私はヌイグルミじゃないぞ!
動物のお腹に顔を埋めたくなる……そんなことってありません?
ハロハロー……ブランだよ。アザラシ生を謳歌してるとは言えるのかどうなのかは知らんけど――アザラシとしての生活はしてないよね――楽しく生きてます。
それよりも大事件でふ!……です。
噛んだのは置いといて……弟君は直ぐに見つかった…それはいいのだけど……
変な人たちまで連れてきてしまったようです。
「ですからそこをなんとか!」
「知らん……そもそも捨てた子供に何を求めてるんだあのバカ二人は…」
「く、口が過ぎますぞ!」
「なら正当な理由を言えよ……俺も弟もアンタ等に協力する義理はない」
「・・・・」
「(なんか陰鬱な空気が漂ってる……)」
兄が弟君を連れて帰ってきた時に何か良くないものが来ると私の野生的勘が働いた……とでも言っておこうか。
ソファで微睡んでいた状態から瞬時に目を冷まし二回に隠れたのだから。誉めてもらいたいレベルだ。そして階段の上の下からは見えないスペースに隠れて盗聴してます。
どうもあの兄弟にはこんな場所で住まないといけない理由があるのかとも思ったときはあったのだが、まさか一国の王子様だとはね……兄は兎も角弟君はそんな風に言われれば何処と無く雰囲気が……王子様っぽいと言われればそうかもしれない。
「どうか、我等を助けらと思って!」
「後生ですから…!」
「………」
国王の側近と名乗った二人は土下座して拝み倒している。それを見詰める兄の目はとても冷めていた。とてもあの私を弄るのが好きな鈍感な兄の面影は何処かへ消えてしまった。その事に私は言葉にしがたい感情がぐるぐると胸の内で渦巻くがその正体は良く分からない。
兄の冷たい目と態度を見て弟君が彼らに助け船をだすようだ。火に油を注がないといいけど。
「えっと……用件がそれだけならお帰りください」
ニコッて笑って言いました弟君。なんだ助け船出す気無いのね。
その言葉に自称側近たちは青ざめ狼狽して同じ言葉を繰り返す壊れたラジオになってしまった。
彼らの言葉を要約すると……
人間の国の王と兄弟の母親が会いたがっているから会ってくれ……そして出来れば王に名乗りをあげてほしい……と。
うん。勝手なこといってるよね側近たちは。
だって話を聞く限り兄弟の親は二人を捨ててこの場所から出ていったんでしょ。兄が弟君に事情を話してなかったってことはそれだけ関わらせたくないって事でしょ。両親を覚えてないなんて……弟君が小さいときに出ていった親に今更会いたいとは思わないと思う。
だって弟君は何か感付いてる節があるみたいだし。兄の話に納得してるように見えたよ。
案の定弟君は兄とは対照的に笑顔で側近たちを追い返そうとしている。笑顔で怒った美人さんは恐いってホントなのね。三割増しに怖かったよ。
「(また来たら嫌だからこのままこの場所で寝よっかな……)」
この家中は何処も暖かいから最悪廊下で寝ても大丈夫なのだ。ちなみに長い廊下でゴロゴロするのが私のこの頃のお気に入りだ。
「大体あのバb……母は自分から出ていったんだ…何を今更会いたいと?」
「それはあなた達を危ない目に遭わせない為に」
「それなら何故10歳にも満たない弟を置いていった……子供だけで暮らすのにどれ程苦労したことか……熱が出ても医者を呼びにもいけない、親は音沙汰無い……助けてくれたのは腹違いの兄である王太子だ。あの人には恩が有るが親にはさして恩なんてない。育ててもらった覚えもない」
「……ごめんね兄さん……ボク体弱くて」
「お前はもう弱くないだろ。自分で努力して体質改善して今は健康なんだから……俺が言いたいのは」
いつもの何処かマイペースな兄の辛い当時を振り返っている顔は険しく眉間にシワがよっている。いつもの優しいとは言えない顔ではあるがいつも見ていると和むあの顔が懐かしく感じた。
願わくば早くこんな話を終えて元の鈍感な兄に戻ってほしい……。
一言言葉を掛けられたら……とも思ったが、実際に言葉をかけようと思っても言葉に詰まるだろう。
ただ静かに見守るしかないのだ。
私には入れない問題なのだ。
「だからアンタらが何度懇願しようが答えはNOだ。あの人たちにそう伝えな。海の底が俺達の行き場所だ……例え地上に出ることになってもアンタらのところなんかに絶対行かない」
「うん、兄さんの苦労は側で見てきたから……それにボクは顔も覚えてないし、本音を言えば死んだと思っていたかったね」
「っ………(茫然)」
「………(唖然)」
おお、言うじゃないか弟君。私もその意見には賛成かな。
だってさ、年端も行かない子供を残して出ていくなんて親のすることじゃないよね。どうしても面倒を見れなかったら信頼できる知り合いにでも面倒を見てもらうように手配しなきゃ……。
これじゃ立派な虐待だ。ネグレクトは立派な虐待だよ。何のために親がいるの?何のために親が子供を育てるの?
