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Twist And Break  作者: 弥月
17/20

017

 今となってはもう見慣れ始めた道を通って、いつものように演習場に行く。ティアには言っていないが、実は空いている時間を見つけては演習場に通って、今までにティアに習ったことをほぼ毎日復習していた。まぁ、ぶっ倒れた次の日は流石にやめたけど。

 その他にも、今朝のように稀にだが買い物をティアと代わることも有る為、演習場への道程は完全に覚えたのだ。


 大通りの店をちょいちょい眺めながら、いつもの演習場へと辿り着く。


 俺が受付に行くまでもなく、顔パスとも言えるような早さでティアが受付を済ませてきた。


「早いな……」

「まぁね。さぁ、行こうか」


 どこの部屋を借りたのか俺には分からないので、俺は黙ってティアの後ろを着いて行く。

 着いたのは以前ティアと来たことの有る部屋だった。


 コンクリート打ちっぱなしの、魔術符が貼ってある部屋。


「なんでわざわざここなんだ?」

「この世界で魔術を扱う者は、誰かに習わなくても自然に属性魔術を覚える。赤子が立ち上がることを教わらないのと同じようにね。それを更に強いものにしたり、深いところまで知りたいって人だけが、誰かに師事したり、フェイブルとかみたいな魔術学院で魔術を習う。だから言ってしまえば、属性付加が出来ない人物は珍しいんだ」


 つまり、属性の付かない魔術を使う者はほとんど居ない。


 とティアは言った。とことん俺の存在はこの世界では例外らしい。俺でこれだったら《始まりの三人》とやらはどんなひどい扱いを受けたんだろうか。


「ま、とにかくここならほぼ安心だからね。そんなことは気にしなくていいよ」

「そっか。なら早速教えてくれないか? 早く魔術を使いたくて仕方ないんだ」


 正直に言うと、家を出る前からずっとわくわくしている。やっと魔術らしい魔術を使えるようになると考えると、そうならないわけがない。


「じゃ、始めよう。その前に、まず1つ質問だ」

「げぇ……」

「なに、大した質問じゃないさ。悠麻の《属性の付いた魔術》へのイメージを聞こうってだけさ」


 そう言われて真っ先に思い出すのはティアの魔術だ。前に属性は《光》だと言っていた。

 とりあえず、属性が付くことによって威力が上がることは間違いないだろう。この前の戦闘で、リシェルの氷属性の魔術は、属性を付けない俺の攻撃より遥かに高い威力を持っていた。

