Extra Lesson 【仲良きことは 】
拍手の再掲です(その2)
11月はじめ。学生生活最後の文化祭だ。
フットサル同好会は毎年たいやき屋を出している。
俺たち4年はもう引退しているので、全て後輩たちが仕切っているが、最終日の今日は夕方からは打ち上げがあるし顔を出した。そんなわけで今日は4年もたくさん来ている。後藤や、仁美に小野も朝から来ていて騒いでいた。うるせー。
四谷さんも今日来ているはずだ。彼女は今までの3年間は学祭に来たことがなかったらしいが(サークルや部活動に入ってないし)、さすがに今年は最後ということで、例の英文科モドキと付点音符の友人に一度ぐらい見に来いと言われたらしい。たしかあの二人のサークルの模擬店はバルーンアートとかだったな。さすが子供会サークル。ターゲットは確実に子供(とその親)だ。
「潤さーん、これ試食してみませんか? ミートソース入り」
「なんでもアリなんだな……」
後輩が、いろんなものを入れてたい焼きを焼いている。
見ると、後藤がさっきコンビニで買ってきた唐揚げ、ギョーザ、ナタデココを横から投入していた。そのワサビ入りのやつ、絶対間違えて売るなよ……。
ミートソースは食べてみると、とろけるチーズも入っていてなかなか旨かった。これ、食べさせたいな。
「たこ入りたい焼きもありますよー」
「いっそたこ焼き作れ」
朝から大学に来るから割と早めにたい焼き屋見にきてみる、って言ってたんだけどな。
と思っていたら、遠くから見覚えのある姿が見えた。パンフを片手にきょろきょろしている。
「あー、ことりん! こっちこっち!」
小野が四谷さんを見つけて声をかける。ぎょっとした。
「あ、小野さんに栗原さん。おはようございます」
「ことりん食べてってよ、たい焼き。おすすめは白玉あんこ!」
…………。
なぜだ。なぜそんなに親しそうなんだ。一体どういうことなんだ。つーか、ことりんて。
呆気にとられている俺を見つけ、四谷さんはにっこり笑った。
「あ、五十嵐くんも、おはよう」
「も」って。五十嵐くん「も」って。すごくついでっぽいんだけど。
「なに? なんで四谷さん小野たちとそんな親しげなわけ?」
「先月構内で偶然小野さんと栗原さんに会って、そのままカフェテラスに行ってランチを」
あんなことのあとに、仲良くメシ食えんのか?
四谷さんのあとをひきとって小野が言う。
「そうだよー、前に学食で失礼はたらいちゃったじゃん? だからお詫びに」
「奢るって言われたんだ」
「そう。それはもう断らないでしょう」
だよな。キミならそうだよな。
きゃっきゃ言いながら、白玉あんこ入りのたい焼きを食べる女子ら。
もごもご食べながら四谷さんが言う。
「いろいろ話聞いたよ。五十嵐くんのこと」
「えっ」
「だーいじょうぶだいじょうぶ、そんなにヤバいこと話してないって」
小野は笑うが……、ちらりと仁美を見る。仁美もにやりとした。
「話してないよ。私と付き合ってるときに、潤がラクロス部の女の子と二人で出かけた話なんか」
「あ、あれは! だからあれは違うって言っただろ! あれは……」
「それよりも、後藤くんの話が面白かった。好きになった子が実は男の娘だったっていうやつ」
「あれはねー、ほんと悲惨というか大笑いというか」
「ちょ、そこ何の話してるのー! ボクの忘れたい過去を掘り起こさないで!!」
……もう何をどうしたらいいのやらわからない。
とりあえず、四谷さんをここから引っ張り出して、どっかでコーヒーでも……
「あの、四谷さ」
「ことりー」「ことちゃーん!」
四谷さんに手を伸ばしかけたところで、少女がぴゅーと飛んできた。出た弟妹。来てたのか。
「え、誰ことりん。まさか彼氏?」
小野が弟の顔をしげしげと眺める。ちらと俺の方を見るのも忘れない。コノヤロウ。
「弟です。こっちは妹」
「ああ、例のシスコンの」
小野。ほんとにお前はサバサバすぎる。
しかし、弟は気分を害した風でもなく、平然と言ってのけた。
「シスコンというか、こいつは今まで家事と勉強しかしてなかったんで、部分的に世間知らずなとこがあるんです。ヘンなのにひっかかると家族も迷惑するんで、監視してるだけですよ」
それをシスコンと言うんだよ。
大体既に数年一人暮らししてるんだから世間知らずもクソもないんじゃないか?
俺の視線に気づいた弟は、無表情に俺を見てから、「ことり、他も見てみようぜ。じゃ」と彼女(と妹)を引っ張っていってしまった。
三人の後姿を眺めている俺の両肩を、小野と仁美がそれぞれ叩いた。
「潤、がんばれ」
そこに後藤が付け足した。
「でもピアノ室で襲うのとかやめとけよ。誰に見られてるかわかんないし。もし単位取れなかったらお前確実に振られるからな」
「…………」
単位が取れたら、卒論が終わったら……見てろよ!
で、最終話であんなかんじ