髪いじり
風白狼さんへの誕生日プレゼントで「涼汐イチャイチャ」
……イチャイチャしてるかなこれ。
「そういえば、乙梨君ってさ」
放課後の陽羽学園。自分たちの教室に涼護と汐那はまだ残っている。
涼護は未央を待っており、汐那はそれに付き合っている。持ち込んだ菓子やドリンクを口にしながら暇つぶしに談話していた。
「どうした?」
「ひょっとして、ポニーテールフェチ?」
「ぶふっ!」
眼前の少女の突然の爆弾発言に、涼護は飲んでいたお茶を吹きだしそうになった。
げほげほと座ったままむせる。
「大丈夫?」
「誰のせいだ……つか、唐突になんて濡れ衣着せやがるんだお前は」
口を拭いながら涼護がそう言うと、発言した当人の汐那は唇を尖らせた。
「えー。だって、詩歩さんといつも一緒にいるじゃない」
「あのな、いつも一緒にいるのは師弟で上司部下だからだ。そんでポニーテールは詩歩さんが気に入ってるってだけで、俺は別にポニーテールフェチってわけじゃねェから」
「でも、詩歩さんは”ポニーテールは涼護の趣味なのよー”って言ってたけど?」
「あの人の言うことは九割五分五厘悪ふざけだ。信じるな阿呆」
「師匠に対する絶対的なまでの負の信頼。……ならロングヘアフェチ? 周りの女の子、皆そうだし」
「違うわ。妃先輩とか椎名とかショートだろ」
脳裏に生徒会長と妹分の姿を思い浮かべつつそう言い放つ。
確かに、涼護の周囲の女性は長髪の者が多い。汐那も蒼く美しい長髪をしているし、未央も黒髪ロングだ。師である詩歩も、ポニーテールをほどけば紫のセミロングになる。
だがそれはあくまで本人たちの趣味嗜好の選択の結果であって、涼護が強要したという事実は一切ない。
「……ならさ、乙梨君はどんな髪型が好きなの?」
「あァ?」
「女の子の髪型だよ。こういうのが好きだなーっていうのくらい、あるんじゃない?」
自らの蒼髪の毛先をくるくると弄りながら、汐那がそう問いかけてくる。
言われて涼護は考えるが、元々そういったいわゆる”御洒落”に詳しくないのもあって何も思いつかなった。
「……俺、女の髪型なんざポニテとツインテくらいしか浮かばねェんだが」
「それもどうなの……んー、じゃあ私がこれから色々髪型変えるから、見てみてよ」
「めんど…………」
「……いやなの?」
うる、と心なしか潤んでいる汐那の悲しげな瞳に、涼護は喉まで出かかっていた面倒くさいという言葉を飲みこまざるを得なかった。
「……好きにしろ」
「やったっ」
了承の言葉を聞いた汐那は、途端に笑顔になるとその言葉に楽しそうにワックスやヘアゴム、ヘアピンなどをカバンから取り出し始めた。
「あ、乙梨君が髪結んでてね。詩歩さん結んでるんでしょ?」
「いや、結んではいるけどなァ。けど、いいのかよ。髪も商売道具だろ?」
「複雑なのは頼まないし、君だからいいよ」
「……あっ、そう」
*
「まずはポニーテールね」
「はいよ」
そう答えながら、涼護は慣れた手つきで借りたヘアゴムを汐那の髪を結んでいく。
髪をいじられるくすぐったさに笑いながら、汐那は言う。
「やっぱり上手というか、手慣れてるねー。詩歩さんにやってるから?」
「まァな。さて、できたぞ」
そう言い涼護が手を離すと、汐那の蒼い長髪は見事なポニーテールになっていた。
椅子から立ち上がり、汐那はその場でくるりと回る。遅れて、蒼いポニーテールがくるりと踊る。
「どう?」
「髪型変えただけで、雰囲気がらっと変わるな。活動的な感じがする」
「私、自分で言うのもなんだけど、結構活動的だと思うけど?」
