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旅は商売・世は使役  作者: 黎明
出逢い編
2/7

最悪な出逢い

【セラピーヒュージョン。

融合治療やってます・薬草・宝石・などなど】


商店街の一角を占領するお店の看板に、

要領の得ない内容がババンッと書かれていた。


融合治療?なにそれ??


ーーと、道行く人が時々視線を向けるお店である。

お店と言っても屋根はない。


上質の絹の敷物に、

薬草や宝石、薬の類が並べられ、値札と詳細が紙に書かれている。


周囲はガヤガヤとにぎわう商売時の時間をさしていた。

が、私はというと、周囲を分厚い本の山に埋もれて

書類にカキカキと融合の術式やそれに関する方陣を書き記していた。

最近はまりだした異種族と異世界への呼応の融合術だ。


「にゃぁう」


突如耳元であくびが聞えた。


「眠ってもいいけど、見張りは頼むわよ」


眠そうにあくびをしたのは、

ユキヒョウの子供の姿をしたセツだった。


ユキヒョウの子供といっても、

見た目は子猫そのもので雪豹独特の豹柄の毛皮と、両手の平サイズという大きさと、

しなやかな尾が、ネコ科特有の可愛らしさをかもしだしている。


しかし、つぶらなはずの瞳は

ロシアンブルーをしていて落ち着いた雰囲気を持ち、妙に大人っぽかった。


それもそのはず、

中身は成熟したオスの雪豹なのだから。

私によく懐き、忠実で、商品の見張り役を買って出てくれていた。


私は空から太陽の光が煌々と降り注ぐ中、商売をしている。

これといって宣伝をする気はない。寄ってくれる人は寄ってくれるものだ。

もし余るようなら何でも屋にうっぱらえばいい、・・かなり甘い考えの下、

目の前のやりたいことに集中していた。


「にゃぁー」


ふいにセツが声を上げた。

ピンッと猫耳を立てて、私を見上げる。


「ここのところ、毎日やっているね、

今日は肩がこるんだよ、あれはあるかい?」


ほら、来た。

すっっと顔を上げれば、最近常連になった老女だった。

肩をしわがれた手でトントンと叩いてみせる。


「ありますよ?ほら、ここに。」


「ここ?どこに?」


目の前の中身が緑色した液体の小瓶を指差したが、目を細めるばかりで

手に取ろうとしない。


これは・・商売時ね。


一度私は書き物をやめて、立ち上がった。


ガタガタガタンッ!!


と本が崩れる音が大きく響いた。

セツが驚いて飛びずさる。

ーーが、気にしない。

周囲の人もぎょっと私のほうを見つめる。


「おばあさま、目も最近悪化したのでは?」

「ああ、そうだね~このところ、ぼやけてみえてねえ」


老女は目じりに触れた。目は細く、

中の瞳に宿すモノが曖昧ににごっているようにも見えた。


「良い目薬があります。値段は***になりますが」


「そりゃ安いのぉ。でも二つ持ち歩いても、

どっちがなにかわからなくなってしまうわい」


老女は困ったそぶりを見せた。

私は空色した液体の目薬を手に取る。


安いというが、私にとっては大金だ。

迷っているなら両方買ってもらう方が良い。

腕の見せ所ね!


「じゃあ融合しちゃいましょう。」


「一つにできるのかい?うれしいねえ」


「では」



私は人差し指と中指を唇に当て、歯で肌を切った。

鈍い痛みが走るのも束の間、

ツッーと赤い血が滴る。

その血で

スッーーーーススッ

と、すばやく一枚の羊皮紙に融合の魔法陣を描いた。


片腕で羊皮紙を持ち、もう片方で目薬と肩こりに効く薬の小瓶を持つ。

指を器用に動かし、キュポンッっとビンのふたを取った。


そしてふわっと空中に羊皮紙を放り投げた。

頭上を越えたところでひらりと舞い降りて来るその瞬間に、


ジャバッッ!!と二つの液体を双方から掛け合って、

雫が落ちる前に、手のひらに魔力を集め、液体を宙にとどめた。

羊皮紙から血で描かれた魔法陣が浮かび上がる。


「互い余すことなく混ざり、呼応せよ!」


初歩的な融合呪文を唱え、液体を混ぜ合わせた。


チャプンチャプンッ


水がぶつかる音が綺麗に響く。

空色と緑が混ざり合い、深緑になった。

その色の濃さは森を思い出させる。


それを一つの空瓶に液体を魔力で注いで、キュっとふたを閉める。

小瓶に、目薬肩こり効能薬 と書いた紙を貼り付ける。


「はい、できあがりました。

値段は****です。副作用とかないので、そのままお召し上がりください」


そういいながら老女に渡す。


「ありがとね、さっそく飲むわ」


老女は金を私に渡すとそのまま私の目の前で飲んだ。


「まあ、おいしい!

