訊けないが目と表情は誰かを暗殺しかねない程荒んでると思う。
「心配だ……」
「きゅいぃぃぃ!!(さっさと放してさっさと行けぇぇぇ!!)」
「兄さん……」
兄はぎっちり私をホールドして頬擦り……セクハラ紛いをしながら頻りに心配だと宣ってる。ハッキリ言ってウザいです。
どうも、兄のウザさに辟易してきたアザラシ赤ちゃんのブランです。
もう放して欲しい……。
「もう、日が暮れるよ! そんなに離れたくないなら僕だけで行ってくるから兄さんはブランと一緒にイチャついてなよ……」
「それはお前が心配だ。確りしてるとは言え、まだ幼いのに独りでお使いなんて……ダメだ。初めてのお使いは周りの大人の協力なくして実現させない!」
「くぅぅ……(それは……そうだね)」
なんせこの場所は辺鄙な場所ですし。周りにはトゲトゲで触ればかぶれるブドウモドキがそこらかしこに広がってるし……兄としては心配なのは分かるよ……分かるけど、弟君の目が据わってるよ?気付いてよ。すっごい冷めた目してますよ!
あれだよ、いつまでも弟離れしない兄にたいして辟易してるんだよ。何だか分かってしまうその気持ち……今まさに私のこの状況も来たようなもんだし。ペット離れ出来ない飼い主には辟易するよね。
ついでと言わんばかりに私も兄に冷たい眼差しを送るが……効果はないようだ。チッ(・ε・` )
「だいたいねぇ…兄さんはブランに構いすぎだよ。兄さんの所為でストレス溜まったらどうするの?」
「そ、それは……」
「ブランがどんな生き物か生態も分かってないけど、繊細な生き物だったら……最悪の場合もあるんじゃない?」
「きゅ……(図太いと自負してるからそれはないぞ弟君)」
いやぁ…お気遣いありがとうございます。でもね、あの魔の10代を乗り越えてきた私にはこんなすりすり攻撃では傷ひとつつかないよ。鋼のハートなんでしこれが人間だったら羞恥心で死ねるけど。アザラシですから。飼い犬にすり寄られたと思えば……何てことはない。
ま、ウザいけど。大事なことなのでもう一度言おう……ウザいけど!
「ブラン……お前までそんな顔を……(´・ω・`)」
「きゅふっ!(良いからはよ行け!)」(べしっ)
自慢(ホントはそこまで威力なんぞでない)の前足で大福ビンタをかますが……効いてないようだ。尾びれならもう少し威力も強いが、何分羽交い締め状態では兄の顔目掛けては繰り出せない。
………チッ
「ほら、ブランも早く行けって言ってるんだよきっと。ね?」
「きゅ!(うん!)」
「ブラン……分かった」
おお、とうとう行く気になったか……あれから30分経ったと思う。それより長く感じたよ。
体感時間って実際に経った時間とこんなにも違うものなのね……テスト以来だわ。
そして未だに未練タラタラな兄を引きずって――水中だから引っ張ってが正解だけど――弟君は無事に出発しましたとさ。
さあ、待ちに待った何者にも邪魔されない私だけの時間が来たぜ!………と、思ったけど、ゲームも本も無いこの世界で、それもアザラシにできる暇潰し何て何もない。それどころか、暇で死にそうな程です。前世でこんな時間ほしかったよ。まぁ、もう無理なんですけどね。
気を抜くと前世の記憶が薄れていく。別にもう未練なんてあったとしても戻れないのだから……と割りきっている。ホントは……少し悲しいけど。これも今の人生を生きていくためには仕方ないのかもしれない。人間だった頃の記憶なんて邪魔なだけなのかもしれない。
「(それでも少しだけは覚えていたいなぁ…)」
両親のこととか、仲のよかった友達とか……何故か親友兼彼氏の事はあまり覚えていなくても悲しくはなかった。所詮私は冷たい女なのかと少し落ち込んだ。
誰にも邪魔されないのなら丁度いいと兄弟には現れない感情を表す色つきの靄について考えてみた。
主に見えるのは私にたいして向けられた感情だけかと思っていたが、そうでもなかった。
何故なら、兄弟の親に遣わされた人達からは靄が見えた。私は隠れていたので見ていない……なので「私に向けられた」云々は除外する。
では何だろう。
いくら考えても答えはでなかった。まぁ、暇潰しにはなったけどね。
兄弟達が出掛けて約4時間経ったあるとき……来客が来たのだ。それも……バッチリ目があってしまった。何故鍵を開けて入ってきたし……ピッキングは犯罪だぞ!……まさかこんな辺鄙な場所に泥棒か?物好きな。
「……縫いぐるみか?」
「……(う、動いちゃダメだ!動いちゃダメだ!)」
心のなかで某ヘタレ主人公(決して貶してるわけではない)の台詞のように繰り返す。私の野性的勘が「コイツには注意しろ」と言っている。音もなく背後から忍び寄ってきたコイツは多分兄よりもできる。――兄がどの程度なのか知らないが。
お昼頃だったのが不味かった。果物は美味しかったが、今の状況が不味かった。
器に顔を突っ込んでいるその体勢で固まった私を見たら兄ならいつものスリスリ攻撃を繰り出し、弟君ならお腹を抱えて笑ったことだろう。
ネットスラングでは「WWWWW」と草が盛大に生えることだろう……だが、私は今、非常にピンチだ。笑っている場合ではない。早く出ていってくれないかなぁ……
「…………」
「・・・・」
お互い無言の闘いだ。どちらかが喋ればアウト。そして多分私は勝つ……相手は人(人間かは未確認)私は物言わぬアザラシ……鳴き声を出さなければ勝つ。
ふっ、甘く見るなよ、前世で培ったスルースキルを。どんな煩い女共も無視したり話し半分で聞き流せば……相手の根気は削がれるのだ。
まあ、スルーし過ぎると逆ギレされるからお勧めしない。現に私殺されましたから……てへ
あぁ、自分でやってて寒気がするわ。
「・・・・」
「……おや? 水底の町で最近流行った縫いぐるみ……に、似ている…様な?」
「・・っ(ギクッ)」
「……まぁ、いいか。兄弟は留守みたいだし……入れ違いになったかな?……どう思う?真っ白ちゃん?」
「………(ばっく…ばっく)」
ヤバイ……この人私が縫いぐるみじゃないの気が付いてる! し、心臓が爆発する!
「……う~ん……真っ白ちゃん、ここに置き手紙置いておくからあの兄弟にちゃんと教えてくれない?」
「・・・(い、いやぁ…やっときますから帰ってくださいっ!)」
「はいはい、そんなに急かさなくても帰るよ……じゃぁ、兄弟によろしくね……アザラシちゃん」
「(;・ω・)(え?)」
え? 今、アザラシって言った?言ったよね!?
後ろを急いで振り返ると誰もいなかった……誰だったんだ、何者なんだよ今の人……
残されたのは置き手紙と言っていた封筒だけだった。
誰だったんだろう。そう思っていると何やらさっきよりも嫌な予感がしたので急いで予め隠れると決めていた部屋へ逃げた……今日は色んな面倒事が続くわねぇ……ハァ……
早く帰ってきてくれ兄弟よ。
ブランも嫌気が差しました。