皆でお茶会!【後篇】
遅れましたあああああああ!!
なんとか投稿です後篇!
うおおおおお…………
「甘いー! 美味しいー!」
「同感!」
「あ、美味しい。……なんか腹立つ」
「うん、美味しい」
「おいしいー!」
女性は三人寄れば姦しいというが、五人寄れば姦しいを通り越して騒がしいの一言だ。
というか、主に二人が騒がしい。言うまでもなく緋蓮と詩歩である。
汐那は何故か怒りながらケーキを食べており、未央は自身の作ったムースの出来に満足している。
マナも口周りをクリームで汚しながらも、美味しそうに食べている。
「マナ、ついてるよ。こっち向いて」
「むぐむぐ……ありがとう、ミオおねえちゃん!」
未央がクリームを拭いてやると、マナは咲いた花のような笑顔を浮かべる。
マナの笑みにつられて未央も微笑み、それを見て女性陣は和んでいる。
「なるほど、こうなっているのか」
「…………」
こちらはルグレと深理の男性陣制作組だ。
もぐもぐとケーキやタルトを食べているのはいいのだが、その光景は「食べるのを楽しんでいる」というよりは「どうすればこの味が出るのか」という、徹底的なまでに制作側での見方をしていた。その上ルグレは相槌を打ちながら食べているが、深理に至っては無言である。
研究するのが悪いとは言わないが、少々無粋な気もする。
「おー、美味いじゃん涼護」
「そりゃどうも。……さすがに量多かったか」
夏木、涼護の男性陣食い専門組である。
涼護は作る側だったが、デザートやスイーツの類は元々専門外だ。夏木は言うに及ばす。
この二人はデザートの味を楽しむことなどせず、ただひたすら食べているだけだ。
涼護に至っては若干顔をしかめている。それが味のせいなのか、量のせいなのかはわからないが。
「もっと美味しそうに食べたらどう? 涼護」
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
詩歩が意地悪そうな笑みで、マナが心配そうな顔で涼護を見る。
う、と涼護がばつの悪そうな顔をする。
「……いや、大丈夫だ。美味しいよ、マナ」
「うん!」
にっこりと笑顔で頷くマナ。
内心、この笑顔を見たら多少胸焼けがするくらいは我慢するしかないなと涼護は思った。
そして、こちらをじっと見ている汐那に気付く。
「……なんだよ、蜜都」
「んー? お兄ちゃんしてるね、ってだけ。ねー涼護お兄ちゃん……あいたっ」
「茶化すな」
照れ隠しなのか、汐那を小突く涼護。
いつの世も、兄というのは妹に甘いものである。
○
「ルグレついてるわよー」
「ああ、すまない詩歩」
ルグレの口元についてしまっているクリームを指で拭い取る詩歩。
そのままぺろりと指を舐めると、ルグレが少し顔を赤くしていた。
「乙梨君、あーん」
「…………お前なァ……」
二人を見ていた汐那は、ケーキを切り分けるとにこにこと笑いながら涼護に向かってフォークを差し出した。
そんな汐那に呆れながら、涼護はケーキを一口で食べた。
「えーと……食べる?」
「……いただくが、無理に乗らなくていいぞ笹月」
ぱくん、と未央が苦笑しつつ差し出したフォークを深理がほおばる。
深理も少し苦笑が漏れていた。
「おおう……」
「んー? やったげようか、夏木」
「へ? ……いやいやいや!?」
緋蓮の申し出に、女性に対する免疫がない夏木は顔を赤くしていた。
そういう反応をするから緋蓮に目をつけられるというのに。
案の定と言うべきか、緋蓮はにこにこと楽しそうに笑っている。
「いらないの?」
「いや、その……」
赤い顔のまま、完全に停止してしまう夏木。
そんな親友を見て不憫に思ったのか、深理が助け舟を出した。
「……夏木」
「お、おう!?」
「キッチンにジャムがある。取ってこい。味が変わって二度美味くなる」
「りょ、了解!」
まだ赤い頬のまま、夏木は立ち上がるとキッチンへと向かって行った。
ずいぶんと荒っぽい助け舟である。
「緋蓮、あまり夏木をからかうな。からかいたくなるのはわかるが、それは俺たちだけの特権だ」
「おお、なんか特別な関係って感じだね……!」
「ああ」
「うっひゃー!」
深理が頷くと、緋蓮はそんな奇声をあげた。
ルグレは緋蓮の言動に首を傾げ、マナは詩歩に耳を塞がれて何も聞こえなかったようだ。
「シホおねえさん? どうしたの?」
「なんにもないよー、ほらマナちゃん。あーん」
