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プロローグ

 そこには、破壊があった。

 そこには恐怖と悲しみの声が響いていた。

 そこには…一人の少女がいた。

「…っ」

 遠く広がる都市の一角。

 そこでは、空に瓦礫が舞い上がり、少し離れた場所では実体ある住人と実体なき透けた住人が逃げ回っている。

 絶え間なく破壊の音が響き、瓦礫が飛来する中、少女はただ走る。

 向かう場所はたった一つ。

 眼前に見える、灰色の巨大な人型のいる場所だ。

「……」

 彼女はある者の名を呼ぶ。そしてその胸元には、抱え込まれた一つの袋があった。

 中身があるのか、紙製のそれは少し膨らんでいる。

 彼女はそれを抱え、必死に走っていく。

 今は確かな形を持つ体で、ひび割れた地面を踏みしめていく。

「…」

 ただ、向かうだけなら今のような体である必要はない。

 他の透けた者たちと同じように、不確かな体を持つ存在、[不確定存在者]として宙を飛んでいけばよい。

 だが、それではいけないのだ。

 何物にも触れられないその体では、今持つものを持ってはいけない。

 約束の作品を持ってはいけない。

 だから、服が必要だった。腕と足首の輪と共にすることで、その身の過剰な変化を押さえ、確かな形を得るために。

 そうして彼女は仮の確かな体を持つ存在としてその地、[フォレスト・アラヤ]を走る。

「…私は」

 少女は前を、前方をしっかりと見なおす。

 その先にいる巨大な人型…都市にあるものと一つとなって暴れる、彼女の大事な相手を、視界に、意識の内に捉える。

「…謝りたい」

 人型は暴れる。

 特別な存在としての力をいかんなく発揮し、しかし自身を制御できず、感情の赴くままに、破壊をまき散らす。

 そんな仲であろうと、少女は恐れず走る。

「…私は傷つけた」

 少女は呟く。

「私を進ませてくれたあなたを…妹のような、大切なあなたを…傷つけた」

 だから、と少女は言う。

「私は謝りたい…いいえ、謝る、謝るわ…!」

 少女の胸に抱かれた袋が、両腕に締め付けられる。

「それでこれをちゃんと、贈りたい。だから…!」

 彼女は…[不確定存在者]の一人、良衣美(いいみ)るいは全力で走る。

 大事な彼女の下へ。

 破壊と守護、不安と悪意の渦巻く都市の中を、必死に進んでいく。

 

▽―▽


 そこは、開拓時の失敗により、確かなものと不確かなものが混ざり合い、共存する星。

 [不確星アグラーヤ]である。



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