EP 13
城下町の迷路とミリ単位の車幅感覚! 治部煮とろける加賀風・氷見うどん
富山湾の海の幸を堪能した佐藤家のエスティマは、加賀百万石の歴史と伝統が息づく街、石川県金沢市へと足を踏み入れた。
しかし、市内のチェックポイントである『ひがし茶屋街』周辺へ近づくにつれ、コースは信じられないほど複雑で狭い道へと変貌していった。
「うわっ、なんだこの道!? カクカク曲がってて、おまけにメチャクチャ細えぞ!」
信長が窓から身を乗り出して驚く。
「城下町特有の『枡形』や『クランク』ね。昔、敵の軍勢が城に攻め込みにくくするために、わざと見通しを悪くして直角に曲がるように道を作ったのよ」
鷹人が、大工の親方らしい歴史の知識を披露する。
この「歴史的迷路」が、ジャパンカップの参加者たちに牙を剥いていた。
車幅の広い高級スポーツカーや、車高を極端に下げた改造車が、直角の細い路地を曲がりきれずに切り返しを連発。焦って縁石に高級なホイールを擦り、「ガリガリッ!」と悲鳴のような音を立てて立ち往生する車が続出していた。
『さ、佐藤さん! キャンピングカーではこの角、絶対に曲がれませんわ!』
後ろを走る西園寺夫妻も、ついに完全停止してしまった。
「あらあら。みんな、車の四隅の感覚が分かってないのね」
恵は、少しも慌てることなくエスティマのハンドルを握り直した。
「西園寺さんは、大通りを通る迂回ルート(※ポイントは下がるがペナルティなし)をナビで送るから、そっちを通ってね! うちのエスティマはこのまま行くわよ」
恵の『オカン・センサー』が、車体の全幅と全備重量、そして縁石までの距離をミリ単位で計算し始める。
「給食センターから、昔からある古い住宅街の保育園にトラックで配送する時の道に比べたら、全然余裕よ。あの時は、左右のブロック塀との隙間が数センチしかなかったんだから」
スィーッ、ピタッ。スルスルスル……!
恵はドアミラーとルームミラーを瞬時に確認しながら、一切の切り返しをせずに直角の狭い路地を滑るように曲がっていく。
内輪差を完璧に計算し尽くしたその動きは、まるでエスティマがアメーバのように形を変えて隙間をすり抜けているかのようだった。
「す、すげえ……壁スレスレだぞ!」
「母ちゃん、マジで変態的なドラテクだな……」
立ち往生するスポーツカーの横を、涼しい顔でスルスルと抜け去るファミリーカー。
地元のお年寄りたちが「おやまあ、見事な運転だこと」と拍手を送る中、佐藤家はトップでチェックポイントの広場へと到着した。
「ようこそ金沢へ! あの迷路をノーミスで抜けてくるとは、お見事です!」
着物姿の観光大使のお姉さんたちが、優雅な笑顔で出迎えてくれた。
「さあ、加賀百万石のおもてなし料理、『治部煮』をご賞味ください!」
漆塗りの美しい器で運ばれてきたのは、鴨肉と季節の野菜(すだれ麩やしいたけ)を、甘辛い出汁で煮込んだ郷土料理だ。肉に小麦粉をまぶして煮込むため、スープにとろみがついているのが特徴である。
「うおおおっ、美味そうな匂い! いただき……」
「ちょっと待って! 富山の皆さんにいただいたアレ、ここで使わせてもらうわ!」
恵がトランクから取り出したのは、富山でもらった『氷見うどん』と『渦巻きかまぼこ』だ。
恵は広場の厨房を借り、手延べの細くコシのある氷見うどんをサッと茹で上げ、どんぶりに盛り付けた。そして、その上から熱々の治部煮のトロトロスープと具材を豪快にぶっかけ、彩りに赤と青の渦巻きかまぼこを添えた。
「完成! 恵特製『鴨の旨味とろける治部煮ぶっかけ・加賀風氷見うどん』よ!」
「うおおおおおっ!! トロトロのスープが麺に絡みついて光ってる!!」
信長が、ズルズルッ! と豪快にうどんを啜り込む。
「ハフッ! ズズッ! ……んんんんんんんっっっ!!!」
「細くてツルツルの氷見うどんに、鴨の濃厚な旨味が溶け出した治部煮の甘辛いとろみスープが完璧にコーティングされてる! 麺を啜るたびに、出汁の香りが鼻に抜けてたまんねえ! トロトロのすだれ麩と、富山のかまぼこも味が染み込んでて最高だ!!」
「ガッハッハ! 鴨肉の脂が上品だな! 城下町らしい、奥深い味だぜ!」
鷹人と信長が、上品な器からあっという間にうどんを吸い尽くしていく。
「ちーちゃんは、これー!」
熱いうどんをフーフーして食べていた千姫の前には、食後のデザートとして金沢名物『金箔ソフトクリーム』が運ばれてきた。真っ白な濃厚ミルクソフトの上に、本物の金箔が贅沢に一枚ペロリと貼り付けられている。
「あむっ……! ん〜〜〜っ! あまーい! きらきら、たべちゃった!」
いつもは口の周りに白いヒゲを作る千姫だが、今日ばかりは口の周りにキラキラと『黄金のヒゲ』を作り、お姫様のような満面の笑みを浮かべていた。そのゴージャスで可愛い姿に、着物のお姉さんたちもメロメロだ。
ピロンッ♪
『佐藤家:城下町の極狭路地における神業ドライビングと、県境を越えた上品なコラボおもてなし! ポイント+1500pt! 暫定1位を完全キープ!』
「佐藤さん、これ石川からの手土産です! 能登半島の海水で作った『能登塩』と、ホクホクで甘い加賀野菜『五郎島金時』! 次の福井県でも、安全運転で頑張ってくださいね!」
トランクに最高級の塩と甘いさつまいもを積み込み、歴史ある金沢の街並みに別れを告げる。
日本海沿いの旅は中盤戦。エスティマは次なる目的地、恐竜とカニの国・福井県へと向けて、力強く走り出した!