「あーん!」
ぱくん、と差し出されたフォークを口に含む。
もぐもぐと舌鼓を打っているマナを尻目に、深理は紅茶を呷っていた。
「深理、お前わざとか?」
「この手の輩を黙らせるには効果的だろう?」
「そりゃ否定はしねェけどな」
「え、どういうこと?」
「未央は知らんでいいことだ」
素知らぬ顔をしている深理の様子に、涼護が苦虫を噛み潰したような顔になる。
事態が飲み込めずにいた未央の問いを一刀両断し、涼護はヤケクソ気味にケーキにかぶりついた。
「……ベーコンレタス?」
「やめろ蜜都マジでやめてくれ」
土下座すら辞さない勢いで汐那にそう懇願する涼護。
そんな涼護を見て、汐那は唇を指に当てて何かを考え込むそぶりを見せると。
「じゃあ、君が私にあーんして?」
「……さっき詩歩さんがルグレさんにしたみたいなのか」
「うん。……ダメ?」
上目遣いでそう言う汐那は、さすがというか自分の容姿の使い方を熟知している。
こんなことをされて、その上詩歩や緋蓮のにやにやした視線にまで晒された涼護に、断るという選択肢などあるわけがなかった。
「……何がいいんだ」
「君の食べてるコーヒーチーズケーキでいいよ」
汐那が指差したのは、未央お手製のコーヒーを混ぜ込んだチーズケーキだった。
涼護としても甘さ控え目で苦みもあり、かなり好みの味だ。
一口大にフォークで切り分ける。
「……ほら」
「あーん」
差し出したケーキを、餌を待っていた雛鳥のように汐那は食べた。
もぐもぐと幸せそうに舌鼓を打っているその理由をあえて考えず、涼護はまた一口切り分けて口に運ぶ。
気のせいか、さっきよりもコーヒーチーズケーキは甘かった。
○
「そろそろ少なくなってきたな」
「もうお開きかなー」
話に花を咲かせているうちに、ケーキやデザートはもうほとんど無くなってしまっていた。
多めに作っているためキッチンにいけばまだ余りはあるが、もう皆腹に入らないだろう。
「余りがほしい奴いるか?」
「はいはーい! 私欲しい! チョコとか甘いの!」
「マナもー!」
「ああ、わかった」
深理の言葉に緋蓮が真っ先に手を挙げ、マナも遅れて手を挙げた。
そんな義娘にルグレが優しく笑い、未央が立ち上がる。
「緋蓮、マナ。冷やしてるから、今包んじゃう?」
「うん!」
「ありがとう、ミオおねえちゃん!」
二人の元気のよい返答に、未央がにっこりと笑ってキッチンへと向かって行った。
深理もその後を追う。
「手伝おうか、笹月」
「いいよ、大丈夫。ラッピングしちゃうだけだしね」
「そうか?」
話しながら、二人はキッチンへと消えていく。
緋蓮はその後ろ姿を見送り、テーブルの上に手を組むと楽しそうな笑顔になる。
「あー、早くお兄ちゃんにも食べさせたいなー。すっごく美味しいもん」
「同感。店出せるレベルだと思う」
頷いた夏木の言葉を聞き、緋蓮が机に身を乗り出した。
「あ、その時は私最初のお客さんになる!」
「なら俺は店員になるわ」
「あ、マナもなりたい! ケーキやさん!」
「マナちゃんがいたら行列できちゃうなー」
マナの頭を撫でながら夏木がそう言う。
気持ち良さそうに目を細め、マナはご満悦のようだ。
「ルグレ、美味しかったわよ」
「ありがとう、詩歩。でも、私だけじゃないよ。涼護や未央、深理たちも作ったんだから」
「うん、三人にはあとでちゃんとお礼言うわ。ルグレには何かお返ししたいけど……」
「気にしなくていいぞ?」
ルグレの言葉を聞いても、詩歩は納得していないようだ。
腕を胸の下で組んでいるせいで、爆乳が強調されてしまっている。
顔を赤くしたルグレは視線を逸らしながら、ならばと口を開いた。
「……それじゃあ、今度買い物に付き合ってくれないか? 私では勝手がわからなくて」
「うん、わかった。ルグレがそれでいいのなら、喜んで」
ルグレの言葉に、にっこりと笑って詩歩は頷く。
机の下で、詩歩がぐっとガッツポーズをしていたのが涼護にはわかった。
「さらっとデートの約束取り付けたね」
「……ああ」
唇についていたチョコを舐めとり、汐那の言葉に同意する。
手元のカップを傾け、残っていた紅茶を飲み干した。
「……また、やりたいね」
「……ああ」
そう言って微笑んだ汐那を見て、涼護も微笑みながらそう返事をした。
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