011
と、いうのがおよそ30分前の話。
その後、街に出てみたはいいものの、この街の地理をまだ知らない俺は――
「どこだ、ここ……」
この歳で所謂迷子になっていた。恥ずかしさで死にそうだ。
「とりあえず、演習場に戻……り方が分からないんじゃどうしようもないか……」
ヤバイ、途方に暮れてしまう。八方塞がりの背水の陣だ。
そんな時である。
「ちょっとそこの茶髪! 人の家の前で暗くならないでくれる!?」
声のした方を振り向くと、そこに居たのは、俺と同じくらいの歳の女の子。かなり整った顔立ちで、紺青の瞳にセミロングくらいの長さの薄い水色の髪。背は俺より少し低いくらいだ。
「誰?」
俺がそう尋ねると、彼女はふんっと鼻を鳴らしてから俺を見下したような口調で言った。
「名を尋ねる時にはまず自分から名乗れっていう基本事項も教わらなかったの? でもいいわ、特別に私から教えてあげる。私はフェイブル魔術学院魔術科1年、リシェル=クーラントよ。さぁ、次はあなたの番。名乗りなさい」
「俺は鈴峰悠麻。名前がユウマで、姓がスズミネ」
「知らない名前。おまけに聞き取りにくい発音ね。んで、ユウマ。あなたこんなところで何をしているの?」
名前が言いにくいのは仕方がないとして、そうなるとやはり聞くのも聞きにくいのか。
しかも彼女、今の自分が1番話したくない事を平気な顔で聞いてきた。
「うん……まぁ……所謂迷子ってやつ。演習場まで行きたいんだけど……」
「演習場? 学院の隣じゃないの。まったく、今帰って来たところだってのに……」
「魔術学院って、演習場の隣なのか? えっと……」
「フェイブル魔術学院」
「そうそれ」
彼女――リシェルが大きく溜息をつく。
そして、何も言わずにふいっと俺に背中を向けて歩きだした。
「え、あ、ちょ、待ってくれよ!」
「遅い。迷子の馬鹿は黙って早く私について来るのが義務なのよ」
「そんな義務聞いた事ねぇぞ!!」
俺の方を振り向きもせずにズカズカと歩いていた足を突然止めて、顔だけを向けてとてつもなく不機嫌そうに言った。
「いちいち五月蝿いわねぇ……静かについて来る事も出来ないの? この私が折角演習場に案内してやろうとしてるってのに」
「え、いいのか?」
「いいから行こうとしてるんでしょ、それくらい分かりなさいよ」
それを言い終えると、彼女は再び歩き始めた。
今度こそ彼女に遅れをとらないように、俺は少し早足でリシェルの後を追った。