神父と巫女と俺と孫娘
緑の髪に蒼黒の瞳、気の強い一つ年下の女。
あれが、長の孫娘か・・
人をムカつかせる天才だな。
苛立ちが治まらなかった。不愉快だ。
口論の後、目に付いてしかたがなかった魔光玉を手にしたまま、
猫とリュックを背負う女を見送った。
「」
使えと渡された魔光玉は太陽の光に当たって輝いている。
それをみていればただの綺麗なガラス玉としか言いようがないが、
魔光玉が持つ魔力があの女のものだと思うと、ムカついてしかたがない。
けれど、試してやろうという気になり、
気が着いたら首にネックレスとして魔光玉を身に着けていた。
服の下に慌てて隠し、、神殿に帰る。
神殿は白い大きな建物だ。大きな門がそれを象徴する。
門には、邪悪なものを排除する結界が張られていた。
神殿の中には、祈りを捧げる大きな空間には女神像があり、朝皆が祈りにやってくる。
そして両手を杖の宝玉にかざすしている。石を彫られてできていた。
その周りにはどれも純粋な宝石類が壁にはめ込まれて、女神を護っている。
その奥には懺悔室と、魔法など術式を行う場所があった。
門を抜けると、
「どうでしたか、あのご老人の孫娘は」
神父様が出迎えてくれた。
若くも神殿のトップを担う信仰者だった。
「才能はある
が、不愉快だ」
俺はただそれだけ言った。
はらただしい、魔光玉をみてると、
まだ証も手に入れていない小娘に負けたような気さえするのだ。
「ハハッそこまで貴方が苛立ちなさるのは始めてですね。
けれど気に入っているようだ。
おや、首になにかかけていらっしゃいますか?」
「!」
服からネックレスのひもが見えていた。
めざとい神父だ。
しかたく取りだしてみせる。
「おや、これは・・魔光玉ではありませんか、
その娘に??」
「無理やり、だ」
「ははっ、まんざらでもなさそうな顔してますよ」
「試せと言われただけだ」
俺は意見を覆さない。
魔光玉の力は借りない。
が、試す価値はあるだろう、その上で必要ないと答えてやるまでだ。
「あ、あの!!」
突如、甲高い声が響いた。
タタッ
奥から白い巫女服を着た年下の女がやってきた。
桃色の髪と瞳が、目立つ女だった。
「ティーシャ、
いつも走ってはいけないといっているでしょう?」
神父が咎める。
「すみません、神父様。
あの、私、ユース様にお聞きしたいことがあったので・・」
ペコリと神父に謝った巫女は俺を伺った。
「・・・」
よく俺に巫女の中でも事あるごとに構ってくる女だった。
いまさら何がしたいのか。
「ユースさまっ旅に出るというのは、本当ですか?」
まるで行くなといいたげな瞳で問いかけてくる。
「ああ。」
旅に出ることに関しては行くつもりであったから
短く答える。
「それは寂しくなります・・。
あの、そ、それは、あのご老人のお孫さんと、ですか?」
肩を落とし気の沈んだ表情になった女は、
真剣な表情になって問いかけてくる。
「、さあな」
一瞬言葉に詰まった。
苛立ってばかりでそれは考えていなかった。
いや、考えることを拒絶していた。
少し真剣に考えてみる。
長の孫と旅か・・
明日、行くか行かないかを長が尋ねてくるだろう。
俺は・・
「さあなって・・、今日、お孫さんみにいったのでしょう?」
再度女は問い詰めてくる。
じっと俺をみつめて、答えを待っている。
それにイラッときた。
なぜ、俺がいわなければならない。
「こらティーシャ、それ以上はーー」
「先ほど神父様の会話を聞いてしまいました。
不愉快だと・・それなら何故迷ってるんですか!?」
神父の制止の声をもさえぎって、
さらに俺の心に訴えかけてくる。
うざい、これはーー俺の、
「俺の問題だ、口出しするな」
俺は低い声で線引きした。
気分は最悪だ。殺気を込めてそいつを見下ろした。
「っっ、ご、ごめんなさい、私ーー!!」
女は涙目になって口元を覆う。
「私からも謝ります、
ユースさま、彼女はまだ巫女としてのジカクが足りず、
気分を害することをしました。私の責任です。
彼女には私がみっちり説教しておきますので」
神父が、彼女の頭をおさえ、一緒に頭を上げた。
「ああ」
俺はうなずき、女に目もくれずその場を去った。
そして一夜、避けていた問題に目を向けて考えた。
行くか行かないか・・
長の言葉を思い出す。
ーーー
フィリアは・・孫娘は使い手のセンスが十分にある。弱くはない。
ユースならそれがわかるはずじゃ、それ以上にユースにとってデメリットは少ない。
孫娘が旅で求めるものにユースの求めるものもある。決して無駄な一年にはさせない。
それに、これを受けてくれたら報酬をやろう、何でもいいなさい
ーーー
これを考えると、行くしかない。
一人旅より得があるのか考えると、
・・二人と言うのは効率が悪く、得はないかもしれない。
だが、長はそれでもあの女を推した。
ーーー
「融合させた魔力は私の特別な魔力。
暗闇で光るし、魔力操作で自在に光は操れる!