 全部でいくつの属性が有るのか分からないが、きっと火、水、樹、風の四大元素くらいは有るだろう。


 それだけティアに告げると、彼はうんうんと頷いた。


「《認識》はそれだけ有れば充分かな。後は《定義》と《処理式》だね」

「待ってくれティア。色々と用語が増えてきて混乱してるんだが」

「大丈夫大丈夫。要するに、《定義》ってのはどんな魔術を発動させるかのイメージで、《処理式》はそれを発動させる術式のことさ」

「が……頑張る……」


 そう聞くと、ティアは微笑んだ。

 基本的に笑顔を絶やさない彼だが、時々見せる優しい微笑みは、いつもの笑顔とは違う何かが有るように見える。


「属性付加って言っても、魔術に色を塗るだけのイメージだから、そんなに苦労することは無いはずさ」

「色?」

「あんまり説明ばかりでもつまらないだろう? そうだな……悠麻、好きな属性は? その属性のイメージカラーを、普段やってることに重ねるイメージだ。やってごらん?」

「へっ!?」


 いきなり言われても困るというもの。

 とりあえずティアに言われた通りのイメージで、俺は雷属性を発動させてみることにした。


 雷のイメージカラーといえば、俺の中ではとりあえず黄色だった。それを普段やってること――つまりは属性無しの攻撃魔力に、それを重ねるイメージ。


 そのイメージが頭の中で出来た瞬間、一瞬だけ指先でパチッと電光が弾けた。


「雷か。悠麻にはホントに毎回驚かされるね……まさか詠唱も媒体も無しで現象系を成し遂げるとは……」

「現象系?」

「魔術系統の1つ。めんどくさいから覚えなくてもいいよ」


 正直、他に出て来た単語を覚えるだけで精一杯だった。故に、ティアのその言葉には少し安堵した。これ以上覚えるものが増えては堪らない。


 そう思ってると、ティアの表情が少し硬いものに変わっていた。


 そして彼は呟くように言う。


「…………悠麻。少し試してほしいことが有るんだけど、付き合ってくれるかい?」


 普段の飄々とした表情から一転して、そこからは緊張や不安といった感情が窺えた。


「何に……?」

「いや、単に《イメージだけで攻撃魔術を発動させてみてほしい》ってだけさ」

「イメージだけで……?」


 今の自分は、ちゃんとした魔術の構成や基本理論、詠唱などの発動条件など、魔術に関しては習っていないことだらけだ。


 それでも――


「分かった、やってみる」

「ありがとう。難しいことでなくていい。それに君なら、たぶん出来るよ」


 その言葉に励まされ、俺はマナを練り始める。


 そして、イメージする。


 どんな魔術にしたいのか。

 どんな魔術を発動させたいのか。


 想像。連想。構築。創造。


「…………よし」


 一連のイメージを作り終えると同時。膨大なエネルギーが生まれ、何か完全に別のもの変わるような感覚が襲い、その反動に思わずうめき声と共に目を閉じる。


 しばらくしてから目を開けると、自分が想像した生物がそこには居た。


 青白い雷光を纏う、真っ赤な獅子。


 しかし《役割》を与えられなかったそれはすぐに光の粒子となって消える。それはごく当たり前のことで、むしろ、赤獅子が暴走しなかったことに安堵した。


 成功したということにまず安堵し、マティアスの反応を見ようとするも、彼の表情は想像していたものとだいぶ違っていた。


「嘘、だろ……基礎も無しに《召喚》をするなんて……。それも、異属性を持つ赤獅子……」

「ティア……?」


 彼が呟いたことは、疑問を抱くには充分すぎた。


 本当なら少し驚かせるだけのつもりだった。しかし、彼が浮かべていた表情は、《驚き》を通り越して、最早《畏怖》に近かった。


「悠麻……1つ尋ねていいかい?」

「え?」


 自分が今行った魔術――赤獅子の召喚に何か有ったのだろうか。

 そんな不安を抱きつつ、マティアスに質問の続きを促した。


「…………悠麻……君は今、魔術を行うのに何を使った?」

「何って……普通に魔力練って――」


 言いかけて、言葉に詰まる。


 無意識の内にやっていた一連の魔術発動の流れ。それを全て思い出すが、それの中に、マナの体内変換は含まれていただろうか。


「……じゃない…………マナのままだ……」


 そう、マナを魔力へ変換するという、最も重要な作業をやっていない。自分は今、マナをマナのままで、魔術を使用したのだ。


「でも……そんなこと……」


 出来るはずがない。


 そう言おうとして、止める。

 他に同じことが出来る人が居るかどうかは別として、少なくとも自分には出来てしまったのだから。


 口をつぐんで俯いてると、マティアスが仕方ないとばかりに苦笑して、ふぅ、と息を吐く。それから俺の頭をぽんぽんと軽く叩いてから、宥めるように言った。


「どうやら、後は座学で済みそうだね。しかしながら、僕にも調べないといけないことが出来たみたいだ。悪いんだけど、しばらくは相手を出来そうにないよ」

「それはいいけど……その間、俺はどうしてればいい?」

「今日やったことの完全修得と、出来たらでいいから、仕組みの研究かな。最低でも前者だけはやっておいてほしい」

「……分かった。やるだけやってみる」


 どうせ魔術の練習は少なからずしなければならないし、使っている内に何か分かることも有るかもしれない。何もしないでじっとしているのが苦手な俺にとって、彼の指示はとても適切なものだった。


「今日はとりあえず帰ろう。今のところ、どんな反作用が来るか分からないからね」

「そう……だな。先行ってる」


 肯定して、一足先に扉へ向かう。マティアスならすぐに来るだろう。




「無意識の内に《零式関数》を行使して、更にはマナを魔力に変換せずに魔術を発動、か。……悠麻…………君は一体、何者なんだろうね……」


 扉が閉まった後に呟かれたマティアスのその言葉は、悠麻の耳に届くことはなかった。


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