第二章 北の大地・爆走編
新ルール発表と、立ち往生した超高級キャンピングカー! 絶品・牛タンいかにんじんダレ
福島県のリゾート施設を満喫し、佐藤家のエスティマは次なるチェックポイント・宮城県仙台市へと入っていた。
その道中、カーナビの画面に突然『ジャパンカップ運営委員会』からの特別放送が割り込んできた。
『参加者の皆様、東北エリア突入おめでとうございます! ここで、現在の暫定ランキングと、本大会の【真のルール】を発表します!』
「おっ、なんだなんだ?」
鷹人が身を乗り出し、後部座席の信長もナビを覗き込む。
『本大会はスピードだけを競うものではありません! 目的は日本全国の町おこし。各県での【おもてなしの堪能】、【地元食材を使った料理】、そして【参加者同士の助け合い】が、AIカメラとスタッフの報告により【おもてなしポイント】として加算されています!』
「なるほどな! だから俺たち、行く先々で飯食ってご当地食材で料理してただけで、上位にいるのか!」
鷹人が膝を打ってガハハと笑う。
『現在の暫定トップグループには、プロのラリーチームや高級スポーツカー勢に混じって……なんと、愛知県から一般参加の【佐藤家】がランクインしています!』
「うおおおおっ!! マジかよ!! 俺たちトップ争いしてんのか!?」
信長が歓喜の雄叫びを上げた。
「あらやだ。ただ美味しいもの食べて、もらったお野菜でお料理してただけなのにねえ」
恵はハンドルを握りながら、クスクスと笑った。
そんな和やかな雰囲気の中、仙台市の中心部へ向かう細い裏道に入ったところで、エスティマの前方に大渋滞が発生していた。
「なんだ? 事故か?」
鷹人が窓から顔を出すと、前方で信じられない光景が広がっていた。
住宅街のクランク(直角のカーブ)で、まるで要塞のような巨大な海外製の超高級キャンピングカーが完全に立ち往生していたのだ。車体が大きすぎて、電柱とブロック塀の間に挟まるようにして身動きが取れなくなっている。
後続の車からクラクションが鳴らされ、キャンピングカーの中から、品の良さそうな白髪の老紳士と夫人が青ざめた顔で降りてきた。
「ああ、お父さん。どうしましょう。このままじゃ車が傷ついてしまいますわ」
「ううむ……これ以上バックしても、壁にぶつかってしまう……」
彼らは、悠々自適の老後を楽しむためにジャパンカップにエントリーした大富豪・西園寺夫妻だった。しかし、数千万円の巨大キャンピングカーのサイズ感を全く把握できておらず、仙台の裏道で完全にパニックに陥っていた。
「チッ、おい! 早くどかせよ! レース中なんだぞ!」
後ろのスポーツカーに乗る参加者が怒鳴るが、西園寺夫妻はどうすることもできずオロオロするばかり。
「……ちょっとお父さん、信長。行ってくるわ」
恵がエスティマのパーキングブレーキを引き、車を降りた。
「あらあら、大丈夫ですか? ちょっと運転席、失礼しますね」
「えっ? あ、奥様、しかしこの車は左ハンドルで……」
「平気平気。給食センターの4トントラックに比べたら、視界が広くて乗りやすいわ」
恵は西園寺夫妻を助手席に押し込むと、躊躇なく数千万のキャンピングカーの運転席に座り、エンジンを吹かした。
恵の脳内にある『オカン・センサー』が、車体の四隅と障害物との距離をミリ単位で弾き出す。
「はい、お父さんは外で電柱との隙間見てて! 信長は後ろの壁!」
「おう! あと10センチいけるぞ!」
「母ちゃん、後ろはあと5センチ!」
「了解。それじゃあ、ちょっと内輪差を使って……と」
ブゥゥォォォン……!
