二人の中学時代の日常風景
6/18に、ツイッターでのタグにて番外編を書くことになりました。
そういうわけで涼護と未央の中学時代の日常です。
突然始まり突然終わりますが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
笹月未央が目を覚ますと、まず視界一面に広がったのは赤だった。
目を凝らすと、それは髪の毛だった。面倒がって切っていないからか半端に伸びてしまった赤い髪は瞼を覆い隠していた。閉じられているその瞼の奥には、髪と同色の赤の瞳があるはずだ。
普段の人相の悪い顔つきからは想像するのが難しいほど穏やかな顔で、乙梨涼護は眠っていた。未央と同じベッドで隣り合って。
「……ふわあ……」
そんな衝撃的な朝を迎えたにも関わらず、未央はたいして動揺もすることなく、その場で小さく欠伸をした。
ベッドから上半身を起こし、ぐっと背伸びをすると自分の服装を確認する。
「制服のまんま……寝落ちしちゃったんだ、私」
未央は独り言をつぶやくと、いそいそとベッドから抜け出し洗面台へと向かう。
冷水で顔を洗い、鏡の前で身だしなみを整えた後、部屋に備え付けられているキッチンへと向かう。
ヘアゴムで髪をポニーテールにまとめエプロンをつけると、勝手知ったる他人の家と言わんばかりに冷蔵庫を物色する。
食材を並べ終えると、調理器具を取り出し調理し始めた。ハムや卵がフライパンで焼かれる音と匂いが部屋に充満していく。
そのころになってようやく涼護が目を覚ました。
「……あ……? 未央……?」
「おはよう、涼護。ありがとうね」
「……なにが」
「昨日、寝落ちちゃった私をベッドまで運んでくれたんでしょ?」
「……ああ」
その言葉にようやく合点がいったようで、涼護がぽんと手を叩いていた。
くあ、と出てきそうになった欠伸を噛み殺している。
「起きたなら顔洗って着替えて。朝ごはんもう少しでできるから」
「おー、サンキュな。……あれ、お前そのエプロン」
「涼護の借りてるよ?」
「……好きにすればいいが、サイズ合ってねェなァ」
涼護の言うとおり、エプロンのサイズが大きすぎて未央には合っていない。肩かけがずり落ちそうになっていた。
「いいのよ、別につけられれば。それよりも」
「へいへい……」
未央に促されて、ようやく涼護はベッドから起き上がり洗面台へと足を向けた。
それを見送り、未央は卵を片手で割るとフライパンへと投下した。
○
「昨日、どこまで進んだっけ?」
「数学の……50ページ?」
「ん、そこまでいけば後一歩かな。じゃあ今日は社会ね」
「うげェ」
未央手製の朝食を食べながら、涼護がわかりやすく顔をしかめた。
現在、二人の通う陽羽第一中学校はテスト一週間前を迎えている。そして、涼護はお世辞にも学校の成績が良いとは言えない。
そんな涼護とテストというのは相性が悪く、今回も彼は補習の危機を迎えていた。
それを毎度救うのが未央の役目となっていた。おそらく高校に進学してもそれは続くだろう。
「しかし、泊まるのはいいけど熱入りすぎて夜更かし寝落ちって年頃の女子の所業じゃねェな」
「勉強していない涼護が悪いのよ、バカ」
「すみませんでした」
「あと、一緒のベッドで寝るのは構わないからせめて着替えてから寝なさい」
二人とも、現在の服装は学生服だ。着替えたわけではなく、ベッドで寝ていた時からずっとそのままだ。
涼護が語ったように、未央は泊まりがけで彼の試験勉強の面倒を見ていた。
これは未央が涼護を恋い慕っているということやはたまたその逆というわけでは断じてなく、単にそこまでしないと補習は確実だろうというほどに状況が切羽詰まっていただけだ。
「お前健康体だよなァ。夜更かしとかしねェのか」
「必要があればするけど、夜は眠いじゃない?」
「……道理だな」
正論すぎる未央の言葉に、涼護は黙って朝食の味噌汁を啜った。
未央はそんな様子の涼護に首を傾げつつ、自身が作った朝食へと手をつける。
メニューは白米、味噌汁にハムエッグと昨夜の残りであるポテトサラダだ。
「朝から重いかと思ったけど、そうでもないかな」
「重くはねェだろ、サラダなんだし」
ががが、と涼護が朝食を一気に掻きこんだ。
その様子に呆れ混じりの微笑を漏らし、未央も一口白米と食べた。
○
「忘れ物は?」
「ねェよ。お前は俺の母親か」
「涼護みたいに手のかかる息子はやだなあ」
「んだとコラ」
朝食を食べ終えた二人は、学生カバンを持って玄関に立っていた。
本日も中学生である二人は学校なのだ。
「お弁当作ったから」
「おう、サンキュー」
弁当箱の包みを受け取った涼護は自分のカバンへとそれを突っ込んだ。
未央もローファーの踵を整えつつ、ドアノブへと手をかける。
「時間はまだ大丈夫だろ」
「けど、早く行くに越したことないでしょ」
「違いない」
頷いている涼護を横目で眺めつつ、未央は玄関の扉を開いた。
涼護とともに、未央は外へと飛び出す。
「行ってきます」
「……行ってきます」
二人とも同じ言葉を残し、朝の登校路を走って行った。
感想・レビューなどあれば。




