002
初めまして。執筆二番手の逸鬼です。
今回は深弦さんにリレー小説という、とても魅力ある企画を任せて貰えましたので、感謝と感激をしています!
未熟者ですが、深弦さんの足を引っ張らぬよう頑張りますので、暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
それでは、本編をどうぞ!
どれくらい走っただろうか。
息はとっくに上がりきっていて、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
だが、いつまで経っても、この路地裏からは出られない。
同じ風景を見続けることに嫌気がさしだし、急に走ることが億劫になった。
「なんだよ……なんだよ、これ。どうなってんだよ!」
衝動のままに叫んだ声は、朝日だけが光源の、薄暗い路地裏を響いていった。
俺はなぜ記憶がない?
昨日までは普通の生活を……いやそもそも、その普通の生活のことを覚えてない。
俺がなにをしていたのか。どんな人物だったのか、それすら解らない。
「目を開けたら、見覚えのない場所だし、起きたら起きたで変な黒い影に追われるしよ……なんなんだ、畜生!」
俺は思わず、横にあるコンクリートの壁を殴った。
「痛……ッ」
ろくに鍛えたわけでもない拳は、もちろん、ダメージを受けた。
反射的にうずくまってしまったが、唸りのような音を聞き、無理矢理に体を起こす。
視線の先には、先ほどから俺が終われている黒い影があった。
五体。ぱっと見はそれだけだが、確実にもっといた。
一応、人型に見えなくはない形だが、体中に纏う黒い霧のようなもので実態は解らない。
「なんなんだよ、お前らは!」
もう何度目かも分からない悪態。だが、俺のちっぽけなプライドを優先して、あいつらに捕まるのはごめんだった。
休めと無言で訴えてくる体に鞭を打ち、また動かす。
止まったら捕まる。捕まったら何かされる。その何かが、具体的に何かなんてのは分かったものではないが、友好的でないのは明らかだ。
幸い、影共のスピードは早くはなく、今の俺の速さでも辛うじてではあるが追い付かれない。
「次の角を、曲がる――!」
出来るだけ距離をとり、休息を取るために走る。
しかし、その選択は間違えたかもしれない。
俺がその事を後悔したのは、随分の先のことだったが。