子供だけでは生きていけないからだよ。
動物でも生きていけるようにある程度教えてから巣立ちさせるでしょうに……頭の発達した知性を持った人がそんな行動に出るのが理解できないわ。
子供は親のオモチャじゃないよ。道具でもない。
同じ人なんだよ。一人の命なんだ。
あったこともない兄弟の親を私は嫌いになった。兄の言っていることは本当だとは知らないけど、あの必死さと豹変ぶりを見ると本当のように思う。
多分直接会ってそれが誤解なら考えを改めるけど、会わない内はずっと嫌いのままなんだろうね。会う気がないから多分嫌いなままでしょうけど。
「………わ、わかりました」
「…その様にお伝えします」
「ああ、頼むよ。あ、それと……」
「な、何でしょう?」
「変なちょっかい出してくる気ならこっちにも考えがあるって言っといて。それと王太子殿下に迷惑かけてすみませんって言っといてくれ」
「畏まりました…」
そう答えてあとは無言でスゴスゴと側近たちは帰っていきましたとさ……ちょっと可哀想ではあるねぇ。彼らは命令で来ただけだし……ま、私が同情したところで彼らにも私にも意味なんて無いんだけどね……後味が悪いって感じただけ。
それにほら、知らない他人より近い知り合いでしょ。まだ家族じゃ無い分まだ浅い関係だけど家に置いてもらってる兄弟達の方に味方するよ勿論。
どっちが悪いとか無さそうだしね。この話……
その後兄弟二人はおもーい空気の中リビングで黙りしながら座ってます。とっても居づらい……
どうしましょ?何かした方がいい?
う~ん……何かするにしても何をしたらいいのよ……
先ずは……一階に降りよう。
「………」
「………」
「……(;・ω・)」
ダメだ、この沈黙に耐えられない
「ひやぁぁ~」
おっと……何故か欠伸が出たぞ。別に眠くないんどけど……あ、あれか!ほら、犬とか怒られて気まずくなるも欠伸したり寝たふりする……(;・ω・)
うん、体に精神が引っ張られてますね……
「きゅふっ!(しかも二人の前で大口開けてしちゃったよ欠伸……女としてどうよそれ。)」
ま、手で口もとを隠そうにも手がヒレじゃ届かないし……う、今度から人がいない方を向いてしないと。でも欠伸なんて突然来るものだしなぁ……ガッテム。
「ふっ……ふふふっ」
「プッ……」
お?おお?何々二人とも……笑ってますけどどうかした?
「無意識なのかな?」
「多分無意識だな」
二人の今を表すならWWWWだろう。これって笑ってるって意味でよろしかった?草生やしてます二人とも。兄なんて口を押さえて堪えてますが肩が笑ってる……ガクガク震えてますよ?
「お前を見ていると和むな」
「そうだね、悩んでるのがバカみたいに思えてくるよ」
「きゅぃぃ!?(それって私がバカみたいだと言うのかそうなのか!?)」
ま、まぁ良いだろう。居心地の悪い空気の中重たい沈黙に耐えるよりはマシだよ。
あ、そうか。笑いをとれば良いのか!?
「きゅふ……きゅふぅ!」
「ブフッ……WWWW」
「ちょっブラン!?」
どうだ必殺タレゴマちゃん!
説明しよう!
タレゴマちゃんとは体の力を思いっきり抜いて伸びたお餅のようにだらしなくするのだ。アザラシの骨格完全無視のどう見てもヌイグルミです。可愛さもあるがどう考えても笑いを誘うやる気の無い目が特徴です。
ま、こんな感じだ。
言っておくがあの兄弟には馬鹿ウケした。やった甲斐もあり兄なんて笑い転げてソファから転げ落ちた……大丈夫か兄よ。
そして弟君、人(?)を指差しちゃいけません!アザラシだけどダメです。
ん?なんだ兄よ……
「きゅ?(何々?何で抱っこするのよ?)」
「……やっぱりさわってる方が落ち着く…」
「兄さんはブランに依存しきってるね♪」
「あぁそうだな……(頬擦り+うっとり)」
「ぎゅふ!(近い顔近い!)」
もう、なんなんだよ兄。君はいつからモフモフ教に入信したのだ。撫でるくらいだったろう。なして頬擦りをしてるんだ!それと徐に私の腹を撫でないでくれッ!
「ぎゅふふふっ!(ぎゃばばばっ!何すんだこの変態!)」
ちょ、ヌイグルミじゃないのよ私は。生きてるの!感情もあるの!こそばゆいし恥ずかしいのってオイ!
手っ手付きが怪しいぞこの兄!お前なにか?動物にたいしてそっちの性癖がある質なのか?そうなのか?あ?
その後変にスイッチが入った兄の顔に本日二回目の顔にヘラ状の形がついたのは言うまでもない。
もう二度とこの兄とは風呂にも抱っこもされないからな!!
兄はブランちゃんのお腹を触っただけです。やましいことなんてありません。
精神的に辛いと動物に触りたくなる……多分そんなものです。ブランちゃんもそれは理解してますが、それとこれとは違ってまして……複雑なんですね。