あら、肩が軽くなったわ!目もすっきり!!ありがとう!

またくるわね!」


ごくごくっと飲み干した老女は、目をパチパチと瞬きして

肩をたたき、その場でくるくると踊ると、スキップして帰っていった。

笑顔がまぶしい。


「お粗末さまでした」


私が一礼すると、


「「「おおーーー!!」」」


いつのまにか人だかりができていて、

拍手があちこちで沸き起こった。


「おねえちゃん、すごい!ね、その宝石なに!?これも混ぜるの!?」

「おねえさん、最近俺、腰やっちゃってさー腰にきくヤツない?」

「あら、私は首よ?それに頭痛も・・良いお薬つくってくれないかしら?」


それからは注文、呪文が殺到してもうけることとなる。


それは日常茶飯事であったが

ーーー予期してなかったのはそれからのことだった。



夕方、私と同じように路上で店を開く者が帰り支度をはじめていた。

この店も並ばせた商品が大体売れて、値が張る宝石が数種類残している。


書き物はまだ途中で、区切りの良い所まで書いてしまいたい気持ちから

まだ帰り支度をしてはいなかった。


日陰などつくろうとはしない太陽の光が容赦なく照りつける中、


「フシャーー”」


セツがふいに威嚇した。

いつも静かなセツが牙をむき出し、毛を逆立てている。


セツが警戒している・・

セツの行動を視界の隅に留めて不思議に思ったそのとき、

頭上が大きな黒い影に覆われた。


「そこの宝石、何を混ぜた」


凛とした声音にうっとりしたくなるほどの美声。

しかし、低く怪しんでいる声色にじみ出ていた。

見知らぬ男の声だった。初めてだった。


問いかけるその言葉に顔を上げる。


「」


目の前には、背の高い青年が立っていた。

歳は私より上のようで、漆黒の黒髪で少し癖がある。

逆光で顔が見えなかった。

が、その青年はビー玉ぐらいの大きさの宝石を指差していた。


色は透き通った青。ただ光の加減でどんな色にも見える、

私の最高傑作“魔光玉”だった。


「魔力よ」


私はどや顔で言った。

魔力を宝石などの固体に融合(・・)させるのは、

融合術の中で最もポピュラーだがそれ以上に難しいとされている。


魔力の効果の発揮はもちろん、色合いや融合度によって

宝石が無駄となるか 価値あるものとなるか がすぐ決まるからだ。

またその判断も難しい。

理論上正しくとも実践して成功するかは別の話なのだ。


「融合し切れていないな、俺には視える」


「!?なに言って・・」


逆光で全く青年がみえないというのに、

彼の目が一瞬光った気がした。

そしてその言葉に目を見開く。


「フシャァーーー””」


セツの威嚇の声が大きくなる。

だが彼はものともしていなかった。


「魔力の欠片が中で散らばっている。

魔力効果も曖昧になるだろう、役立たずだな。

それにも鮮やかではない、そんな失敗作にその値段をつけるのか??

道理で売れ残るはずだ」


耳に残る綺麗な声で散々に罵られる。

だが、彼の言っていることはほんの少し正しかった。


魔力の欠片うんぬんは表現どおり散らばっているし、

色も鮮やかと言うよりは淡いに近い。


ーーーだが・・失敗作ではない!!



「確かに貴方の目には見えるみたいね!

でもこれは・わ・ざ・と・散らばらせているの、色は鮮やかだけがすべてじゃない!

魔力の効果は はっきり!明確に!でるわっっ実証済みだもの!!

それと失敗作じゃない!最高傑作よ!」


私の魔力を魂こめて

作り出した分身のような存在が、魔光玉だった。


それが、こんな声だけが良い男に

貶められるなんて、馬鹿にするのもいいとこよ!!


「ほう・・どんな効果があるというんだ?

その最高傑作(失敗作)に」



男は不敵な笑みを浮かべてあざ笑った。


私の堪忍袋の尾が切れる。




魔光玉は、ちゅら玉をご想像していただけるとうれしいです。


「ちゅら玉って?」

「暗闇で光るガラス玉のようなものだ」

「なるほど・・それは綺麗だね」

「その美しさを ちゅら といい、ちゅら玉と名づけられた」

「おお、だからちゅら玉っていうんだね!」

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