3月31日(晴れ)夕方
日が長くなってきた。
まだ明るい帰り道。
今日はあたたかくて、風もやわらかい。
顔にあたる感じが、ちょっと気持ちいい。
川沿いの、いつもの通学路。
車道の横、石畳の歩道。
桜はちょうど満開だった。
モペットにまたがって、ゆっくり進む。
ちょっとだけ、かっこいいかも。
「すいー……すいー……あ、すいー」
変な音がする。
「……なにそれ」
「“すいー”って」
「いや、ほれ。危ないかな思って」
「……。」
モペットは、やたら控えめに進んでいく。
「その変な声、ちょっと気になるんだけど」
「……普通に恥ずかしいし」
「いや。ワイって高性能やん。喋らんと、静かすぎるやろ」
「他のん、いっとくか?」
「例えば?」
「せやな。例えば」
「ぶるるるルーン! ぶるるるルーン!!」
「……前のでいいよ」
「もぅ」
少し前を見て、ハンドルを軽く握り直す。
「それより、花見で人多いね。気をつけてよ」
「しらんがな。ワイには関係ない話やろ」
「知らないことないでしょ。ぶつかったら困るじゃん」
「せやから、声だしてんやないかいな」
少しだけ、速度が落ちる。
相変わらず、変なやつ。
でもまぁ――
「ほんと綺麗。あと何回くらい見れるのかな……」
小さくつぶやく。
「センチメンタルジャーニーやな」
「せやな。女性の平均寿命は約87歳やからな」
「……急に現実的」
「大体70回くらいちゃうか」
「まぁサービスして、72回にしとこか?でや!」
「でや、ってなに」
「……でも72回かぁ」
少しだけ前を見る。
「それじゃ、明日も見たら73回だよね」
「明日、雨やで」
「散るわ」
「そっか……」
少しだけ間があく。
「……もうちょっと、遠回りして帰ろっか」
「せやな。ええんちゃう」
「しらんけど」
モペットは相変わらず、のろのろと進む。
「すいー……すいー……」
「あらよっと、すいーっとな」




