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Twist And Break  作者: 弥月
5/20

005

深弦の三回目ですっ!

勝手に専門用語作ってすみませんっ!!

 マティアスが名乗った所で、俺は一つの疑問を浮かべた。


「そういえばここから出るってすんなり言ったけど、どうやるんだ? ここは違う魔術師が作った空間なんだろ?」

「まったく、悠麻はうたぐり深いね」

「それは偏にマティアスさんが怪し過ぎるからだ」

「師匠を訝るとはいけない子だ。あと僕の事は気軽にティアと呼んでくれたまえ」


 訝るも何も、俺はこの人を頼りはしたがまだ信用してはいないのだが。


「その顔。もしかして僕の事を信用してないね?」

「また読心術か?」

「違う違う……って…当たっちゃってたの!? 僕は少し悲しいよ……」


 そう言って泣き真似をするマティアスがこれっぽっちも悲しそうに見えないのは果たして俺だけだろうか。


 それも飽きたのか、一瞬でケロリとその泣き真似を止めて、さっきまでと同じ掴み所の無いような笑顔に変わる。


「それにしてもねー。どうやって出たい?」


 ふふふ、と薄く笑いながらマティアスは言った。


「どうやっても何も、俺は魔術に関する事は何一つ知らないんだから想像のしようが無いだろ」

「うん、そうだね。そう言ってる今正に脱出してる途中だったりして」

「はへ!?」


 やべ、柄にも無い声出しちまった。


 それにしてもどういう事だ。今が脱出の最中? それは、俺達が歩き回って移動しているならそれも分からなくもないが、俺達は出会ったその場所から1メートルだって動いていないのだ。常識的に考えて、それは不可能ではないのだろうか?


 俺がその事について考え込んでいると、マティアスが説明を始めた。


「魔術で作った世界っていうのは、いくつもの“層”みたいな物で外界から切り離す事で作られるんだ。だから、ここと同じ景色も、実際に存在する。そして、切り離すとその世界の端っこに着いてもワープみたいに反対側の端っこに着いて中をぐるぐる回るしか出来ないんだ」

「結界みたいだな」

「実際似たような物さ。ただ、結界は“外から中への侵入を防ぐ物”なのに対して、こっちは“中から外への脱出を防ぐ物”だけどね」


 俺は己の耳を疑った。


 ……今、彼は何と言った?


 “中から外への脱出を防ぐ”。それはつまり、俺達はこの空間に閉じ込められていて、脱出が出来ないようにされている?


「悠麻って、考えてる事がすぐに顔に出るよね。読心使うまでもないよ」

「!!」


 それは何と言うか、少し悔しいような気がするのはなぜだろう。


「ちゃんと出れるよ。何たって僕は――」

「はいはい、“希代の魔術師”、だろ」


 段々とコイツの言動のパターンが分かってきたかもしれない。


 マティアスは、決め台詞を先に言われたのがショックなのか、少しふて腐れている。


「ティア……それくらいで落ち込むなよ……」

「うーむ……。それもそうなんだけど…それと別に少し懸念事項も有ってだね……」

「懸念事項?」

「うん。ま、とりあえず出ようか」

「もう出れるのか!?」


 彼は何も言わず俺の方を見て、笑顔を作ってから俺に背を向けて歩き出した。


 置いて行かれないように彼の後ろを着いて行く。


 路地から出ると、そこには広場のような場所と、いっぱいに広がる青空。さっきまでの暗く狭い路地裏が嘘のようだ。


「よし、脱出完了♪」

「すげぇ……」


 本当に脱出出来てしまった。俺がいくら走ろうとも脱出出来なかったあの路地裏から、いとも簡単に。


「それで、さっき言った懸念事項ってヤツなんだけど」

「あ、あぁ」


 周りの景色に呆気に取られて危うく忘れてしまう所だった。


 彼が言う所の“懸念事項”とは何なのだろう。彼程の実力者――比較対照する物が無いからそれがどれだけのものなのかは分からないないが――が言う程の事なのだ。それを聞くと流石の俺だって少なからず不安になる。


 説明するのに悩んでいるのか、彼は少し言いづらそうにしている。


「俺、焦らされんのは嫌いなんだけど」

「分かった分かった! ただ、僕に“君に魔術を教える”なんていう所業が出来るのかなって思っちゃってさ……」

「あんなに偉そうに言ってたくせに今更弱音か?」

「違うって! 普通だったら教える相手の力量次第ではかなり上級の術まで教えられる自信が有るよ!?」

「その言い草だと俺が普通じゃねーみてぇじゃねーか」


 その俺の言葉に、マティアスは頷いた。


「君は普通じゃないんだ」


 衝撃を受けた。

 別に、“魔術でボスをぶっ倒す”だの“強くなって大事な奴を守る”だのというファンタジックで乙女チックな二次元的な展開を期待していた訳ではない。ただ、もっとまずいのだ。魔術を習得出来ないとなると、下手をしなくても死活問題になってくる。


 身を守る術を持っていない。


 それがどれだけ危険な事かは、既に先程の路地裏の世界で嫌というほど体験した。


「いや、ね、悠麻ー? 勘違いしてるみたいだけど、魔術が使えないんじゃないよー? ただ単に魔術を使うシステムが違うだけだよー?」

「は? それじゃますます意味分かんねーよ。きちっと説明しやがれ」

「君は魔力が無い……“零式ゼロシキ”と呼ばれる存在なんだよ」


 魔力を持たない存在。魔術を使うシステムが違う。だが、魔術が使えない訳ではない。


 頭の中でマティアスに言われた事を整理する。システムが違うだのと話がややこしいとはいえ、魔術を使う事が出来ると聞いて、俺は少し落ち着いた。


「魔力は普通、誰でも多少なりと持ってるものなんだ。だけど、極稀に、本当にかなり少ない確率で、“零式”は生まれて来るんだ。“零式”は、魔力という限界値が無い代わりに、普通よりも魔術発動のシステムが違ってややこしい」


 なんか頭がこんがらがってきた。どうやらさっきのマティアスの言葉を覆すようだが、俺はそんなに頭の良い奴ではなくなったらしい。勘は良いけど頭は悪いって所だろうか。


「…………結論!! 魔術、教えてくれるんだよな!?」


 これ以上話がややこしくなるのは御免だ。だから俺は、マティアスにそう聞いた。それにマティアスは、いつものニヤついた顔で答えた。


「僕の持てる術の全てを、君にマスターさせてあげると誓おう」



 この表情でマティアスが何かを言う時、その言葉には嘘が無いという事を、俺はこの短時間で既に理解していた。


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