EP 7
湯畑の大歓声と、上州和牛×深谷ねぎの奇跡の鉄板焼き
「エスティマの中が、すっかりネギの匂いだな!」
「しょうがないでしょ、埼玉の皆さんがトランクいっぱいに積んでくれたんだから。新鮮なうちに食べないとね」
助手席で鷹人がガハハと笑い、運転席の恵が嬉しそうに答える。
車内には、先ほど埼玉県でもらった立派な『深谷ねぎ』の香りがほんのりと漂っていた。
エスティマは県境を越え、群馬県へと突入。第6のチェックポイントに指定されているのは、日本三名泉の一つにも数えられる名湯・草津温泉だ。
温泉街の中心にある巨大な『湯畑』が見えてくると、エスティマの車内はどよめきに包まれた。
『草津よいとこ一度はおいで! ジャパンカップ参加者様、大歓迎!』
湯畑の周囲には提灯がズラリと並び、法被や浴衣を着た地元の人々が、エスティマの到着を見るやいなや大歓声を上げたのだ。
「チョイナ、チョイナ!」という伝統的な『湯もみ』の唄と板の音が、お祭り気分を最高潮に盛り上げている。
「すげえ……! 埼玉も凄かったけど、群馬も本気のお祭り騒ぎじゃねえか!」
信長が窓を開けて手を振ると、沿道の観光客や地元民から「野球少年、いっぱい食べていきなー!」「お母さん、運転お疲れ様!」と温かい声援が飛んでくる。
指定されたVIP専用の駐車スペースに車を停めると、割烹着を着た温泉旅館の女将さんたちと、屈強な板前たちが笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそ群馬へ! 長旅の疲れは草津の湯で流していただくとして……まずは、群馬が誇る自慢の食材でおもてなしさせていただきます!」
ドンッ! と野外の特設鉄板スペースに運び込まれたのは、見事なサシ(霜降り)が入った巨大な牛肉のブロックだった。
「うおおおおっ!! なんだこの肉の塊は!?」
信長の目が、今までで一番見開かれた。
「群馬が誇る最高級ブランド『上州和牛』の特選ロースです! 豊かな自然と清らかな水で育ったこのお肉を、豪快に鉄板焼きで……」
板前さんが肉を切り分けようとしたその時、恵がスッと手を挙げた。
「あの、すみません! せっかくの素晴らしいお肉、埼玉の皆さんにいただいた『深谷ねぎ』と一緒に焼いてもいいですか?」
「おっ? 埼玉のネギですか。それは面白い! ぜひ奥さん、一緒に焼きましょう!」
プロの板前さんも、ジャパンカップならではの『県境を越えたコラボ』を大歓迎。
恵は持参したマイエプロンをキュッと締め、あっという間に深谷ねぎを斜め切りにしていく。
ジュワァァァァァッ!!
熱した鉄板の上で、分厚く切られた上州和牛と、たっぷりの深谷ねぎが踊る。
和牛の極上の脂が溶け出し、それが深谷ねぎの甘みを極限まで引き出していく。そこに恵が、持参していた「給食のステーキソース(醤油・玉ねぎ・リンゴのすりおろし入り)」を豪快に回しかけた。
「ああっ……! 匂いだけでご飯が三杯いける……!」
信長が空の茶碗を握りしめながら悶絶する。
「はい、お待たせ! 上州和牛と深谷ねぎの、恵特製・県境越えスタミナ炒めよ!」
大皿に盛られた照り輝く肉とネギ。
信長が箸で和牛とネギを一緒に掴み、白飯にワンバウンドさせてから口に放り込む。
「んんんんんんっっっ!!!」
言葉にならない叫びが信長の口から漏れた。
「肉が……口の中で溶けた! なのに肉の旨味はドカンと来る! そこにネギのシャキシャキ感と、尋常じゃない甘さが合わさって……美味え! 埼玉と群馬のタッグ、最強だ!!」
「ガッハッハ! こりゃあビール……じゃなくて、ノンアルコールビールが進むぜ! 焼き加減も最高だ、母さん!」
鷹人も満面の笑みで肉を頬張る。
その様子を見ていた地元の板前たちも「なるほど、リンゴの酸味が和牛の脂をサッパリさせてるのか……お母さん、タダモノじゃないね!」と親指を立てた。
「ちーちゃんは、あまいのがいいー」
肉の熱気に少し圧倒されていた千姫の元には、女将さんがニコニコと近づいてきた。
「お嬢ちゃんにはこれね。群馬名物『焼きまんじゅう』よ。甘じょっぱいお味噌が塗ってあるの」
「わぁっ! おっきいおだんご!」
フワフワのパンのような生地に、甘い味噌ダレを塗って香ばしく焼いた巨大な串。千姫が小さな口で一生懸命に頬張ると、口の周りがお味噌だらけになった。
「おいしー! ちーちゃん、ぐんましゅき!」
「ふふふ、よかったわねえ」
最高のおもてなしとコラボ飯でお腹を満たした後は、草津の熱いお湯で家族揃ってリフレッシュ。
信長の筋肉の疲労も、鷹人の肩こりも、恵の運転疲れも、名湯がすべて洗い流してくれた。
「佐藤さん! これ、群馬からの手土産です! 嬬恋村の高原キャベツと、下仁田コンニャクです! 次の県でも美味しいご飯にしてくださいね!」
「まあ! こんなに立派なキャベツ! ありがとうございます!」
トランクには埼玉のネギに加え、群馬のキャベツとコンニャクが仲間入りした。
各都道府県の想いと食材をエスティマに詰め込んで、佐藤家のハワイへの旅——いや、日本全国食い倒れおもてなしツアーは、さらに続く。
ジャパンカップ・第6チェックポイント、群馬県。
佐藤家、上州和牛と草津の湯に心も体もトロトロになって、無事クリア!




