王太子と婚約した親友を、応援したら…
料理が得意の私は、親友のアナスタシアに自分の料理をふるまっていた。
「エリザベスって本当に料理上手だよね。一流のシェフ顔負けって感じ」とアナスタシアは料理に舌鼓を打つ。
「そう言ってもらえてうれしい。私は料理ぐらいしか取り柄がないから」と私は言う。
「こんなに料理が上手なら男にもてそうなのに、あんた全然そういうのないよね。男に興味ないの?」
「好きな人はいるんだけど、私なんてぜんぜん手の届かない人なの」
「え? 好きな人いるんだ。誰それ?」
「内緒」
「まあいいや、あんたの料理の腕を見込んで、ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「なあに?」
「今度王太子に料理をふるまうことになったんだけどさ。うちの代わりに作ってくれない?」
「え? 王太子に?」
「そう、料理が上手な女って思われたらさあ、うちにもワンチャンあるかもじゃん。男の心をつかむにはまず胃袋を掴めってよくうちのママが言ってるの」
「でもそれって、王太子をだますことになるんじゃない?」
「いいのいいの、これも恋の駆け引きってやつよ」と屈託なく笑うアナスタシア。
私は悩んだ。彼女が狙っている王太子は、私が片思いしている相手なのだ。彼はイケメンで背が高く、誠実で知的。おまけにユーモアのセンスもあるパーフェクトな男性なのだ。まるで出木杉君である。
悩んだけど私はアナスタシアの頼みを引き受けることにした。どうせ私には高嶺の花なのだ。親友の恋を応援しよう。
「わかった。あなたの代わりに料理を作るわ」
「わあ、ありがとうエリザベス! 持つべきものは親友ね!」とアナスタシアは私に抱き着いた。
×××
私はアナスタシアの代わりに料理を作った。それを食べた王太子は料理のおいしさに感動していた。
「こんなおいしい料理は初めて食べたよ。なんていう料理なんだ?」
「えっと、確か舌平目のムーミン・・・じゃなかった、ムニエル」とアナスタシアはしどろもどろで答えた。
私は物陰からその光景を見ていた。王太子が喜んでくれて私はうれしかった。
このことがきっかけでアナスタシアは王太子と親しくなっていった。
彼女は王太子に料理をふるまうたびに私を召喚して代わりに料理を作らせた。私は自分の作った料理をあこがれの人に食べてもらえるのがうれしくて、ついついアナスタシアの頼みに答え、何度も料理を作った。
そのうちにアナスタシアと王太子は恋人同士になり、婚約した。
「エリザベス、何もかもあんたのおかげよ。ありがとう!」
婚約の報告をしに来たアナスタシアは大喜びで私に感謝した。
私は複雑な心境ではあったけど、舞い上がっているアナスタシアを見ていると、これでいいんだって気持ちになった。
「けど、これからどうするの? 結婚したらだまし通せないんじゃない?」
「大丈夫よ。王宮には凄腕の料理人がちゃんといるんだから。うちが料理する機会なんてそんなにないよ。それに、結婚しちゃえばたとえ嘘がばれたってそう簡単に離婚できないじゃん」
「それはそうだけど・・・」
私の心配をよそに、式の準備は着々と進んでいった。しかし結婚式を目前にして、アナスタシアは流行り病にかかって倒れてしまった。
×××
私は彼女を見舞った。
ベッドの上の彼女はやつれて、目は落ちくぼみ、10歳も老けたみたいに見えた。
「大丈夫? アナスタシア」
「エリザベス、来てくれてありがとう。うちはたぶん助からないと思う」
「そんなこと言わないで」と私は彼女の手を握った。
「きっと罰が当たったんだ。王太子にうそをついて、親友の好きな人も奪って・・・」
「え? もしかして、私が王太子のことを好きってこと知ってたの?」
アナスタシアはこくりと頷き、涙を流した。
「ごめん、エリザベス。うちは、あんたが王太子のことを好きって知りながら、自分の欲望のためにあんたを利用した。最低の女だ。きっと神様はちゃんと見ててうちに罰を当てたんだ」
「そんなこと気にしないで。たとえ私が料理をしなくても、あなたは彼と結婚してたはず。あなたは私と違ってとても魅力的だもの」
「お人よしだなあエリザベスは。あんたと友達でいれて、うちは本当に良かった。我が人生に一片の悔いなしだよ」
アナスタシアは力なく微笑んだ。
ほどなくして彼女は死んだ。
私は、泣いた。今まで生きてきた中で一番悲しかった。
×××
葬式の日、式の後で、死者を弔う立食パーティーがあった。私はアナスタシアが好きだった料理を作って参加者たちにふるまった。
結婚直前に婚約者をなくして悲観にくれていた王太子がその料理を食べ、目を見開いて驚愕した。
「こ、この味は、アナスタシアがよく作ってくれた料理の味だ! いったい誰がこの料理を作ったんだ?」
料理を作ったのが私だとわかると、彼は私に歩み寄った。
「君があの料理を作ったのか?」
「はい、そうです」と私は言った。
「僕はアナスタシアの婚約者のルークだ。僕は心から彼女を愛していた。君の料理は、死んだアナスタシアが作ってくれた料理と同じ味だった」
「アナスタシアは、私の親友でした」
「そうか・・・」、しばし考え込んだ王太子は、意を決したように顔を上げて言った。
「もし迷惑じゃなかったら、僕のためにまた料理を作ってくれないだろうか?」
「え? 私が、料理を?」
「君の料理を食べると、死んだアナスタシアがよみがえったみたいに感じるんだ。頼む」と頭を下げる。
私は微笑んで答えた。
「ええ、喜んで」




