陽羽学園名物三馬鹿の休日【前篇】
リクエストを受けて書いたバカ話です
「モテたい」
「知るか」
「ナンパにでも行ってこい」
「成功しねーんだよチクショウ!!」
休日の陽羽駅前、ファーストフード店の一角に目立つ三人組がいた。
一人は髪色を茶に染め、テーブルに突っ伏している軽薄そうな雰囲気の少年。
もう一人は、コーヒーを飲んでいる眼鏡をかけた黒髪の美少年。
しかし、もっとも目を惹くのは赤髪の少年だ。目つきが悪く、端的に言って怖ろしい顔つきの彼は、注文したハンバーガーを食べている。
赤髪の少年、乙梨涼護は食べる手を止めずに口を開く。
「いきなり何言ってんだ、お前」
「涼護、食べながら話すな」
涼護にそう注意するのは、眼鏡をかけた美少年、枝崎深理。
深理の言葉に従い、涼護は一度黙るとハンバーガーをすべて口へと押しこみ、ジュースで流しこんだ。
「……で、どうした夏木」
「いつもの発作だろう。無視しろ」
「冷たいやっちゃな!」
深理の冷淡な言葉と口調に嘆いたのは茶髪の少年、勇谷夏木だ。
夏木はぐいっと一気にジュースを飲み干し、カップごと手をテーブルへと叩きつけた。
「だから、モテたいんだって! お前らすげェモテてんじゃん! 羨ましい!」
「はァ?」
「だから、知るか」
呆れかえった深理がポテトを摘む。何本か摘んで口に運んだ後、紙ナプキンで指をぬぐう。
涼護も似た心境なのか、夏木を無視してもう一個のハンバーガーに手を伸ばした。
「お前らもうちょい食いつけ!」
「うっせェ夏木」
「ああそうかい! もう勝手に言ってやる! お前ら、ナンパ手伝え!」
「あァ?」
深理がドスの効いた低い声を発し、涼護が半目になって夏木を見る。
頬杖をつき、涼護は呆れ口調で口を開いた。
「ナンパするならなんで俺呼んだ? 不適合だろうが。深理だけでいいだろ」
「さりげに人に押しつけようとするな。あと、人を誘蛾灯のように言うな」
「お前、もうちょい例えようあるだろ」
言い得て妙な気はするが、言うに事欠いて誘蛾灯はないだろう。
言外にそう告げる涼護に、皮肉気に唇を吊り上げた深理は、そのまま皮肉めいた声音で続ける。
「なんだ、ラフレシアとでもいえばよかったか?」
「それ世界トップレベルで臭い花だろがァ!」
「つーかその例えだと、女の子が蝿になってんだろおい!」
「蛆と言わなかっただけましだろう?」
「蝿って言ってるからなお前。成虫だから」
大して差はない。はっきり言って目くそ鼻くそだ。
涼護と夏木のそんな心境を無視して、深理はコーヒーを啜る。
「……まァ、深理の女嫌いというか辛口毒舌はいつのもこととして、だ。涼護」
「断る」
「はえェよ!」
「ナンパ手伝えってんだろ? たるい、面倒。つか俺は無理だろ」
涼護が自分の、逆立ちしても女性受けしそうにない怖ろしい不良面を指差して言う。
しかし、夏木はそんなことどうでもいいと言いたげに叫んだ。
「顔のことじゃねェ! お前の体質だ!」
「はァ?」
「お前の吸引体質があればきっと女の子寄ってくるから!」
「文字通りの誘蛾灯かよ。殴るぞゴラ」
拳を構えて涼護がテーブルに身を乗り出した。その襟首を深理が捕まえて止める。
強引に座らされた涼護は、チッと舌打ちして三つ目のハンバーガーを口にした。
「涼護、お前いくつ食ってんだ」
「昨日大口の仕事あったから金に余裕あんだよ。あと腹減ってる」
「俺も今日はバイトがある。そんなくだらない用事なら、帰って寝溜めしておきたいんだが?」
「お前らの辞書に友情って言葉はないのかよ!」
悪友の冷淡な態度に、夏木がその場に頭を抱えて呻き始めた。
口から延々と怨嗟の声が漏れている。
「俺も彼女ほしいんだよ……なんでお前らだけ……ちくしょう…………」
「…………」
「…………」
さすがに哀れになってきた悪友に、涼護と深理は顔を合わせると揃って溜息を吐いた。
オチがつかないので前後篇