EP 3
道を塞ぐ大木と、親方の牽引スキル! 極上・大間マグロと前沢牛の海陸丼
岩手県のわんこそば決戦を見事トップで通過した佐藤家のエスティマは、本州最北端の地、青森県・大間町を目指して緑深い山道をひた走っていた。
しかし、チェックポイントまで残り数十キロという峠道で、エスティマは突然の渋滞に巻き込まれてストップしてしまった。
「なんだ? 事故か?」
鷹人が窓から顔を出し、前方の様子を伺う。
そこには、スポーツカーやプロのラリーカー、そして西園寺夫妻の巨大キャンピングカーまでもが数珠繋ぎになって停車していた。
「あら、西園寺さん! どうしたんですか?」
恵が車を降りて駆け寄ると、西園寺の旦那さんが青ざめた顔で前方を指差した。
「おお、佐藤さん! 実は昨晩の春の嵐で、巨大な杉の木が根元から折れて、完全に道を塞いでしまっているんです。運営の重機が到着するまで2時間はかかると……」
見れば、直径1メートルはあろうかという巨大な倒木が、二車線の道路を完全に封鎖している。
車高の低いスポーツカー勢はバンパーを擦るため近づくことすらできず、ドライバーたちは「これじゃタイムオーバーで失格だ!」と頭を抱えていた。
「2時間待ち……? 冗談じゃねえ、そんなに待ったら腹が減っちまう!」
後からやってきた信長が文句を言う。
「おう。飯の時間が遅れるのは大問題だ。……おい母さん、エスティマのフック、頑丈だったよな?」
鷹人がニヤリと笑い、トランクから太さ5センチもある工事用の牽引ロープを引っ張り出してきた。
「ええ、もちろん。雪の日に側溝に落ちた給食トラックを引き上げたこともあるわよ」
恵も、鷹人の意図を察して袖をまくり上げた。
「よぉし! 現場の障害物撤去は『佐藤組』の十八番だ! 信長、手伝え!」
鷹人は倒木に駆け寄ると、あっという間に牽引ロープを杉の木に巻きつけ、プロの職人技である『もやい結び』でガッチリと固定した。そして、もう一端をエスティマのリアバンパー下にある牽引フックに引っ掛ける。
「おいおい、嘘だろ!? ファミリーカーであんな大木を動かせるわけないぜ!」
「スリップしてタイヤが焼けるか、バンパーがもげるのがオチだ!」
他の参加者たちがどよめき、止めに入ろうとする。
しかし、運転席に乗り込んだ恵の表情は、給食の火加減を見極める時のような極度の集中状態に入っていた。
「鷹人さん、信長! 合図したら押して!」
「おう! いつでも来い!」
恵がギアを入れ、アクセルをじわりと踏み込む。
ブゥゥゥン……!
エスティマのエンジンが唸りを上げる。だが、タイヤは空転しない。
ここからが、恵の『神の半クラッチ(オートマ車のクリープ現象と絶妙なアクセルワークの融合)』の真骨頂だった。タイヤが滑り出すギリギリの摩擦係数を足の裏で感じ取り、エスティマのトルク(引っ張る力)を100%、ロープへと伝達していく。
ギリギリギリッ……!
ピンと張られたロープが悲鳴を上げる。
「今だ信長!!」
「うおおおおおおっ!!」
四番打者の筋力を爆発させた信長と、土建屋の親方である鷹人が、木の幹を全力で押し込む。
恵の神ドラテクと、男たちの物理パワーが完全に融合した瞬間。
ズズズズズズッ……!!
なんと、重機でなければ動かないはずの巨大な杉の木が、凄まじい音を立てて道路の端へと引きずられていったのだ。
「「「おおおおおおおおっ!!!」」」
道が開けた瞬間、立ち往生していた参加者たちから地鳴りのような歓声が上がった。
「すげえ!! ファミリーカーで大木をどかしやがった!!」
「ありがとう、おばちゃん! これで失格にならずに済むぜ!」
道を開いた佐藤家のエスティマは、参加者たちのスタンディングオベーションに見送られながら、悠々と大間町への道を駆け下りていった。
そして到着した、第13チェックポイント・大間港。
トラブルを自力で解決した佐藤家を待っていたのは、大間が世界に誇る『黒いダイヤ』だった。
「ようこそ大間へ! 倒木撤去の活躍、運営から聞いてるど! さあ、大間名物・本マグロの解体ショーだ!」
ねじり鉢巻の漁師が、巨大な本マグロを鮮やかな手付きで捌いていく。
切り分けられたばかりの、大トロ、中トロ、赤身が輝くばかりの美しさで丼に盛られる。
「ちょっと待って! 最高のマグロ丼に、さらに極上のトッピングをさせて!」
恵がクーラーボックスから取り出したのは、岩手県でもらった『前沢牛の切り落とし』だ。
恵はそれをバーナーでサッと炙り、肉の脂を極限まで引き出した状態で、マグロ丼の上へ豪快に乗せた。
「完成! 大間本マグロと前沢牛の『海陸最強コラボ丼』よ!」
「うおおおおっ!! マグロの脂と、和牛の脂が丼の中で光り輝いてる!!」
信長がたまらず醤油をひと回しし、丼をかき込む。
「んんんんんんっっっ!! 大トロが口の中で溶ける! そこに前沢牛の香ばしい肉汁が合わさって、もうどっちが肉でどっちが魚かわからねえ!! 美味すぎる!!」
「ガッハッハ! 肉と魚の四番打者が同じチームにいるようなもんだな!」
鷹人も豪快に笑いながら、夢中で海陸丼を平らげていく。
「ちーちゃんは、これー!」
生魚がまだ食べられない千姫の前に運ばれてきたのは、青森名産の『ふじ』を丸ごと使った、果汁100%の搾りたてリンゴジュースだ。氷の代わりに、凍らせた角切りリンゴがゴロゴロと入っている。
「ちゅぱっ……ん〜〜〜っ! あまずっぱくて、おいしー! ちーちゃん、あおもりしゅきー!」
満面の笑みでリンゴジュースを堪能する千姫の姿は、今日も今日とてAIカメラの癒やしポイントを荒稼ぎしていた。
『佐藤家:緊急事態におけるコース復旧貢献により、特別おもてなしポイント+1000pt! 暫定1位を独走中!』
もはや誰にも止められない佐藤家の快進撃。
「佐藤さん、これ青森からの手土産だ! 『長芋』と、大量の『青森りんご』! 北海道でも美味いもん作ってけろ!」
トランクに新たな食材を積み込み、佐藤家はいよいよ津軽海峡を渡るフェリー乗り場へと向かった。
次なる舞台は、果てしなく続く直線の試練が待つ、北の大地・北海道だ!
ジャパンカップ・第13チェックポイント、青森県。
佐藤家、大木撤去の物理無双と海陸最強コラボ丼で、無事クリア!!




