第二十三話 永正七年、収穫と選択
この作品は、歴史的な史実とは別次元の物語です。
妄想的で非常識、そして変態的な展開ではありますが、
今後ともよろしくお願いいたします。
ここに来てから、五年という歳月が流れた。その間に、河川工事や区画整理をはじめ、近くの田んぼから始まった米の増産方法は、小田原から北条領内へと瞬く間に広まっていった。その結果、収穫量は十倍に跳ね上がり、農民も北条家も驚くほど豊かになった。麦畑も含め、農地面積も年々拡大の一途をたどっている。田には不向きな土地でも、お茶や葡萄、ミカンなどの生産が行われ、もはや食の心配は一切なくなった。
収穫した作物には、さらなる付加価値を付けて加工販売する。特に酒は、需要と供給のバランスが崩れて高値で取引されていた。春さんは別の酒蔵に技術を提供したり、工場を増やしたりした結果、酒関連だけで工業団地が形成されるほどだ。黒壁が永遠に続くような異様な光景が広がっている。
我が家では、新しい甘味のメニュー開発に取り組んでおり、その味見には食堂のおばさまたちと春さん、芳、皐、そして夕が欠かせない。春前から取り組んでいた簡易冷蔵の技術で、それなりに冷える環境が整い、試作のプリンは皆に大好評だった。
仕事終わりに家でまったりとしていると、芳が「話がある」と言う。ややこしいことになりそうだ、と思いながら、私は頭の中で様々な可能性を巡らせていた……。
「夕の事、どうするつもりですか!」
どうする?何もしていないのだが、と私は心の中でつぶやいた。
「嫁にもらうか、嫁に出すか。このまま家に縛るのは可哀そうです。」
芳の言葉に、私は返す言葉が見つからない。
「夕の気持ちはどうなんだ。勝手に押し付けるわけにはいかない……。」
「貴方、夕の気持ちに気付かないのですか!夕は貴方がここに来てからずっと、貴方に気持ちをよせていますよ。」
芳の言葉に、私はただ呆然とするしかなかった。鈍感な自分が憎い。
翌日、私は友蔵さんのもとへ、具体的な話をしに行った。
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その頃、関東では公方足利政氏の子、高基を巡る争いが勃発していた。山内上杉家でも顕実と憲房の相続争いが激化。この二つの争いが融合し、政氏が顕実と結び、高基が憲房と結んで両陣営が激しく戦い合ったのだ。結果として憲房が関東管領となり、上杉家は憲房のもとに統一された。高基も公方の座に就いたものの、公方家は統一されず、まさにカオス状態。これが世に言う「永正の乱」である。
戦が続いたおかげで、兵糧や酒、お茶、そして甘味などが飛ぶように売れ、我々は莫大な利益を上げた。数量限定の松田屋の純米大吟醸は、帝にも献上され、ついでに将軍にも献上している。敵対する両上杉家や武田家、公方家なども、我々の商品をこぞって買ってくれる。
堺の豪商や同盟を結ぶ今川家も含め、その人気は絶大だ。堺では価格が何倍にもなっていると聞くが、詳細は知らない。各地に商品が流れ、関東はもとより、尾張や越後からも商人がやって来るようになった。
相模屋製の例のポンプやストーブも飛ぶように売れている。ポンプはまだしもストーブはかなり重い。そこで私は馬車を作ることにした。はじめは荷車を想定していたが、遠方から来る商人や領内の峠越えには荷車では厳しいため、馬一頭で引ける軽い幌馬車モドキを製作。それが領内を移動していると、「それも売ってくれ」という要望が上がり、馬車工場を作り販売するに至った。自動車ができれば廃業になるだろうが、設計図は残して保管している。
関東のお偉方が内輪揉めしている間、関係のない我々は数年をかけて工場の生産性を上げていった。特に軍事に関わる装備は必須である。隊にいた時の装備を再現するために、基礎から積み上げる作業の繰り返しだ。小規模な化学工場や精密機械を作る精密工場などを増やしていった。
幻庵(高橋是清)からは、教育関連の紙や印刷機、資源情報まで提供され、それに基づいて鉱山用の掘削用工具やトロッコなどを制作した。トロッコを引く動力が必要となり、焼き玉エンジンや蒸気動力の開発に着手している。
仕組みは分かっても、それを制作する機械がなければ始まらない。そして、ここには何もないのだから、すべてを一から制作するしかない。紙の生産の機械化も、完璧とはいえないが、この時代としては及第点だろう。印刷機は完成しそうだが、インクの原料が今一つで改良を続けている。前世の基準で見てしまうから厳しくなるが、形になるまで永正九年までかかった。
工場が増えると働く人口も増え、小田原から酒匂川の上流まで長屋の軒数も増えてきた。金持ちや特定の家臣に大家権利を売買し、長屋の住民と長屋の管理をさせている。前世でのアパート経営だが、この時代は住民が犯罪者になると大家の責任が発生する、リスクの高い仕事だ。
江戸時代の長屋にはレンタル屋があり、買わずに借りる店がここでも営業している。大家が長屋の共有スペースを住民総出で掃除したり、棒手振りが朝の長屋で売り歩いたりする様子は、まるで落語の長屋話しの世界そのものだ。
幼稚で語彙力が乏しいことは自覚しておりますので、
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