表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運転歴20年以上!農道給食オカンがエスティマで日本横断! 〜佐藤家のご当地グルメ満期家族旅行〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/17

EP 4

津軽海峡の船酔い地獄と、オカンの特製「とろろ生姜スープ」!

青森県の大間港から、エスティマや他のラリー参加車両を飲み込んだ巨大なフェリーが出港した。

目指すは北の大地、北海道・函館港。本州と別れを告げる約1時間半の船旅である。

しかし、この日の津軽海峡は低気圧の影響でご機嫌斜めだった。

ドォォォォン……!

船底が波にぶつかる度、フェリー全体が大きく上下左右に揺さぶられる。

「うっぷ……ダメだ、気持ち悪い……」

「お、お父さん、袋……袋を……」

客室エリアは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

普段は地面スレスレのスポーツカーでG(重力)に耐えているガチ勢のレーサーたちも、不規則な船の揺れには全く耐性がなく、次々と青い顔でソファーに沈没していく。

豪華な個室を取っていた西園寺夫妻も例外ではなく、すっかりグロッキー状態で廊下のベンチにへたり込んでいた。

そんな地獄絵図の中。

佐藤家のスペースだけは、信じられないほど平和だった。

「ガー……ズー……」

信長は、座敷席の真ん中で大の字になって爆睡している。四番打者の図太い神経は、船の揺れなどどこ吹く風だ。

鷹人も「ガッハッハ! 現場の高所作業車の揺れに比べりゃ、ゆりかごみたいなもんだ!」と、持参したスルメを齧りながらテレビを見ている。

千姫に至っては、恵の膝枕の上で「ゆらゆら〜、おふね〜」とご機嫌で微睡まどろんでいた。

「あらあら……みんな、すっかり船酔いしちゃってるわね」

恵は、周囲で苦しむ参加者たちを見渡し、困ったように眉を下げた。

「鷹人さん、ちょっと千姫見てて。私、船の厨房に行ってくるわ」

「おっ、母さん。何か作るのか?」

「ええ。こういう時は、アレが一番よ」

恵はエプロンを取り出すと、青森でもらった『長芋』と、岩手の『三陸わかめ』を抱えて、フェリーの食堂の厨房へと交渉に向かった。

「ジャパンカップの参加者の皆さんを助けたいんです!」という恵の熱意(と、凄まじいオカン・オーラ)に押され、料理長は特別に厨房の端を貸してくれた。

シュッシュッシュッシュッ……!!

恵の腕がブレるほどの速度で、青森の立派な長芋がすりおろされていく。

鍋には、昆布とカツオで丁寧にとった出汁を火にかけ、そこにたっぷりの「おろし生姜」と、水で戻した肉厚の三陸わかめを投入する。

出汁が沸騰する直前、すりおろした長芋とろろをふんわりと流し込み、最後に薄口醤油で味を調えた。

「よし、完成! 恵特製『三陸わかめと青森長芋の、とろろ生姜スープ』よ!」

恵は、紙コップに熱々のスープをたっぷりと注ぎ、お盆に乗せて客室エリアへと戻ってきた。

「はい、西園寺さん! ちょっと無理してでも、これを一口飲んでみて!」

「あ、奥様……。しかし、今は何も胃に……うっ……」

口元を押さえる西園寺の旦那さんの鼻先に、フワリと生姜と出汁の優しい香りが漂った。

「あれ……? なんか、スッキリする匂い……」

促されるまま、スープを一口すする。

その瞬間、西園寺の旦那さんの目が見開かれた。

「こ、これは……!! 生姜の風味が胃のムカムカをスッと抑え込んでくれる! そして、このフワフワの『とろろ』が、荒れた胃壁を優しく包み込むようだ……!」

「生姜は吐き気を抑える特効薬なのよ。それに長芋は消化を助ける酵素がたっぷり。わかめで失われたミネラルも補給できるわ。給食で子供たちが夏バテした時の裏メニューよ」

恵が優しく微笑みながら解説する。

「おばちゃん、俺にも……俺にも一杯くれ……!」

「私も……!」

匂いにつられ、青い顔をしたスポーツカーの若者や、他の参加者たちがゾンビのように恵の周りに集まってきた。

「はいはい、慌てないで! たっぷり作ったから、並んでちょうだいね!」

恵はまるでお昼休みの給食配膳のように、次々と参加者たちに特製スープを振る舞っていく。

「うおおおっ……! 染みる……マジで美味え……!」

「とろろがフワフワで、わかめがシャキシャキだ! 胃の奥からポカポカしてきて、船酔いが嘘みたいに引いていくぜ!」

数分後。

あれほど阿鼻叫喚だった客室エリアは、恵のスープを飲んで完全復活した参加者たちの笑顔と、温かい湯気で満たされていた。

「佐藤の奥様……あなたは我々の女神です!」

西園寺夫妻をはじめ、強面こわもてのレーサーたちまでが、恵に向かって深々と頭を下げる。

もはやジャパンカップの参加者全員が、佐藤家の『オカン』の胃袋支配下ファンクラブに組み込まれた瞬間だった。

ピロンッ♪

信長のスマホが鳴る。

『佐藤家:船内における大規模な救護およびおもてなし貢献により、+800pt! 圧倒的スコアで暫定1位を独走中!』

「おっ、起きたか信長」

「ふぁ〜……あれ、なんかみんな元気になってね? っていうか、母ちゃんまたポイント稼いだな!」

信長があくびをしながら窓の外を見ると、そこには雄大な景色が広がっていた。

「見ろ、みんな! 北海道だ!!」

フェリーの窓の向こうに、函館山のシルエットと、美しくカーブを描く海岸線が見えてきた。

日本全国食い倒れラリーは、いよいよ最大の難所であり、最大のグルメの宝庫である「北の大地」へとその舞台を移す!

ジャパンカップ・第14チェックポイント(特別フェリーミッション)。

佐藤家、オカンのとろろ生姜スープで参加者全員の胃袋を掌握し、無事クリア!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