他の魔力に反応するように仕込んだから
他者との対戦でどんな系統のどんな技かで区別して
自身に示すわっこれが失敗作といえる?
どう考えても便利でしょ?」
「確かにそれができれば便利だろうな、
それができれば、な?」
「できるよ!!なんなら無料タダでもっていってよ!
それで試せば良い!」
「試す?バカなことを言う。
俺がこんなみえみえの不純物の手など借りるものか。
俺は純物質しか使わない。」
「不純物って・・貴方最低!!
融合することはデメリットを生むわけじゃないのに!
さては貴方、波動使いね?」
ーーーー
女との口論で分かった気がする。
だが、あの性格の女だ・・平和な旅は望めないだろう。
けれど、それと同時に俺にあれほど語らせた女を思うと、
自然と笑みを浮かべている。
俺の闘志を燃やす女だ、踏みにじってやりたくなる。
と同時にもっと知りたくなる。
諦めの悪い女だ、気が強く強引で挑発してくる。
・・不愉快だったのは間違いない。
だが彼女と対峙しているときは常に高揚感があった。
俺を楽しませる女だ、あーゆうヤツはめったにいない。
そう思い返すと、心はすでに答えを決めていた。
***
一夜明け、早朝さっそく長が尋ねてきた。
皆が祈りをささげている間、長は俺の自室を訪れる。
「心は決まったかの?」
「ああ、行く」
「おお!そうか、
やはり、ユースとフィリアは気が合ったか!
よかったよかった」
「それはない」
俺は即座に否定した。
気が合う?それは俺とあいつが口論したのを知らないから言えることだ。
あれをみたら即撤回するに決まっている。
「そうかのぉ?
まあ、よい。
早速じゃが、改めてきてはくれぬかのぉ
実はフィリアが一人旅を望んでおる」
「俺が旅の連れだと明かしたのか」
あいつが拒絶した?何故だ。俺が原因か??
そう思った。
長の言葉は衝撃的だった、思わず問い返す。
「いや、ユースだといったわけではない。
だから、一緒に説得してくれ!たのむ!!
あやつ一人じゃわしの身がもたん!!」
「わかった、俺を連れて行け」
実を言うと最初から俺は、
すでに二人旅をする気満々だったのかもしれない。
悩んだ末の結果でもある、
あいつの意思一つでいまさら覆されるわけには行かなかった。
****
そうして俺はひさびさに里に戻ってきた。
長の屋敷に連れて行かれる。
「昨夜、フィリアと話したんが
逃げられてな・・・それっきりだったんじゃ」
彼女の自室にいくまで長が話しだした。
証獲得のための旅については先に話したそうだ。
今日から一週間後にあるという彼女の誕生日を目前に
長は心配しだした。
彼女に証について話してから距離をとられたからである。
それでついに昨日発覚した。
一人旅が良いと。だが心配性な長は諦め切れなかったのだと。
「それで、俺が切り札か」
「そうじゃ」
女の自室の目の前に着くと
長が会話を切った。
「フィリア、わしじゃ、話があるんじゃ」
長はコンコンとノックをして、そう声をかける。
だが、
「----」
声は何も聞えなかった。
「フィリア、開けるぞ」
長がドアノブに触れた。
ガチャガチャとやりだすが、一向に開かなかった。
「返事が、ないな・・
いや、まてよ・・そのドアは」
俺もドアノブに触れたとき、気付く。
ハッと、目を凝らして視ると、そこは魔法陣が大きく画かれていた。
「・・魔法がかかっておる!!
いつのまに・・」
「長、どうする」
魔封じの呪文と鍵がかかっていた。
よほど長の訪問を嫌っているのだろう。
徹底している。
長でも魔封じはやぶれないだろう。俺も専門外だ。
残る手段はドアを壊すことぐらいだが・・--
「ふむ・・当日まで出る気はないようじゃの・・フィリア。
よし、こうなったら、最後の手段じゃ」
「最後・・?」
ドアを壊すのか・・??
そう思ったその瞬間、
「ユース、お前をこの部屋の中に瞬間移動させる。
フィリアをひきずりだしてくれ」
「!!」
瞬間移動だと・・!?
眼を見開いた瞬間だった。