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運転歴20年以上!農道給食オカンがエスティマで日本横断! 〜佐藤家のご当地グルメ満期家族旅行〜  作者: 月神世一


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5/10

EP 5

夢の国を横目に、九十九里の爆食海鮮BBQ

東京の複雑な首都高を「特売日のスーパーよりマシ」と一蹴し、見事に抜け出したエスティマは、東京湾沿いを走る湾岸線へと合流した。

潮風の混じる風を切り裂きながら、車は千葉県へと突入していく。

「あーっ! ママー、おしろ! おしろがあるー!」

チャイルドシートに座る千姫が、窓にへばりつくようにして短い指を差した。

視線の先、広大な敷地の中にそびえ立つのは、誰もが知る『夢の国』のシンボル、シンデレラ城と巨大な火山だった。

「おおっ、ディズニーじゃねえか。すっげえ、生で初めて見た」

後部座席で信長も身を乗り出す。愛知の田舎町から出てきた野球少年には、あまりにも眩しい景色だ。

「ちーちゃん、ミッキーさん、いくー!」

「ガッハッハ! 千姫、あそこはまだおあずけだ!」

鷹人が助手席から身を乗り出し、千姫の頭をガシガシと撫でた。

「俺たちが目指すのは、まずハワイだ! このレースで一千万とハワイをかっ攫って、こんがり焼けたアロハなミッキーに会いに行くぞ! 日本のミッキーはその後だ!」

「うんっ! はわい、いくー!」

「親父、それじゃ結局両方行くことになってねえか?」

信長のツッコミに車内がワッと沸く。

ギスギスしたレースの緊張感など、このエスティマの中には微塵も存在しなかった。

夢の国を横目に湾岸線をさらに東へ進み、エスティマは千葉県の東側——太平洋に面した九十九里浜へと到着した。第4のチェックポイントである。

「よし、チェックポイント通過! さあ、今日のお昼は海鮮BBQよ!」

「うおおおおっしゃあああ!!」

信長が雄叫びを上げて車を飛び出す。

指定された海岸沿いのBBQエリアには、すでに到着していた他のラリー参加者たちの姿もあった。

その中には、高級な大型SUVに乗る若手IT社長風のチームの姿が。

彼らはピカピカの海外製高級グリルセットを広げていたが、慣れない火起こしに悪戦苦闘し、顔をススだらけにしていた。

「チッ、なんだこの炭! 全然火が点かねえぞ!」

「風が強すぎるんですよ社長!」

そんな彼らの横で、佐藤家の動きは常軌を逸していた。

「おう信長! ブロック並べろ! 風防ぐぞ!」

「おうっ!」

土建屋の親方である鷹人と、四番打者のパワーを持つ信長のコンビが、あっという間に耐火レンガで完璧な風防付きの即席カマドを組み上げる。

鷹人が絶妙な空気の通り道を計算して炭を置き、バーナーで一炙り。わずか3分で、赤々と燃え盛る完璧な火床が完成してしまった。

「よし母さん、火はできたぞ!」

「はいはーい! じゃあ焼いていくわよ!」

恵がクーラーボックスから取り出したのは、地元の直売所で大量に仕入れてきた九十九里名物の大粒ハマグリと、巨大なサザエ、そしてイカの丸焼き用串だった。

網の上にハマグリが並べられる。

しばらくすると、パカッ、パカッと小気味良い音を立てて殻が開き、中からふっくらとした身が顔を出した。そこに恵が、焦がし醤油とバターをタラリと垂らす。

ジュワァァァァァッ……!!

「ああっ……!!」

磯の香りと、バター醤油の焦げる暴力的な匂いが、強烈な海風に乗ってBBQエリア一帯に吹き荒れた。

火起こしに失敗していたIT社長チームが、たまらずヨダレを飲み込む音が聞こえる。

「さあ信長、食べなさい!」

「いただきまーす!!」

信長が熱々のハマグリをトングで掴み、ハフハフと口に放り込む。

「んんんんんんんっ! 美味ええええ!! 肉厚でプリップリだ! 噛めば噛むほど海の旨味があふれてくる! 白飯! 母ちゃん、白飯!!」

「はいはい、おにぎり作ってあるわよ。サザエの方は、給食の裏メニュー『特製ガーリックマヨ』を乗せてツボ焼きにしてるからね」

グツグツと煮え立つサザエの殻の中で、ニンニクとマヨネーズが磯のスープと融合し、悪魔的な香りを放ち始める。

もはや、周囲の参加者たちは自分たちの作業を止め、佐藤家の網の上をガン見していた。

「……あの、すみません」

たまらず、ススだらけの若手IT社長がフラフラとエスティマの陣地に近づいてきた。

「その……めちゃくちゃ美味そうですね……。俺たち、火が点かなくて……」

「あらやだ! あんたたち、朝から何も食べてないの!? 駄目よ、若いんだからしっかり食べなきゃ!」

恵の『給食のおばちゃんスイッチ』が完全にオンになった。

「鷹人さん、あの子たちのカマドの火、ちょっと直してあげて! ほら、あんたたちはこのイカ焼きと、ハマグリのおにぎり食べなさい!」

恵は次々と焼き上がる海鮮を、ライバルであるはずのIT社長チームの皿にドサドサと乗せていく。

「うっ……うめえっ……!! なんだこれ、実家の母ちゃんのメシより美味い……!」

「ああっ、バター醤油が沁みるぅぅ……!」

「ちーちゃんも、おにぎりたべるー!」

敵も味方も関係ない。

気がつけば、佐藤家のエスティマの周りには、匂いにつられて集まってきたラリー参加者たちの巨大な食事の輪ができあがっていた。

過酷なレースの最中、九十九里の海辺に現れた『給食のおばちゃん』は、ライバルたちの胃袋とハートを完全に掌握してしまったのだった。

ジャパンカップ・第4チェックポイント、千葉県。

佐藤家、胃袋外交大成功により、無事クリア!

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