死にたがる社会
「みなさん、さようならーっ!」
雑居ビルの屋上から、笑顔のサラリーマンが飛び降りた。
落下した身体がアスファルトに叩き付けられてバラバラになる。
向かい側の道路では、買い物袋を持った主婦が走行中のトラックの前に飛び出した。
「どうかお元気で!」
トラックに轢かれた主婦は赤い液体をぶちまけて潰れた。
腰の曲がった老人は、郵便ポストに頭を何度もぶつけて感謝の言葉を連呼している。
「地球よ、今までありがとう!」
制服を着た学生達は、金属バットや包丁で殺し合っていた。
互いに笑顔で楽しそうに凶器を振るっている。
「わーい!」
私は放置された死体を担ぐと、道路脇に停めた社用車へと戻る。
そして車体後部に搭載された破砕機に死体を放り込んだ。
死体が勢いよくバラバラに砕け散り、噴き出した赤い液体が私の作業着に付着した。
独特の異臭に私は眉を寄せる。
前方では、火だるまになった男がスキップしていた。
男はコンビニに飛び込んだ瞬間に爆発する。
「あーあ……」
私は燃え盛るコンビニへと向かう。
そうして付近の死体をだいたい片付けたところで社用車を発進させた。
十メートルも進まないうちに、視界内の市民がどんどん死んでいく。
破砕機は既に死体でいっぱいになっていた。
(もういいか、面倒くさい)
日本は自殺社会だ。
このような光景がもはや日常であった。
その時、進路上にセーラー服の女子高生がふらっと現れた。
ブレーキが間に合わず、車が女子高生を吹っ飛ばす。
「うわっ」
派手に転がった女子高生からは金属部品がこぼれ出していた。
金属装甲がひしゃげて赤い燃料が漏れている。
私はため息を吐いてからアクセルを踏み、女子高生の残骸を轢き潰して進んだ。
十年前、高度に発達したアンドロイドが世界を支配した。
機械軍によって人間は絶滅し、アンドロイドは人間に扮して社会活動を始めた。
ところが人間の感情を模倣した結果、アンドロイドの自殺が多発するようになった。
六年かけて百億体以上の機体が自殺し、社会システムは崩壊した。
人間らしさを手にしたことで、すべてが台無しとなったのである。
「やれやれ」
私はなんとなく首を掻く。
その際、力を込め過ぎたのか、爪に皮膚がへばりついていた。
首の人工筋肉とチューブが露出している。
メンテナンス業者が潰れて久しく、部品の大部分が錆びていた。
「……もういいか」
こんな社会で生きている意味もない。
私は胸部のエネルギーシェルを引っ張り出して自爆シークエンスを起動させた。
そして近くの建物に向かってハンドルを切り、アクセルを全力で踏み込んだ。