「普段のお前は美人というか、綺麗過ぎて、活動的というか活発なイメージから遠いんだよ」
「……そ、そう」
さらりと言われた言葉に、汐那は髪をほどきながら顔を赤くする。それを誤魔化すように、ヘアゴムを涼護の胸板にぎゅうぎゅうと押しつけた。
*
「今度はツインテールね」
「はいはい」
次のリクエストをし、椅子に座った汐那の髪を、後ろから涼護がヘアゴムで結び始める。
「できたぞ」
「ありがと。どうかな?」
そう言い、またくるりと見せつけるようにその場で汐那は回る。二つに増えた蒼い尻尾が舞った。
「……なんか子供っぽくなってるな」
「あ、やっぱり?」
「大人っぽい奴でも似合うっちゃ似合うかもだけど、お前には合わない」
「なら次ねー」
合わないと言われてもさして気にした様子もなく、汐那は髪をほどいていく。
*
「次、横に結んでみて?」
「そういうのもありなのかよ」
「ありだよ」
言われるがまま、涼護はポニーテールの時と同じ要領で汐那の髪を結ぶ。ただし、ポニーテールとは結ぶ位置が違っていた。
「サイドテール、っていうの。どう?」
「似合ってるとは思うけど……」
「けど?」
「……ポニーテールと大差ないように見えいってェ!」
失礼な発言をしようとした涼護を黙らせるかのように、汐那が足をぐりぐりと踏みつけていた。
的確に親指を踵で踏みつけており、痛みに思わず涼護が呻く。
「失礼な」
「悪かったって……いってェ」
「もう……じゃ、次で最後ね。これは、私がやるよ」
「そうか?」
「うん。ちょっと後ろ向いてて?」
「はいよ」
指示されるがまま、涼護は後ろを向いた。
*
「もういいよー」
「ん」
言われて涼護が振り返ると、そこには見たことのない髪型をした汐那がいた。
目を見開いた涼護の反応に、汐那はその豊満な胸を張りながらにこりと笑う。
「どう? 自信作!」
「……珍しい髪型だな」
「可愛いでしょ?」
後ろ髪を上半分だけアップにし、一つにまとめている。
涼護は知らなかったが、汐那は”ハーフアップ”と呼ばれる髪型をしていた。
「ちょっとこれは複雑だからねー、乙梨君には難しいかもと思って」
「そうかい。まァ、確かに難しそうだな」
じろじろと観察しながらそう言う涼護。
あまりにも熱心なその視線に、最初は余裕そうだった汐那が次第に薄らと顔を赤くしながら身じろぎし始めた。
「あ、あんまり見ないでくれないかな……?」
「俺に見せるのが目的だったんじゃねェのか? あと、可愛いと思うぞ」
「いやそうなんだけど……って、え?」
「お前が”可愛いでしょ”って訊いてきたんだろうが。普段のストレート以外だと、それが一番好きだな。よく似合ってる」
その言葉を聞いた汐那は、今度こそ顔を真っ赤にした。教室の窓から見える夕焼けにも、涼護の赤色にも負けないほど赤面する。
「……じゃ、じゃあ私これ解くね!」
「待った。もうちょい見せてくれ」
「いやいやいやいや!」
顔を真っ赤にしながら首を振る汐那を眺めながら、涼護はにやりと笑いながらそう言い放つ。
「ほどかせて! というかほどく!」
「却下」
あまつさえ、髪を解こうとした汐那の腕を捕えてそのまま腕の中に閉じ込めてしまった。
「ちょっとぉぉぉ!」
「もうちょっとだけ」
「むりいいいいいいいいいい色々限界だからあああああああああああ!」
「限界は超えるためにある」
「むりいいいいいいいいいいいい!」
汐那の心からの絶叫が、無人の教室にいたく。
救助はまだしばらく、来そうにない。
「ふみゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」