恵がハンドルを小刻みに切りながら、絶妙な半クラッチ(アクセルワーク)で巨大な車体をジワリと動かす。
電柱と車体の隙間、わずか2センチ。
壁とバンパーの隙間、わずか1センチ。
まるで巨大な知恵の輪を解くように、恵はキャンピングカーを滑らかに後退させ、あっという間に広い大通りへと脱出させてしまったのだ。
「「「おおおおおおっ!!!」」」
周囲の参加者と地元民から、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「す、素晴らしい……! まるで手足のようにこの巨大な車を操るとは! あなたはプロのレーサーですか!?」
西園寺の旦那さんが、目を輝かせて恵の手を握る。
「いえいえ、ただの給食のおばちゃんです。毎日狭い通学路を走ってますから、これくらい慣れたものですよ」
恵がエプロンのシワを伸ばしながらニッコリと笑う。
「命の恩人です! さあ、お礼に最高のランチをご馳走させてください! 仙台といえば、牛タンです!」
こうして佐藤家は、西園寺夫妻のツテで、予約困難な仙台の老舗牛タン専門店『極』のVIPルームへと案内された。
ジュワァァァァァッ!!
目の前の炭火で焼かれるのは、普通の焼肉屋ではお目にかかれない、厚さ2センチはあろうかという超極厚の牛タンだった。
表面には綺麗な網目がつき、滴り落ちる肉汁が炭に落ちて香ばしい煙を上げる。
「うおおおおっ……!! 分厚いのに、歯がスッと入る! 噛むたびに肉汁の洪水だ!!」
信長が、麦飯に牛タンを乗せて猛然とかき込む。
「西園寺さん、最高のお肉をごちそうさまです! ……あ、そうだ! すみません、ちょっとトランクからあれを取ってきます!」
恵がエスティマから持ってきたのは、福島県でもらっていた郷土料理『いかにんじん』だった。
恵は厨房を少し借りると、いかにんじんを細かく刻み、たっぷりのネギとごま油、そしてレモン汁を混ぜ合わせた。
「はい、恵特製『いかにんじんのネギ塩ダレ』よ! これを牛タンに乗せて食べてみて!」
西園寺夫妻と鷹人が、その特製ダレを乗せた牛タンを口に運ぶ。
「こ、これは……!!」
西園寺の旦那さんが目を見開いた。
「牛タンの濃厚な脂を、ネギとレモンがさっぱりと流し……そこに『いかにんじん』のイカの旨味と、ニンジンのコリコリとした食感が奇跡のようなハーモニーを奏でている!! 美味しい! 美味しすぎます!!」
「ガッハッハ! うちの母ちゃんの飯は世界一だからな!」
鷹人が自分のことのように胸を張る。
「ちーちゃんは、これー!」
辛いネギ塩ダレが食べられない千姫の前には、仙台名物の『ずんだ(枝豆のペースト)』を使った特製『ずんだミルクシェイク』が置かれていた。
「あむっ……! ん~~~っ! おまめのあじがするけど、あまーい! ちーちゃん、みどりのいちごみるくもしゅきー!」
口の周りを薄緑色に染めながら満面の笑みを浮かべる千姫に、西園寺夫人は「まあ、なんて可愛らしい天使かしら!」とすっかりメロメロになっていた。
食事を終えると、西園寺夫妻は佐藤家に向かって深々と頭を下げた。
「佐藤家の皆様、我々西園寺夫婦は、あなた方の大ファンになりました! この先もどうか、安全運転で一緒に走り抜けましょう!」
「ええ! もちろんよ。困ったことがあったら、いつでも呼んでくださいね!」
エスティマと超高級キャンピングカー。
全く不釣り合いな二台の車は、固い絆(と牛タンの匂い)で結ばれた。
ピロンッ♪
その時、信長のスマホに大会運営からの通知が届いた。
『佐藤家:交通トラブル解決(+500pt)、ご当地コラボ料理(+300pt)。現在、暫定ランキング第3位に浮上!』
「っしゃあああ! この調子で北海道までぶっちぎるぞ!!」
ハワイと一千万、そして全国の絶品グルメを目指し。
佐藤家のエスティマは、西園寺夫妻という強力なファンを獲得して、次なるチェックポイント・岩手県へと向けて走り出した!
ジャパンカップ・第11チェックポイント、宮城県。
佐藤家、神ドラテクによる救出劇と、いかにんじん牛タンで無事クリア!!




