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2.私、馴染む?

 日が沈む前に、アキド村に到着した。



 ゲーテさんから小さな「村」と聞いていたから、竪穴式住居が集まった集落みたいなものを想像していたが、良い意味で想像を裏切られた。

 

 私の前には、「村」と呼ぶよりは小さな「町」と表した方がいいほどの町並みが広がっている。

 中世ヨーロッパを彷彿とさせるバロック様式の家屋が立ち並び、道も大通りらしきところは煉瓦で舗装されているようだった。



 ーーでも今はその美しく珍しい景色に感心している場合ではない。


 なぜなら、今から村長に会うことになっているからだ。

 私が村においてもらうのには一応許可がいるのだそうだ。


 そりゃあ、そうだ。

 

 見知らぬ人間をおいそれと村にはおけないだろう。これからのことを考える。


 村で一番偉い人に会うのだ。


 小心者の私は震えが止まらない。もしここで、村長に嫌われてでもしてみろ、村にいる許可をもらえないかもしれない。

 最低でも村のはずれで野宿させてもらう権利を獲得しなければ。


 私がカチコチに緊張していたら、ゲーテさんにバンッバンッと背中を叩かれ、大笑いされた。

 

 こっちは生きるか死ぬかの大一番なのだ。笑わないでほしい!



 荷馬車に揺られて10分ぐらい経っただろうか、村でひときわ高い丘の上に屋敷のようなものが見えてきた。あぁ、胃が痛い。

 そうこうしているうちに村長の家に着いてしまった。ゲーテさんがノックする後ろで肩をすぼめて待つ。


 三回目のドアのノックの後にゆるゆるとドアが開いた。

 中から出てきたのはゲーテさんによく似た青い瞳と、銀髪をもつ50代くらいであろうおじさんであった。

 彼はゲーテさんをちらりとみて苦虫を噛み潰したような顔をした後、私を見下ろした。


 その瞬間、彼は目玉がこぼれ落ちそうになるほど目を見開き呆けた顔をした。


 なるほど、彼は私と同じく小心者でよそ者の登場に吃驚したのであろうか。そんなわけがない。


 バンッ!!!


 私が呑気な事を考えているうちにゲーテさんごと村長は消えてしまった。

 ドアは閉まっている。私は悟る。


ーーあ、これは、受け入れてくれなかったパターン??


 最も恐れていた事態がこうも簡単に訪れてしまうとは。冷や汗が止まらない。



 私がおろおろとしていると暫くした後、ゆっくりとドアが開き、ゲーテさんがでてきた。


「ちょっと中で待っていてくれるかい?」


そう言われて、客間のような場所に連れてこられた。

 

 今から、何が起こるのだろうと内心ヒヤヒヤしていたが、いくら待っても彼女たちは部屋には現れなかった。

 しかし、彼らが家にいることは確かだ。それどころか、どうも、先程から沢山の人がこの屋敷に来ているらしい。

 足音が沢山聞こえるのだ。

 内容までは聞こえないが話し声は聞こえる。

 客間から玄関までは近くはない距離出会ったことから、そうとうな人数がいるのだろう。

 誰かが大声で話し始めると皆が静まった。男の声だ。      ともすれば村長であろう。


 彼は長々と話しているが内容は聞こえない。

 彼が話し終わったであろう後、違う男の声がする。


 村長と私のファーストコンタクトは最悪だった。私の処刑方法でも話し合っているのだろうか。


聞きたい。聞きたい。内容が知りたい。


と、思ったが客間をこっそり抜けて盗み聞きするなんて勇気もなく、

結局、私は聞き耳をたてるのをやめて、自分の心を飲み込むかのようにテーブルの上に用意されていた紅茶を一気に飲み干した。



 それから1時間ぐらい経った後、客間のドアが開いた。

 ドアから見えたのは村長の顔だった。

 しかし、先程とは違い、頬の辺りが痛々しいほどに腫れ上がっている。

 あまりの痛々しさに自分も頬が痛くなったような気分でいると、村長はこっちに来いとばかりに手招きをした。

 客間から出て長い廊下を歩く。


「あ…、あの、顔、大丈夫ですか?」

鼻から血が出ていたので思わず問いかける。


「あぁ、たいしたことない。さっきいきなりすまなかったなぁ。少し焦っちまって…」


焦る??なぜ焦るのだ??


「私、何か良くないことをしましたでしょうか?」

私がそういうと彼は少し空を見つめた後、穏やかに微笑んだ。


「いや、、ただ俺が突然来ちまったゲーテに驚いちまっただけだ。。。」



う、、、、う、、嘘だ。。。。。



この人は何て嘘を着くのが下手くそなんだ。

絶対、ごまかす理由考えてた。彼は確かにゲーテさんを見て嫌そうな顔をしていたが、驚いたのは私を見たからだ。


 なぜ?ごまかす?

 私、存在が危ぶまれている感じですか??やっぱり処刑なのか??



 気づいたら玄関前のホールに着いていた。そこには人がたくさんおり、不思議なことに若者はいないようであった。彼らは、初めて会った時の村長のように、私を見て目を白黒させた。


「ほんとうじゃったとは、、、」

「とんでもないことになったわね…」

「ゲーテが連れてきたのだろう…」


 皆、細々と独り言をおっしゃている。みんながみんな私を見て様々な表情をする。


 私の何がダメなのだろうか?見た目であろうか?確かに見た目に関しては良くはないし、どちらかと言えば悪いだろう。

 しかし、生理的に受け付けないまでにはいかないであろうと信じていたのだ。

 こ、これはかなり堪える…。


 不意に、肩に手を置かれた。振り向くとニコニコのゲーテさんがいる。


「挨拶しておやり。」

おばあ様な見た目に反して、豪快な彼女の優しさに涙が出そうになる。


最悪であろう印象を少しでも良くしようと、笑みを浮かべ、声を張る。


「こんばんは、初めまして。橘 波瑠と申しまちゅっっっ!!」



ーーーやっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。


噛んだ。盛大に噛んだ。こんな大切な場面で。

きっと、私は恥ずかしくてゆでダコ状態だろう。誤魔化そうにももう遅い。頭の中が真っ白になり、処刑の2文字が浮かぶ。


ふふっと誰かが笑いだしたのを皮切りに目の前の大衆が盛大に笑い始めた。笑い声がどんどん大きくなる。私は恥ずかしくて死にそうだ。すると、一人の男の人が声をあげた。


「そんな緊張するなよ、嬢ちゃん。俺はアイクって言う。木こりをやってるよ。かみさんのジェーンだ。」

「うふふっ、よろしくね。」


「なにも採って食いやしないよ!私はミーテってんだよ。ゲーテの姉でパン屋をしてるよ!」


 そこから、どんどん自己紹介が始まりだした。

 村のみなさんの顔と名前を覚えることにいっぱいいっぱいになって、恥ずかしかったことなどすっかり忘れていた。

 どうやら皆さんは私の事を受け入れてくれているようだった。

 嬉しさのあまり、感極まって泣いてしまった私を皆さんは笑いながら慰めてくれた。


 私は、なんとなく、彼らとよい関係が築いていけるような気がした。







ーーーいやいやいや、流されるんじゃない!!

 この時、気づいていたらあんなことになんてならなかったはずた!!


 と、未来の私はこの時の私を打ったそうな。

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