女性は強し
風白狼さんからのリクエストで「Solveメインキャラ6人で雪遊び」です。
リクありがとうございました。
「雪ー!」
「子供か」
陽羽市にも冬がやってきた。そして今日は数年ぶりの大雪だ。
涼護が歩くたび、雪を踏みしめる音がする。吐いた息が白く染まった。
その眼前では詩歩が年齢も考えずに子供のようにはしゃぎまわっている。
「寒くないんですか」
「涼護暖めてくれる?」
「部屋でなら」
防寒具は着ているがそれでも寒い。高層マンションの屋上ならば尚更だ。
涼護は雪を踏みしめつつ詩歩に近づき、手袋も付けていない彼女の手を取った。
「ほら冷えてるじゃないですか」
「涼護も冷たいわよー。手袋してないし」
「煩わしいので」
言いつつ詩歩の手を引き屋内に戻ろうとした涼護だったが、その脚が途中で止まった。
詩歩がその場から動こうとしなかったためだ。
「……何してんスか?」
「遊びましょうよ。今汐那ちゃんたち呼んだから」
「仕事早いですね。……つか、遊ぶって」
何をして遊ぶのかという問いはここでは愚問だ。
そんなことはわかりきっている。
「雪遊びよ!」
声高らかに宣言した自分の師匠を見て、涼護の口から白く染まった息が再び漏れた。
*
「どうしてそうなった」
「俺に聞かないでくれ」
十数分後、「ソフィエル鈴白」の屋上に六名の男女が揃った。
涼護、深理、夏木。汐那、未央、詩歩の六人だ。
「雪遊びしよー! 雪合戦!」
学生五人を前に、詩歩が二度目の宣言をした。
深理は白い息を深々と吐き、夏木はマフラーを外していた。未央は苦笑しており、汐那は寒そうに震えながらも手を挙げた。
「詩歩さん、私寒いんですけど……」
「あ、勝者には師匠権限で涼護を一日レンタルする権利を与えます」
「やります」
「オイ」
餌をぶら下げられて主張をあっさりと翻した汐那に、涼護が低い声で唸った。
しかし当の汐那は聞こえていないのか、一人雪合戦への意欲を燃やしている。
「詩歩さんは相変わらずだなあ」
夏木は楽しげに笑いつつ、いそいそとマフラーと手袋を外していた。
すでに戦闘準備に入っている。
「……笹月、寒くないか?」
「え? 平気だよ。ありがとう枝崎君」
「……そうか」
防寒具を巻き直している未央へ、深理が心配そうな声をかける。
未央が大丈夫と伝えると、普段からは想像もできないような優しい声音で深理は頷いた。
「つーか詩歩さん。それ俺らが勝ってもメリットないんですけど」
「ん? じゃあ夏木君には1日私をレンタルさせてあげる。好きにしていいわよ?」
「ぶうっ!?」
腕を組み胸を強調した詩歩の言葉に何を想像したのか、盛大に鼻血を噴く夏木。
純白の雪が赤く染まった。
「汚ェなァバカ」
涼護が赤く染まった雪を蹴り飛ばした。
そして流れるように未央が夏木へとハンカチを手渡す。
「使って、勇谷君」
「あー、ありがとうな笹月ちゃん。でも遠慮するよこえェから」
深理が夏木を睨みつけている。相手が親友だからか殺気までは放っていないが、それでも怖い。
未央は冷や汗をかいている夏木に首を傾げており、二人の胸中を何もわかっていないようだ。
「…………始まる前からぐだぐだじゃねェか」
「私たちらしいといえばらしいけどね」
微笑しながら手袋を外している汐那が涼護の言葉に同意する。
詩歩はそんな涼護たちを眺めつつ言い放った。
「じゃ始めましょうか、雪合戦!」
*
数分後、六人は男性チーム三名と女性チーム三名に分かれていた。
一見男性チームのほうに戦力が偏っているように見えるが、女性チームには詩歩がいる。彼女一人で男性十人分の戦力だ。
ルールは雪玉に三回当たればアウト。全員アウトでそのチームの負けとなる。
「未央ちゃんは雪玉作ってね。汐那ちゃんは遊撃。私は主砲」
「了解です」
「怪我はしないようにしてくださいね」
詩歩が作戦を未央と汐那に伝えている。
頷いた未央は周囲の雪を集めて雪玉を作り、二人は両手に一つずつ雪玉を持った。
