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番外短編  作者: 黒藤紫音
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陽羽学園名物三馬鹿の休日【後篇】

リクエスト作品後篇です。

「三馬鹿で馬鹿話」

さて夏木のナンパはどうなるのでしょう

「お姉さん、俺と……!」

「ごめんなさいねぇ」

「……そうですか……」


 懸命に声をかけた夏木を申し訳なさげに袖にした亜麻色の髪の美人は、手を軽く振りながら離れていく。

 彼女に手を振り返しながらも、夏木はわかりやすく意気消沈していた。そんな悪友を眺めつつ涼護は言う。


「……これで何人目だ?」

「3人越えてから哀れで数えていない」

「そうか。ところでお前が逆ナンされた人数は?」

「1人越えてから数えていない」

「おっおう」


 “数が多くてわからない”という答え自体は同じだというのにそこに至る過程がまったく違う例を見て、涼護は苦笑いを浮かべる。

 ファーストフード店を出、駅前でナンパに繰り出した三馬鹿ではあったが、当の夏木の成果はまったく振るわない。そのくせ、深理はどんどん声をかけられていく始末だ。


「チクショォォォ、俺に何が足りないんだ! 俺と深理の違いって何!?」

「強いて言うなら、それを他人に聞くか自分で考えるかの違いじゃねェか?」


 いつぞや知人にも言われたことだ。女性が何を求めているか、自分で考えて答えを見つけなければ何の意味もない。姿勢の違いとでもいうのだろうか。


「うぐう……」

「あと、がっつきすぎだろ夏木。余裕を持て余裕を」


 夏木に指をつきつけ、涼護はそう指摘する。

 先程までのナンパ風景では、夏木がものすごく必死なのが口調や声音から読み取れた。端的に言ってしまえば余裕のないその態度に好感を抱ける女性は少ないだろう。


「ぐああ……!」

「まあそんなに気を落とすな夏木。ほら、俺がもらった連絡先やるよ」

「いらねェよそんな情け!」

「いや、正直処分に困ってるからもらえ」

「命令形!?」


 押し付けられた連絡先のメモを夏木のポケットにねじこんでいく深理。

 夏木が喜んでいいのか怒ればいいのかわからない表情になっていくのが涼護からは見えた。


「なァ、連絡先もらえたのならもういいだろ?」

「よくねェよ! 自力でナンパ成功しないとだっての!」

「俺は帰っていいか?」

「お前らホント薄情だな!」


 薄情と夏木は言うが、かれこれ一時間は涼護も深理もナンパに付き合っている。

 その言われ方は心外だった。


「お前、薄情って……」

「ここまで付き合ってやっただろうが」


 思ったことをそのまま口にした二人に、夏木はうぐっと呻き声をあげた。

 正論すぎて何も言えなくなっているのだろう。


「くそォ……なんでここまで……!」

「自分で考えろ、阿呆」


 あきれ果てた口調で涼護はそう言い放つ。

 深理に至ってはもはや関心もなくなったようで、欠伸を噛み殺していた。


「俺はバイトがあるんだ。もう帰っていいか」

「同意見。もういいだろ」

「あー、じゃあ次で最後。成功失敗関係なく!」


 そう宣言すると、夏木は次の標的を探し出した。

 涼護は噛み殺そうともせずに欠伸をし、深理は興味もないらしく携帯電話を操作している。


「……お、あの子よさげ! 行ってくるぜ!」

「おー、逝ってこい」


 次の標的を見つけたらしい夏木はそう言い残して走り出した。

 なんとなくその先を見た涼護は、目を見開いた。


「そこのお嬢さん! 俺とどうですか?」

「……なにしてるの?」


 ここからでも声をかけた夏木が固まっているのがわかった。

 そんなことを考えている涼護も同じように固まっている。深理だけが我関せずだった。


「蜜都……」

「あ、乙梨君。やっほー」


 蜜都汐那が手を振っていた。よりにもよって、あらゆる意味で見つかりたくなった相手だ。

 涼護が気まずそうに目を逸らしていると、汐那はこちらにまっすぐ近づいてきていた。夏木も気まずそうにその後を追っている。


「ナンパかー、へェ。君がそんなことするなんてね」

「いや、俺が発案じゃない……って待てコラ深理テメェ」

「成功失敗関係なく、このナンパで終わりだろう。俺は帰る」

「俺も最後って言ったしなー。じゃあ後任せた涼護」

「待てゴラァ!」


 薄情にもその場から逃げ出し始めた悪友たちを呼びとめる。

 もっともその程度で止まるようなら悪友はやっていない。二人ともすぐに見えなくなった。


「ふふー……笹月さんとか詩歩さんにばれたら大変だね?」

「あいつら見越してやがったなァ……! ……クソ、何が欲しいんだ」

「んー……」


 汐那が唇に指を当てて考え込む仕草を見せる。

 普通なら可愛らしいであろうその仕草は、今の涼護には悪魔のそれにしか見えない。


「まずは何か奢ってよ」

「まずはってお前……ったく、わかったよ」

「うん」


 どうせ帰っても寝るくらいだ。それよりは汐那に付き合った方が時間の有効活用になるだろう。

 そう思うことにして、涼護は気持ちを切り替えた。


「何食いたいんだ?」

「スイーツかな」

「そうかい」


 そのまま自然と二人寄り添って歩きだし、街へと消えていった。


この三人はだいたいこんな具合につるんでます。

楽しく書けました。

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