第二十九話 大永四年、漂流
この作品は、歴史的な史実とは別次元の物語です。
妄想的で非常識、そして変態的な展開ではありますが、
今後ともよろしくお願いいたします。
夜の伊豆浦賀に、ペリーの黒船ではなく、三十メートルのキャラック船が停泊していた。幻庵(高橋是清)からの要請で、「至急現地に向かってくれ。今、戦で忙しくてな」とのこと。俺は浦賀の海軍基地へと向かった。最近ゴムを入手して制作した自転車で、海沿いを約七十キロ、浦賀を目指す。日の出近くに到着した。
くたびれた様子の男性西洋人が四人、代表者と見られる。彼ら、臭い連中を武装した兵士が遠巻きに取り囲んでいた。他の船員は三十人ほどで、別室で具入りのお粥と木製のスプーン付きで支給されており、腹が満たされて少し落ち着いているようだった。
一番高そうな服を着ている男の前に行き、ポルトガル語で尋ねた。
「お前たちは何者で、何の目的でここに来た」
男はギョッとして目を向けた。
「私たちポルトガル国から来た、アウミール・ヌーネスです。インドに向かう途中で嵐により水先案内が死亡して……」
「約半月放浪して、海峡で地元海賊の襲撃を三度しのぎ、北へ向かう潮に流されて灯台の光が見えた時には……」
「敵であろうが味方であろうが、もう限界だった」と、男は早口で一気に話し終え、「ふぅ~」と息を吐いた。
「なるほど、分かりました。現状から見て侵略者ではないことは分かりました。ただし、あなた方はインドを侵略して、いずれこの国も……などと考えてはいませんか? それと、宗教を広め浸透工作を……修道士はいないようですね」
驚いた顔で、「私はただの船長で、何の権限もありません。政治と権力から離れています」と言って、無害な漂流者です、みたいな顔をする。
言っていることは本当だと思う。異国で、俺以外に話が通じない心と体がボロボロの外国人をとがめても仕方がない。ここで本日の尋問を終了することにした。
翌日、体を石鹸で洗い、着物を与えられ、軽い食事も与えられたアウミール達と面会した。色々な話の中で、彼は歴史的に有名なヴァスコ・ダ・ガマのいとこらしい。インド航路開拓と貿易の先駆者だ。主に香辛料を求めて航行していたという。アウミールは石鹸と着替えの時に使った姿見が大変気に入り、「ぜひ売ってくれ」と言う。
「アウミール、あなたは何を売ってくれますか?」と尋ねると、
「直道、何が欲しい? 武器か? 香辛料か?」
「コショウ、サフラン、クローブ、シナモン、ナツメグ、カルダモン等の香辛料も必要だが、優先順位は下だ」
「上からサツマイモ、ジャガイモ、玉ねぎ、トマト、キャベツ、コーヒー生豆、西洋ホップの苗、ワイン用ブドウ苗、砂糖、それとアラブの馬やヤギと乳牛と羊と硝石、かな」と、食料から家畜、香辛料と答える。今夜、食事をすることを約束して解散した。
広い会議室では船員に温かい食事とお酒を用意し、アウミール達は別室、海が見える部屋で幻庵(高橋是清)を招いて会食をした。幻庵(高橋是清)を紹介し、この国の成り立ちを含め、北条の立ち位置などを説明し、今後の方向を話し始めた。まず船の修理が必要だ。次に武器弾薬の不足と、壊れた大砲の交換。最後に水と食料の補充で完了する。
船の修理は破損箇所が少ないためすぐにできる。次の弾薬は黒色火薬と鉛玉は用意できる。大砲は、同じ口径の別物を揃えるか、全部新しいものに交換するか、考えどころだ。提案は、新しい大砲に交換し、それに見合う商品を取引すること。適正価格で取引をすること。アラブの商人のような商売はお互いしない。最後の水と食料は問題なし。
以上が話のあらましだ。アウミールは、異国でパンとワインとチーズに鹿や猪の肉料理、肉ベースのスープなどを食べることに、「この国は我が国と同じものを食べるのか」と驚愕していたが、「北条だけですよ」と教えてあげた。最後に、
「それと今後、商売がうまくいけば壊血病のヒントを教えてもいいよ」と急に立ち上がり、こちらを睨んでいた。興奮が収まり、「ぜひ! 教えてくれ」と懇願してきた。
一ヶ月後、希望の姿見や手鏡、石鹸、上級品の刀や銀のスプーンとフォーク、何故か三徳包丁、ワイングラスとウイスキーと煎茶と紅茶などを箱に詰めて、横須賀のドックに搬入した。帰りは、インドまで海軍の演習を兼ねて護衛で三隻同行し、商売もしてくる予定である。相模屋さんで三名ほどポルトガル語取得のためにアウミールに同行する。日本初のポルトガル行きだ。無事に帰ってほしいものだ。
幼稚で語彙力が乏しいことは自覚しておりますので、
誤字のご指摘は大歓迎です!
最後までお読みいただき、ありがとうございます




