第二十五話 永正十五年、隠居と継承
この作品は、歴史的な史実とは別次元の物語です。
妄想的で非常識、そして変態的な展開ではありますが、
今後ともよろしくお願いいたします。
早雲さんは家督を嫡男氏綱に譲り、ご隠居生活に入っていた。最近は幻庵(高橋是清)と一緒に、俺の元へ様子見に来ている。
「船の進み具合はどうなんだ」
幻庵(高橋是清)に問われ、俺は蒸気船の進行状況を説明した。歩兵二百名、騎馬百名が乗船できる揚陸艦や、歩兵百名が乗れる上陸用舟艇を小型の帆船風に偽装している段階で、二十隻が完成している。
早雲さんは幻庵(高橋是清)に四千四百貫の所領(箱根や久野)を与えた。俺の拠点が丸ごと含まれた相続だ。早雲さんは幻庵(高橋是清)に、氏綱さんを裏から支える役目を託されたわけか。危険な物を作る俺が、表立って目立つわけにはいかない。
芳と皐と春さん、それに夕たちとお茶を頂いている。お茶を飲んで不意にコーヒーの事を思い出し、「今は無理だ」と頭の中の記憶を無理やり消し、シュークリームを一口食べた。芳と皐と春さんの食べ方を見て同じリアクションをしている。三人の遺伝の素晴らしさにしみじみしているところに、早雲さんの韮山城での死去の連絡がきた。高齢なのは仕方がないが、家督を譲る前あたりから衰えた雰囲気があったし、史実どおりになった。
十日後、墓参りをしてから氏綱さんの所に深蒸し煎茶と新作カステラを持って城に伺った。奥方様やお子、多分氏康だと思うが、甘い匂いがする菓子に興味津々で落ち着かない様子だ。お悔みを申して、帰路についた。
永正十六年、氏綱さんは早雲さんの政策を継承して、小弓公方・足利義明と真里谷武田氏の支援のため、房総半島に出兵し、藻原まで進軍した。幻庵(高橋是清)は揚陸艦と上陸用舟艇の試験運行と軍事行動の訓練を兼ねて数往復し、自軍の練度を確認した。前世は軍人ではないが、この時代ではそう言うわけにはいかないし、昭和に戦争を経験した人物の覚悟は違う。
新しい海軍の作戦行動に関しては、幻庵(高橋是清)に俺の隊での経験を端折って教本と教科書を作り提供した。その資料をもとに私塾(士官学校)で教えられた士官が、軍事行動の指揮を執っている。
進軍したが、その後は軍事行動を控えていた。これは、武蔵国を巡って北条氏と対立関係にあった扇谷上杉家が共に足利義明を支持する立場となったために、両者が和睦の状況にあったからだが、氏綱さんは何か仕掛けると思う。
氏綱さんと幻庵(高橋是清)がお揃いでやってきた。
「遺言により、直道と芳に百貫と牝牛一頭を与える」とニヤリと笑う。
「は、は……有難くお受けいたします」と言うと、早雲さんの悪戯と氏綱さんのおふざけだと理解した。牛は有難い、チーズの需要が増えましたからね!それから、ピザと冷えたビールをお出しして会食した。
帰る前に護身用の九式小銃(H&K VP9)の日本仕様のピストルを二人に渡し、離れの射撃場で簡単な説明をした。金属の的に実演して見せると、二人も射撃をして命中率に満足していた。ケースと弾薬を持った氏綱さんは帰っていった。ちなみに小太郎のピストルはサプレッサー付きだ。忍びだからね。
朝孝(塚原卜伝)が帰ってきた。村だったこの地が町に変わっていることに仰天していた。それだけ、年月が過ぎたのだなと思いを巡らせていた。妻たちと子を紹介すると、
「三人も娶ったのか?」
と言うので、慌てて「春さんはお姑さんです」と否定したが、春さんは若く見られたせいか機嫌はよくなった。
「よかったら私も、嫁に行こうか!!未亡人だし!」と上機嫌で冗談を言う始末だ。
風呂で旅の疲れを取ってもらい、その後は宴会だ。朝孝(塚原卜伝)は足利義澄の遺児足利義晴を守って奮闘を続けたが、大内義興の山口帰国を機に鹿島に戻ってきた。早雲さんが亡くなった事や、氏綱さんが現在当主だとか北条の話をして、宴会は続いた。ある者は酒の旨さに沈み、ある者は美味しい物に溺れ、甘味の毒にハマっていった。
次の日、刀の点検をした。四年から五年経って激しく使用された刀を見て、凄い人生を歩んでいる朝孝(塚原卜伝)を二度見してしまった。三本ある高級品の内、気に入った二本を選んでもらった。
「忝い。お前(刀)に、命を何度も救われた」と深々と礼をした。
「刀が悪くて、不覚を取られるのはごめんだから」と言って、古い刀と交換した。
その日の内に鹿島に向かった。
これから、鹿島神宮に千日参籠して秘剣「一つの太刀」を完成させるまで、再会はないだろう。
幼稚で語彙力が乏しいことは自覚しておりますので、
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