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真っ黒な紳士

作者: 一葉

ある商店街の一角に小さな店が在った。痩せた土色のレンガで出来た壁や、その外観を一層飾り付ける野苺の蔦。紅い実や緑の葉は、甘美な露を滴らせている。窓の淵は繊細な細工で施された銅色の金具、そして、木の扉に掛かる

「汝の孤独、真実の自由」

と書かれ吊るされた銀のプレート。独特な風貌であるにもかかわらず道行く人々はその店が見えないかの様に忙しく行き急いでいる。


ある者は自らの為に。


ある者は愛する者の為に。


まぁ、時を急ぎ生きる者にとってこの店は只の風景でしかないのだから気づかないのも当然だ。

しかし、例外も存在する…


静かな店内には、黒いスーツに身を包んだ男が居た。歳は三十の前半だろうか。日に焼けていない白い指で洋書を読んでいる。

紙を捲る度に悲鳴を上げる古い椅子は男のお気に入りの一品で、背凭れに赤い血の跡がこびり付いていた。壁の棚には砂糖菓子の入った小瓶から半透明の蜜色で何が入っているか解らない小箱、さまざまなオブジェが一寸の狂いもなく並べられていた。

ふっと男が洋書から視線を上げ、ゆっくりと本を閉じると、扉を開けた客に丁寧に礼をした。

「いらしゃいませ。何をお求めでしょうか。」

店内に現れたのは、女性とは呼ぶにはまだ早い少女だった。

栗色の長い髪を躍らせながら物珍しそうに棚やテーブルを眺め、男に気づくと少々態度を大きくしてこう言った。

「此処では何でも買えると聞いたのだけれど」

「何でも…というわけでは有りませんが…他では手に入りにくいモノを扱っております。」

「ふぅん」

今の説明を理解してもらったのだろうか。男は少々苦笑しながらも、身を屈めて夜空の様な瞳に出来るだけ親しみを込めて簡単な言葉で言った。

「それで、何をお求めでしょうか、小さなレディ」『小さな』という言葉に少々不満げな表情を見せたものの、少女は腰に手を当て、尊大な態度は崩さずに説明を始めた。

「私、此処じゃない世界に行きたいの」

「それはそれは」

「もうウンザリなの。どうでもいい他人の死、それを喜ぶ人間達にも、何処へ作用してるのかも分からないまま覚えるスキルにも、何処へ投げても落ちる事の決まっている林檎にも、もう沢山!」

「…空の向こうに行けば林檎も落ちませんが」

「それは落ちない事が決定しているからよ!何にでも答えの決定している世界がもう嫌なの!!!」

「成る程」

興奮して上下する小さな肩を、男は優しく諌め、それならいい物があると、店の奥に入って行った。


「丁度、今朝に入荷したばかりの物ですが」


男の両手に抱えられていたのは、金の糸で刺繍を施されている白い枕だった。枕の端には銀色の糸で

「(黙して果てる事の無い世界へ)」

の文字が刺繍されていた。

「…なぁに?これ」

「人を此処では無い世界へ送る枕です。この枕で眠る者は皆、その姿を愛され、果てる事の無い旅に出会えるのです」

「…ふぅん」

「皆、と言いましてもこの商品の対象は女性の方に限りますが」

少し高そうな何処にでもある枕と男を何度も訝しげに見比べた。

「その話はホントなの」

「効果が無ければ、返品も可能です…但し、当店をご利用いただいた方からは、未だそのご連絡を頂いておりませんがね」

男は悪戯げに微笑んだ。

「…そうね、ミオは此処に来て願いが叶ったって言ったもの。貴方を信じてみる価値はあるわ」

そう言って少女はキッと男を見上げると、枕を受け取った。

「是、頂くわ。それで、お値段は?」

取り敢えずは珍しいモノなのだから、それなりに値は張るんでしょう。少女は眉を寄せてブツブツと呟きながらも、キャラメル色の小さな鞄から財布を取り出した。しかし、男はニッコリと微笑み、すっと白い手でそれを静止させた。

「お金は頂きません。その代わりに、当店ではお客様の一部を支払って貰っているのです」

少女はさらに眉を寄せ、財布の中身を弄っていた手を止めた。

「それってどういうこと?私の臓器でもとって、売るつもりなのかしら?」

「いえいえそう言う訳ではありません…お客様の一部を、私はコレクションしているのです」

「…随分と悪趣味なのね」

「ええまぁ、そうでしょう」

愉快そうに笑う男を見やりながら、少女は少し弱った風に肩を落とした。しかし、そんな少女を見ながら、男は更に楽しそうに笑った。

「しかし、貴方の願いを叶える為の代価としてはお安いモノだと思われますよ」

「……。そうね、そうだわ。良いわ。それで私は、私の何を差し出せば良いのかしら?」

「………えぇ、そうですね……それでは…貴方のその瞳と声帯を頂きましょう」

「…眼と声を?」

「ええ、そうです。だって、別の世界に行く貴方にはこの世で現在を認知し存在を音に出す為の道具など必要ないでしょう」

「…………。確かにそうだけれど。でも、私の眼と声なんかで代金になるのかしら?」

「いえいえ、『何も見ない瞳』『音の出ない声帯』というのも、中々珍しい一品で御座います」

少女は流石に驚いた様だったが、直にふっと、そして大きな声で笑い出した。

「貴方、変わった人ね。此処でこんな商売ばかり続けていても、お金にならないでしょう?」

「えぇ、まぁ」

「本当に変わった人。貴方って…あら、そうだわ、私ったら、自己紹介もまだだったわね」

ころころと表情を変えながら、少女はふわりとスカートの裾を広げ、男の前でレディらしい礼儀に則り、可愛らしいお辞儀をした。

「私、フィリスと云うの。真っ黒な紳士さん、貴方は?」

「ツヴァイと申します。」

「まぁ、

「二番」

さん?可哀想な御名前」

「私はとても気に入っています」

「ふふ。そう、やっぱり変わった人ね」

少女は最後にそう言って笑うと、光の広がった扉の向こうへと消えて行った。それからもう二週間になるが、彼女からの連絡は無い。恐らくはあの枕で旅に出ているのだろう。




男はお気に入りの椅子に座り洋書を眺めながら、新たに加わった小瓶の気配を感じて、くすりと静かな店内で笑いを漏らした。




この店は、この世界に順応なモノは不必要で、そして、とっても不親切なのだ。

なんだか意味の分からない世界を作ってしまいました…。ま、まぁそこら辺はおいおい気にするとして!!! この話しは前に書いた「甘い魔法」と同じ商店街を使ってたりします。…ぇ!何処が似てるかって?それは最初の文の…(以下省略)てな訳です!!!とにかくここまで読んで下さって有難うございました!

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