「……詩歩さんがいるというだけで無理ゲーじゃね」
「言うな。勝負しなかったらしなかったで不戦敗とかで罰ゲームだったっての」
「……やるしかないか」
こちらは男性チーム。始まる前から悲壮感が漂っており、三馬鹿は悲痛な決意を固めていた。
そして、開始の合図となるアラームが鳴り響く。勝負開始だ。
夏木と涼護が先陣を切り、雪玉を女性陣へ向けて投げつけた。
「まず誰でもいいから一人アウトにしろ!」
「おっしゃぶふう!?」
次の玉を補充しようとした夏木の顔に高速の雪玉がヒットする。涼護はなんとか避けた。
弾道を辿ると詩歩がいた。彼女は手に持った雪玉を振り上げつつ叫ぶ。
「誰をアウトにするってェ!?」
「詩歩さんじゃねェです!」
「てか俺雪玉当たったのか!? めっちゃ痛いんだけど!」
詩歩の攻撃を避けつつその場で痛がる夏木に、また一個雪玉が当たった。
涼護が雪玉を防御しつつ視線をずらすと、そこにいたのは蒼色。
「蜜都!」
「正解」
汐那がそう言って二個目の雪玉を涼護に放った。
詩歩と汐那の攻撃をかわしつつ、涼護と夏木は後退していく。
「夏木お前は下がれ、もう一発食らったらアウトだろ」
「お、おう」
深理が作っていた雪玉を牽制として投げながらそう言う。
夏木は言われるがままに下がっていった。
「未央ちゃん雪玉ちょうだい!」
「はい」
詩歩へと雪玉を手渡していく未央。
未央の姿を見て、深理はやりづらいなと感じた。
「くそ、やっぱ無理ゲーじゃねェか!」
女性チームから逃げ回りながらも雪玉を作り、なんとか応戦している涼護。
もう何個目かもわからない雪玉を防ぎつつ、涼護は敵に指を突きつけた。
「つか蜜都、俺ばっか狙うな!」
「えー。だって君、私相手じゃ本気で闘えないでしょ?」
そう言い返す汐那に言い返す言葉が涼護には見つけられなかった。
実際詩歩ならいざ知らず、汐那相手に本気で応戦はできない。
「うぎゃー!」
「チッ、このバカ!」
夏木がアウトになったようだ。叫び声が聞こえてくる。
深理を見ると、振りかぶった体勢のまま動けずにいた。
「未央ちゃんシールド!」
「ええ!?」
「な……!」
詩歩は未央を盾にすることで深理の雪玉を防いでいたのだ。
雪玉を手渡した詩歩は、未央の背を押すと走り出した。
「未央ちゃん、彼の相手よろしく!」
「ええ……!?」
呆気にとられている未央を尻目に詩歩は涼護へと走ってきた。
残された二人の間に気まずい空気が流れ、深理は息を吐いていた。
「……俺はアウトでいい」
「え、枝崎君?」
「……さすがに弱点をよくわかってるな、あの人は」
深理が感心した声音でそう詩歩を称えていた。
未央が相手では、深理が何もできないのをわかっていたのだ。
「って、もう俺だけかよ!」
「そういうことよー!」
汐那と詩歩の二人に追いかけられ、涼護は雪玉も作れず逃げることしかできなかった。
満足に応戦もできないまま、屋上の角へと追い詰められる。
「捕獲!」
「蜜都ォ!」
角に追い詰められた涼護に汐那が抱きついてくる。力ずくで振り解くわけにもいかず、上手く動けない。
そんな涼護へと、詩歩がにんまりとした笑顔で迫ってきていた。
「ふふー、それじゃ逃げられないわねー?」
「……チクショウ」
勝負がついた。
*
「……で何やればいいんですか」
「そうねェ」
決着がつき、涼護は不機嫌そうな顔で詩歩を睨みつけていた。汐那は勝ったのが嬉しいのか、未央に飛びついている。
腕を組んで考え込んでいる詩歩の姿に、夏木が何を思い出したのか顔を赤くしていた。
「詩歩さん?」
「んー……とりあえず、何か暖かいもの食べましょう。男衆の奢りでね」
詩歩がそう言って、女性陣を連なって屋内へと戻っていく。
その後を追いながら、三馬鹿が口を開いた。
「……結局出来レースじゃん」
「……女性には勝てないということだな」
「……女こええ」
屋上に、三人分の白い息が漏れた。