EP 7
富良野のラベンダー畑と、四番打者の猛ダッシュ! 妹のための「究極・苺ミルク」
札幌での氷点下キャンプを乗り越え、佐藤家のエスティマは北海道の中央部、富良野へと到着した。
見渡す限りの丘陵地帯には、紫色のラベンダーをはじめとする色鮮やかな花々が絨毯のように広がり、絵本から抜け出したような絶景が参加者たちを出迎えていた。
「うわぁ〜! すっごい綺麗! 空気がお花の良い匂いねえ」
恵が窓を開けて深呼吸をする。
本日のジャパンカップ・おもてなしミッションは『富良野の大自然で、地元食材のピクニックを満喫せよ』という、これまた佐藤家にとってはボーナスステージのような平和な内容だった。
「よし! 景色の良いところにシート広げて、お昼にするぞ!」
鷹人がエスティマのトランクを開けようとした、その時だった。
「……ない」
エスティマの後部座席から、この世の終わりのような声が聞こえた。
「ちーちゃんの、いちごみるく、ない……」
千姫が、空っぽになったクーラーボックスの隅を小さな手で探りながら、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めたのだ。
道中のご機嫌取りに欠かせなかった「紙パックの苺ミルク」のストックが、ここへ来て完全に尽きてしまっていたのである。
「うわあっ! ち、ちーちゃん泣かないで! 母ちゃん、コンビニ! コンビニ寄って!」
「信長、ここは富良野の丘の上よ! 一番近いコンビニまで車で何十分かかるか……!」
恵も慌てて周囲を見渡すが、あるのは美しい花畑と農地ばかり。
「うぇぇぇん! ちーちゃん、いちごみるく、のむぅぅぅ!!」
ついに千姫が本格的に泣き出してしまった。
AIカメラが、ピクニックの空気を壊しかねないこの事態に「おもてなしポイント減点の危機か!?」と赤いランプを点滅させ始める。
西園寺夫妻も「おおお、天使の涙……! なんとかしてあげたいが、私の車にはブラックコーヒーしか……!」とオロオロしている。
「……待ってろ、ちーちゃん」
その時、信長がジャージの紐をギュッと結び直し、目つきを「打席に入る四番打者」のそれに変えた。
「にぃにが、世界一美味え苺ミルク、持ってくるからな!!」
ダダダダダダッ!!
信長はエスティマを飛び出すと、丘のふもとに向かって猛烈なスプリントを開始した。
甲子園を目指す高校球児の脚力は伊達ではない。まるで土煙を上げる野生動物のようなスピードで、信長は地元の農道へと消えていった。
「す、凄いダッシュ力だ……!」
「信長のやつ、妹のことになると限界突破するからな……」
鷹人が呆れ半分、感心半分でその背中を見送る。
それから約15分後。
「はぁっ、はぁっ……!! 買ってきたぞ!!」
汗だくの信長が、両手に大きなビニール袋を抱えて帰還した。
「ふもとの直売所で、朝もぎの『富良野産・完熟イチゴ』! それから近くの牧場で、絞りたての『特濃ふらの牛乳』! あと、北海道産の『甜菜糖』だ!」
「でかした信長! あとは母ちゃんに任せなさい!」
恵が信長から食材を受け取ると、ピクニックシートの上で即席のクッキングが始まった。
ボウルに真っ赤な完熟イチゴを入れ、フォークで粗めに潰していく。そこに、自然な甘みが特徴の甜菜糖を加え、イチゴの果汁と絡めて特製のシロップを作り上げた。
透明なグラスに氷を入れ、その上にイチゴシロップをたっぷりと落とす。そして最後に、表面にうっすらとクリームが浮くほど濃厚な「特濃ふらの牛乳」を、静かに注ぎ入れた。
赤と白の美しいグラデーション。
これぞ正真正銘、添加物ゼロの生搾り。
「完成! 恵と信長特製『富良野の恵み・究極の生苺ミルク』よ!」
「ちーちゃん! ほら、特製だぞ!」
信長が、まだヒックヒックとしゃくり上げている千姫にグラスを手渡す。
千姫は不思議そうに太いストローを咥え、ちゅぅぅっと吸い込んだ。
「……!!」
千姫の大きな瞳が、これ以上ないほど見開かれた。
「あまーい!! おひさまのいちご! ミルク、とろとろー!!」
人工的な甘さとは違う、完熟イチゴのフレッシュな酸味と甜菜糖の優しい甘さ。そして、特濃牛乳の圧倒的なコクが口いっぱいに広がる。果肉のツブツブ感も楽しい。
「ちーちゃん、これしゅき!! にぃに、ありがとう!!」
千姫は満面の笑みで、信長の汗だくの頬に「ちゅっ」とキスをした。
「うおおおおおおっ!! 疲れが全部吹っ飛んだぜ!!」
信長がガッツポーズをして天を仰ぐ。シスコン兄のHPは完全に全回復した。
その光景を見ていたAIカメラのランプが、赤から一気に緑へと変わり、激しく点滅した。
ピロンッ♪
『佐藤家:地元食材を活かした最高のおもてなしと、究極の家族愛を確認! ボーナスポイント+1000pt!』
「ガッハッハ! 終わり良ければすべて良しだ! さあ、俺たちも富良野の美味いもんを食うぞ!」
ピクニックの席には、富良野のスタッフが用意してくれた『極太アスパラガスの炭火焼き』と、前回の札幌でもらった『男爵いも』を揚げた熱々のフライドポテトが並べられた。
緑豊かな大自然の中で、新鮮な野菜の甘みを存分に味わう佐藤家と西園寺夫妻。
「佐藤さん、素晴らしい走り……いや、お兄ちゃんの素晴らしいダッシュだった! これ、富良野からの手土産だ! 最高級の『ふらのメロン』だ、持ってけ!」
丸々と太った、網目の美しい極上メロン。
トランクに甘い香りを満たして、佐藤家のエスティマは次なる目的地へ。
「次は釧路だ! 北海道もいよいよ終盤戦だぞ!」
千姫の笑顔を取り戻し、家族の絆をさらに深めた佐藤家は、霧の街・釧路へと向けて力強くアクセルを踏み込んだ。
ジャパンカップ・第17チェックポイント、北海道(富良野)。
佐藤家、四番打者の猛ダッシュと究極の生苺ミルクで、無事クリア!!




